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2000年3月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国におけるアプリケーション・サービス・プロバイダーの現状 -5- |
4. ASPの将来 上述のように、ASP市場には従来からのITサービス企業がそれぞれの得意の部分を活かした形で次々と参入を始めている。(今となってはUSi社のようにゼロから始めるのは難しいのかもしれない。)今回参照したASP Nerws(www.aspnews.com)、ASP Industry News(www.aspindustrynews.com)、ASP Island(www.aspisland.com)、 WebHarbor(www.webharbor.com)などのポータル・サイトでは、ほとんど毎日どこどこがASPに参入と言うようなニュースが見られるほどである。もちろん、IT産業全体の規模からみれば、まだまだ微々たるものであるが、当然のことながら、企業それぞれのビジネスモデルはもちろんのこと、既存のITベンダーのセクター全体にも大きな影響を起こしている。これについては、IDCが99年9月にまとめたインパクト・レポートに詳しい。それらを参考に、各セクター毎に受けている影響や将来の展望などについて少し記してみよう。
これまで、大規模なアプリケーションのインテグレーションによって、大きな利益を上げてきた、Big 5やEDSなどのコンサルティング企業は、ERPなどの複雑としてきたアプリケーションまでもがASPで配布されるようになると、従来のやり方に大きな影響を受けることになる。もちろん、大企業向けのカスタマイゼーションなどのニーズは残るのだろうが、スピードや価格低減が求められるだろう。従って、ISVやネットワーク・プロバイダーと組んで、自らがASPにも進出すると言う形態が増えてくるだろう。 中小のサービス企業にとっては、ターゲットとしてきた中小規模のユーザーがASPに流れ、しかもカスタマイゼーションのニーズが極小となる可能性が高いので、その影響はさらに厳しいものとなる。従って、サービス部門を補いたいASPと提携して、引き続きその部分を担当するという道を選ぶものも出てくるだろう。
ASPの出現によってもっとも大きな影響を受けているのがソフトウェア業界であることは言うまでもない。強力な販売チャネルが一つ増えたと前向きにとらえて、積極的にASPのパートナーとなっているアプリケーション・ベンダーが上述のように比較的多く見られるが、自らの顧客やVAR(Value Added Reseller)を通じた顧客がその分縮小していくと共に、アップフロントでのライセンス料の回収が難しくなって来ると言う状況にやがては追い込まれる。従って、オラクルなどの例に見られるように、大手のアプリケーション・ベンダーなどでは、インテグレータやネットワーク・プロバイダーなどと提携して、自らがASPとなる道を選ぶところも増えてくるだろう。
ASPの発展は、ネットワーク(しかも高速の)需要の拡大に直接つながることから、ネットワーク・プロバイダーにとってはビジネス・チャンスの到来である。Qwestのようにサービス企業及びアプリケーション・ベンダーと提携して自らがASPになる道を選択する例も見られるが、インフラストラクチャー企業の中立性を維持する上からも、多くはASPがエンド・ユーザーにアプリケーションを提供する際のネットワーク・サービスを複数のASPから受ける形を望むだろう。
ASPモデルの出現により、それぞれの企業が導入していたハードウェアがASPに集中するとともに、一対多数ユーザーへのアプリケーションの配布を確実に行うために、従来以上に信頼性の高いプラットフォームの構築が不可欠となる。上述しなかったが、IBMに加えて、サンやHPなどのサーバー・メーカーやCiscoなどのネットワーク機器メーカーにとっては、腕の見せ所でもあり、ASPの登場の際には必ずその名前が背後に見られる。また、シンクライアントが徹底するため、それに向けた技術開発も必要となろう。以前話題になった、いわゆるネットワーク・コンピュータなどが復活してくると見られている。価格にコンシャスなASPを相手に、これらを成功させていくことが発展の道である。
その一つは、インフラストラクチャーとアプリケーションのインターオペラビリティーを目指す動きである。99年10月にIBMとCiscoが発表した「ecosystem」、すなわち高品質のアプリケーションを配布できるプラットフォームを設定していこうと言うものだが、その結果として示されたのが、上述のAT&Tの「Ecosystem」と言うことになる。AT&TのパートナーにはIBM、Ciscoは当然だが、サンもHPも入っている。これは言い過ぎかもしれないが、この「Ecosystem」に載らないようなアプリケーションはホストされないし、これとは違うプラットフォームを使っているASPはやがて淘汰されると言うことになるのかもしれない。 もう一つも、結局は同じ動きなのかもしれないが、IBMの発表した「Hosting Advantage」プログラムによる、ASPの信頼性評価である。IBMはこれをASP Industry Consortiumが目指す、ASPの評価法の標準のベースにしたいとしている。このほかにも、Ernst & Youngは、ユーザーが信頼できるASPを選べるよう、ASPの認証を始めているし、サンも「SunTone」と呼ぶ、サービス・プロバイダーの品質を保証する認証を行っている。これらが、業界の標準になっていくかどうかは別としても、信頼性の確保が最重要と肝に銘じておくことが必要なのだろう。
「5年後には、気の利いた経営者ならば、コンピュータやソフトウェアは買うのではなく、サービス・プロバイダーから借りるようになっているだろう。」とサンのマクニーリーCEOが言うほどになるかどうかはわからないが、ASPが確実な流れとなりつつあるのは事実である。様子見ができるだけの実力と規模を持っているIT企業以外は、ASPについて真剣に考える時期に来ていると思われる。でも、この稿を書き始めてから気がついたのだが、日本でも米国の状況と同じくらいの情報がASPに関してはあるようである。良かったと思うと同時に、しまった書くのが遅すぎたかと思った次第である。 上の稿の中でマイクロソフトについてはほとんど触れなかったが、自らもMSオフィスなどのASPによる配布も試行しているほか、昨年来、例によってあちらこちらの中小ASPに投資をしており、この1月にはDigexとCorioに投資をしたところである。ところで、ビル・ゲイツCEOが、1月13日にCEOを辞す際のプレスコンファレンスで、このようなことを言っていることに気付かれただろうか。「ソフトウェアの性質が変わろうとしている。パッケージに入った製品ではなく、インターネットを通じたサービスとして配布されようとしている。―――― 私は、これらの新しいソフトウェア技術に100%自分の時間を割くことのできる新ポスト(Chief Software Architect)を選んだ。」直接ASPのことを言っているわけではないが、あのゲイツでさえそう言っているのである。ITの枠組が大きく変わりつつあることを念頭に、日本でも新世紀に向けての事業展開を検討していただきたい。
主な参考資料
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