2000年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

1999年の回顧と2000年の展望 -4-


(4)新たな注目点

さて、メディアビジネス/ブロードバンドの分野で、上に述べてきたこととは別に、2000年に注意して見てみようと思っているところを2点挙げておきたい。

第1は、デジタル・セット・トップ・ボックス(DSTB)の動きである。97年末から98年初めにかけて、やれWindows CEを入れろとか、Javaの方が良いだとかの騒動があったが、その後なりを潜めていたようにも思ったが、坦々と導入は進んでいたようである。トップメーカーのゼネラル・インストルメント(GI)は99年9月までに、500万台のDSTBを出荷したと発表している。最新のDCT5000+と言う機種では、高度なグラフィックが可能な高速チップを持ち、DOCSIS対応ケーブル・モデムを内蔵し、話題のハード・ドライブによる録画も可能なようにオプションで内蔵でき、さらにIPテレフォニーやオンライン・ゲームも可能であるという高度なものである。もちろん、OSや各種アプリケーションの選択が可能である。アプリケーションによって双方向テレビも可能となるため、2000年は多くの実験が始まると見られる。1994年に一時多くのCATV会社や電話会社が双方向テレビの実験に挑戦したが、いずれも技術的、コスト的な壁に突き当たって撤退したと言う。今回はうまく行くに違いない。

そのGI社にはソニーがかつて5%の出資をしたが、9月にはモトローラが買収(110億ドル)することを発表している。もちろん、メーカーはGIだけでなく、サイエンティフィック・アトランタ社などの大手もあるが、9月にはソニーもCATV大手のケーブルビジョンに10億ドル相当のDSTBを供給することで合意している。双方向テレビは始まるのか、OSは誰が押えるのか、DSTBメーカーとして日本の企業はどの程度やっていけるのかなどなどが、注目したい点である。

第2は、固定無線技術による高速インターネット・サービスである。「Local Multipoint Distribution Service(LMDS)(周波数27.5〜29.5GHz帯を利用)」「Multichannel Multipoint Distribution Service (MMDS)(2.1〜2.7GHz帯を利用)」などがこれにあたるが、ワイアレス・ケーブルと呼び習わされているもので、別に新しい技術ではない。Nextlinkコミュニケーションズと言うワイアレス・ケーブル会社が米国の30市場の95%以上の人口をカバーできるLMDSのライセンスを持っている。このNextlinkが近くブロードバンド・サービスを開始すると言う。また、MMDSは98年のFCCによるルール改正でそれまでの一方向サービスを双方向にすることが許されたことに伴い、99年4月、スプリントとMCIワールドコムが約10億ドルでワイアレス・ケーブル会社3社を買収している。ラスト1マイルを持たない長距離通信会社にとって、ワイヤーを張らなくて手に入るMMDSは魅力なのである。11月には、シスコが、東芝、サムスン、TI等と組んで、MMDSの技術に注力すると発表もしている。2000年に、これらを使ったブロードバンド・サービスがどのように登場してくることになるか、注目したいところである。


2. PCからの二つの流れ

(1)PCからハイエンドへの流れ

99年もPC市場は大変活況であり、年後半でも台湾地震やY2Kのための買控えなどの影響が心配したほどではなかったようである。IDCの発表している数字を下に掲げるが、99年、2000年通年の見通しも発表されており、99年通年では、世界と米国が、それぞれ22.6%増、23.5%増、2000年通年の見通しでも、引続き18.3%増、19.5%増という高い需要が予想されている。


PC市場(IDC)
単位:万台、( )内は前年比/前年同期比

96年 97年 98年 99T 99U 99V
世界  6,932 8,028(16%) 8,996(12%) 2,447(19%) 2,550(27%) 2,789(25%)
米国 2,648 3,148(19%) 3,625(15%) 987(24%) 1,085(35%) 1,173(23%)

99V シェア(%) 世界 コンパック(13.8) デル(11.6) IBM(8.1) HP(6.7) PB/NEC(4.9)
米国 デル(18.1) コンパック(15.9) ゲートウェイ(9.2) HP(7.8) IBM(8.0)


世界の伸びについては、日本がかなり貢献することになっているが、絶対数で見て日本の国内需要は年間で1,000万台程度であるのに対し、米国は4,000万台を超えるのが確実である。人口では2倍少しの米国に日本の4倍ものPCの需要がある。しかも、現在のPCの普及率は、正確な数字はないが、たぶん50数%対30数%というところではないか。また、インターネットの利用人口でも、11月にコンピュータ・インダストリー・アルマナックの発表では、世界で259百万人のところ、米国が110,825千人、 以下、日本18,156、英国13,975、カナダ13,277、ドイツ12,285となっており、はるかに米国に離されている状況にあるのにである。なぜ、米国とますます差がついてしまうのか、真剣に考えてみないといけないだろう。

話が横道にそれたが、米国のPC業界の中ではデルとゲートウェイというBTO(Build-to-Order)メーカーがやはり大きく伸びて、特に米国内での順位が入れ替わっている。因みに98年の第3四半期のシェアはコンパック(15.8%)、デル(14.1%)、IBM(9.1%)、HP(8.4%)、ゲートウェイ(8.2%)と言うものだったが、コンパックがシェアを減らしたと言うことではなく、デルとゲートウェイがシェアを伸ばしたと言うのが正しい。PCの低価格化が進み、コンパックやIBMは、リテール市場ではeMachines社のような400〜800ドルPCと太刀打ちができなかった。(とは言っても、無料PCのFree-PC.com社は11月にeMachinesに買収されることになり、さすがに無料PCモデルは1年ともたなかったが。)また、BTO市場でも、先駆者のデルなどにすぐに対抗できるところまでは行かないということである。では、このままデルは勝ち続けていけるのかと言うと、そう簡単ではないだろう。企業顧客を相手にしていく場合の総合力、ソリューション力、ワンストップ力とでも言うようなところでの競争が激しくなってきているからである。これがPC業界が進むべき一つの流れではないか。

コンパックがつまづいているのは、たまたまこの総合力を高めようとしたDEC買収(98年1月)がスムーズにいっていないことにも起因しているというのはやや皮肉であるが、今後優良な企業顧客を掴まえていくためには、超えなければならないハードルなのだろう。デルも3月にIBMと7年間にわたる部品購入を柱とした160億ドル規模の提携をしているし、さらに9月には同じ7年間で60億ドルに上るサービス提供を受ける契約を結んでいる。コンパックのように買収しなくても、バーチャルに総合力をつけようというものである。

もう少し、この論を進めていくならば、今や企業で導入するPCはネットワークと離れて使うことはまずあり得ないわけで、2〜3年前に言われたネットワーク・コンピュータやネットPCに戻るわけではないだろうが、ネットワークとしての効率というものを考えて導入されている。サンのスコット・マクニーリCEOに言わせれば、「ダウンばかりするPCなどいらなくて、重量サーバーと軽量クライアントの方がずっと良い」ということになる。つまり、Windows NTサーバーだけサービスできれば良いのではなく、UNIXやLINUXも組合せる必要があるであろうし、ソフトウェアも1台1台にインストールしなくなるかもしれない。さらには社内にソフトやサーバーをおかなくても良くなり、12月にマイクロソフトが発表した「マイクロソフト・オフィス・オンライン」のように、ソフトをオンラインでレンタルして使うこともあるだろうし、アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)で管理してもらうことも増えてくるだろう。


(2)PCからポストPCへの流れ

もう一つの流れは、もちろんポストPCの流れである。現在、米国でポストPCというと真っ先に思い浮かべられるのがPalm Computing社(http://palmpilot.3com.com)(3Comの子会社だが2000年2月にIPO予定)のPalmシリーズだが、5月のIDCの調査によれば、スマート・ハンドヘルド・デバイス(99年全世界での出荷は890万台)の下のハンドヘルド・コンパニオン市場の更に下のパーソナル・コンパニオン市場では98年に65%のシェア(最近は75%)を持っているようである。99年だけで300万台は売れ、ユーザーは既に500万人にも達しているとの報告もある。この人気が開発者をひき付け、様々なアクセサリーも出ていることから、さらに人気が高まると言う状況になっている。10月にはノキアが次世代のスマートフォンなどにPalm OSを利用すると発表しているし、ソニーも11月に同OSのライセンスを受け、次世代ハンドヘルド・デバイスに利用するとしているなど、その幅は更に広がりつつある。一方、これに対抗するWindows CE陣営は、発売後2年を過ぎたが、伸び悩んでいるようである。通常の日本で言うノートブックPCとの差別化がしにくいためでもあろうが、インターネット・アプライアンスとしての機能を高めたり、12月にはエリクソンと合弁を作り、インターネット高速アクセス製品の開発をしたりと、インターネットとの相性を武器にPalmに再度挑もうとしているようである。Windows 2000が2000年2月に発売になった後には、軽量クライアントとしてCEデバイスが生まれ変わると言う案もあるようであるが、ビジネスマンはそれを望んでいるのかもしれない。

この話はいくら続けても、市場はこうなるという予測を立てられる段階ではなさそうなので,この辺でやめておくが、米国のビジネスマンは通勤電車の中でも、空港の待合室でも、もちろん飛行機の中でも大き目のラップトップを出して仕事をしている。これと携帯電話を持った上に、もう一つデバイスを持つということが、どうも一般的になるようには思われない。そのような中で何を出していくのか、メーカーの腕の見せどころだろうし、それを見ている方も楽しい、と言っては怒られてしまうだろうか。


(3)対マイクロソフトの反トラスト法訴訟

マイクロソフトの反トラスト法訴訟については、一言だけ触れておこう。最近の経過は、11月5日、マイクロソフトは独占との事実認定がジャクソン判事によって成され、19日には、双方の和解の議論の調停者(mediator)として、シカゴ巡回連邦控訴裁判所のリチャード・ポズナー判事が任命され、30日にはポスナー判事と両者が初めての会合を持っている。さらに12月2日に、司法省は投資銀行「Greenhill & Co.」に、マイクロソフトの解体やビジネス・プラクティスの変更と言う制裁措置がマイクロソフトの財政面に与える影響の評価を依頼、6日、司法省は「原告の法的帰結に関する共同提案」をジャクソン判事に提出し、マイクロソフトはシャーマン法に違反しており、適切な制裁措置を裁判所が下すことを要請、と言うところである。今後の日程は、マイクロソフトが1月17日に意見書提出、2月22日に口頭弁論というところまで決まっている。

さて、本件についての見通しをもし聞かれたら、私としては、「わからない。でもゲイツCEOは例えば企業分割などを受け入れるとはとても思えず、和解交渉はまとまらないのではないか。有罪となっても制裁措置が色々議論される前に控訴され、議論は長引き、政権も変わり、2000年末も同じことを議論しているのではないか。いずれにしても、2000年内に市場に大きな影響を与えるようなことにはならないと思うので、あまり議論しても仕方ないかもしれませんね。」と応えるかもしれない。


おわりに

いよいよ新ミレニアムである。年末はやはりタイムズ・スクエアを見下ろす、オフィスに詰めることになりそうである。何も起きないと信じてはいるが、カウントダウンの大混雑に巻き込まれてもみくちゃになることを恐れている。この稿が印刷されて皆様の目に触れる頃には、Y2Kなどはもう過ぎた話ということになっていることを祈るばかりである。

新ミレニアムで日本の経済がスタート・ダッシュをするためには、本当に必要なIT投資を日本を上げて実行していくことが不可欠であろう。各層における迅速な決断を期待したい。私も、お役に立つかどうかわからないが、皆様のご指導を仰ぎつつ、2000年も引続き米国のフレッシュなIT情報をお伝えして参りたい。


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