2000年9月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国におけるエレクトロニクス・マニュ ファクチュアリング・サービスの動向に ついて


  • セレスチカ(Celestica)(www.celestica.com
  • 本社;トロント、カナダ、CEOMr. Eugene Polistuk

    年次決算(1999.12.31);売上高5,297m$+63%)、純益68m$(△48m$

    最近の四半期決算(6.30);売上高2,092m$+67%)、純益63m$+61%

    従業員数23,000名、世界12ヶ国33工場

    コンピュータ60%、ペリフェラル10%、通信25%、その他5%

    セレスチカは、199610月にIBMのトロント工場がスピンアウトして設立された若い会社で、IPO986月に行ったばかりである。設立時からのCEOであるポリスタック氏は1969年からカナダIBMに勤め、86年からはトロント工場の工場長をしていた人である。セレスチカが他のEMSと違うのは、オーバーフロー・ビジネスではなく、世界的なOEM企業とコンパチブルであることに焦点を当ててきたこと。さらに1,800人もの学位を持った技術者を擁し、内部の技術力が大変高いことを挙げることができる。その反面、顧客のOEMがまだ限定されており、IBMHP、サン、シスコで売上の6割以上を占めている。

    97年度から98年度にかけて売上が62%増の32億ドルになり、99年度も63%増の53億ドルとなったが、ポリスタックCEOは「我々の投資がペイオフしてきており、99年度の成長の2/3が買収ではなく、内部の伸びで達成されている」ところを強調している。

    技術力の高さによりよりマージンの高いフロントエンド設計ソリューションを受け持つことができているが、北米の工場キャパシティーが70%弱と高く、他の企業よりグローバルリーチと言う面で弱いというアキレス腱を持っている。しかし、99年中にはチェコ、ブラジル、マレーシアに新たな拠点を得、2000年に入ってからも5月にはIBMのイタリアのPCB組立工場の買収を完了しているし、6月にはNECのブラジルの通信ネットワーク工場を680名の従業員と、5年間、12億ドルの生産サービス契約付きで買収している。このように通信分野への顧客拡大やグローバルな拠点拡大などの努力をバランス良く行っていることなどから、99年上期も前年費59%増の37億ドルの売上を上げるなど好調である。

  • フレクトロニクス(Flextronics International, Ltd.)(www.flextronics.com
  •  本社;シンガポール、(米国本社;サンノゼ)、CEOMichael Marks

     年次決算(2000.3.31);売上高5,740m$+76%)、純益199m$+84%

     最近の四半期決算(6.30);売上高2,286m$+139%)、純益77m$+148%

     従業員数18,000名、世界53工場

     コンピュータ17.2%、通信57.2%、家電14.1%、医用1.8%、その他9.7%

     フレクトロニクスは90年代の初めまではシンガポール、ホンコン、中国でほとんどの操業を行うローカルなEMSであったが、現CEOのマイケル・マークス氏のリーダーシップにより、インターナショナルなEMSになってきたとされる。そのマークスCEO2000320日号のフォーチュン誌の米国製造業界のヒーロー6人のうちの1人に選ばれているので、そこから少し抜き出して見たい。

     1989年に彼がフレクトロニクスの一工場の運営を任されたとき、彼はハーバード・ビジネス・スクールでとったコース以外、生産に関する知識は何もなかった。そこで片っ端から専門書を読み、ジョン・コンスタンツァ氏(こちらもヒーローの1人)の説く「デマンドフロー生産」の信奉者になり、生産のいろはを学んだと言う。93年にCEOとして同社に戻った時には、同社は売上1億ドル足らずの倒産寸前の会社であったが、年率60%以上という伸びを続け、現在の位置を占めるに至っている。

     マークスCEOの誇るサンノゼの3億ドルをかけた最新工場では、余剰部品など一切置いていないライン(工場の一隅にはRIPraw-in-process)と呼ぶ予期しない需要に対応するための部品の在庫を持っているところがJust-in-Timeとは異なる)でシスコからの電子的な発注に応じ、同社のルーターのみを生産し、最終ユーザーに直接出荷した後、シスコにその旨を通知するという形を取っている。シスコ以外にも、フレクトロニクスの生産の品質に魅せられたOEMは多く、マイクロソフトのマウス、HPのプリンター、パームのPDA、エリクソンの携帯電話、ジョンソン&ジョンソンのグルコース・モニタリング・システム、コダックの使い捨てカメラ、フィリップスのDVDドライブなどを生産している。

     もう一つ、フレクトロニクスの高成長の鍵は、「インダストリアル・パーク」にある。同社は、他のEMSの競合相手が米国に工場を集中しているのに対し、世界の大消費市場に近い中国、メキシコ、ハンガリーに積極的に工場を分散している。そこで自社の工場に隣接する敷地を購入し、「キャンパス」と呼ぶインダストリアル・パークを作り、水道、電気、他のサービスや場合によっては工場の建屋も整備してリースするなどして、同社の部品サプライヤーを誘致している。トラックでの輸送でなく、フォークリフトでの運搬で済む距離にサプライヤーを置くことでコストを削減しているのである。特に、ハンガリーの2つのキャンパスでは、中欧における他のEMSの生産合計の5倍以上の生産を行い、中欧のEMSビジネスを支配している。

     マークスCEOは「携帯電話やTVのコントローラーなどの安価なコンシューマー向け製品は低賃金国で生産すべきだが、全てをそこに持っていこうという罠に陥り易い。しかし、技術的に複雑なインフラストラクチャー製品などは先進国で生産した方が容易であり、そのためにフレクトロニクスは米国、ドイツ、フランス、スウェーデンなどでもビジネスを大々的に行っており、OEMも、EMSがどこでも生産できることを望んでいる。」と言う。

     その他にフレクトロニクスは11の「プロダクト・イントロダクション・センター」を持っており、そこのエンジニアがOEMの新製品の設計やプロトタイプの製造・テストなどを支援している。パームのPDAの設計もフレクトロニクスのエンジニアが手伝っている。マークスCEOはインターネットを通じて、異なる地域の設計者同士による、OEMとの共同製品開発が今後増えてくると予測している。

     さて、マークスCEOはフレクトロニクスの急成長の理由として「この業界の誰もがグローバル・マニュファクチャリング・ソリューションを標榜しているが、フレクトロニクスが中国、ブラジル、メキシコ、東欧に持っているようには他は持っていない。長期的にはこの業界のウィナーとなれる」と豪語している。これが言えるのは、9911月にDiiグループ(コロラド州ニオット)の買収(株式交換で24億ドル相当)を決めたところによるところが大きい。これがEMS業界でのこれまでの最大の買収となっているが、その時点の99年売上見通しで、フレクトロニクスが300億ドル、Dii130億ドルであり、この買収によって一気にフレクトロニクスはトップティアに上り詰めている。また、Dii買収の意義は、Diiがカリフォルニア、ミネソタ、テキサスに加えて、ドイツ、中国、ブラジルに工場を持っており、これらを加えることで、グローバルな分散が最適な形になったところにある。

     その後も9911月に富士通_シーメンスからドイツのサーバー工場を引き継ぎ、1月にはエリクソンのデンマークのテレコム工場を、3月にはボッシュのデンマークの携帯電話工場を、さらにはポーランド、イスラエル、ノルウェイでの買収も立て続けに発表している。また4月にはマイクロソフトの2001年発売予定のゲーム機X-BoxEMSパートナーに選ばれたことを発表し、5月にはモトローラとの間で5年間に携帯電話やセットトップボックスなど300億ドル相当の製造サービス契約(これまでのEMS業界では最高額)を結んだと発表するなど、業界の中で最も上り調子と言えるだろう。

  • ジェイビル・サーキット(Jabil Circuit, Inc.)(www.jabil.com
  •  本社;フロリダ州セントピーターズバーグ、CEOWilliam Morean

     年次決算(1999.8.31);売上高2,000m$+57%)、純益91m$+84%

     最近の四半期決算(5.31);売上高966m$+66%)、純益38m$+31%

     従業員数18,000名、世界8カ国15工場

     コンピュータ11%、ペリフェラル35%、通信40%、家電3%、自動車7%、その他4%

     ジェイビル・サーキットは、売上規模では998月末の年度で20億ドルと小振りであるが、成長率などで見れば、この業界で最も健全な成長を遂げている企業の一つである。従来、ジェイビルは、内部の成長を追及し買収の可能性は無視することで他と一線を画していた。その中でも高い成長を維持できたのは、他とは異なるビジネスモデルを有していたからである。もちろん最近では買収もかなり積極的に行うようになってきているが、その辺りのところについて、20006月のMMI誌のインタビューに、ジェイビルのプレジデントであるティム・メイン氏が答えているので、ここで少し挙げておこう。

     同社は一つの企業ではなく、大口顧客(OEM)毎に形成される独立したビジネスユニットの連合体であると表現している。同社の顧客は高付加価値で少量生産の通信機器などから、低技術で大量生産を要する家電のようなものまで様々である。従って、それぞれのユニットを、個々の顧客の要請や製品の特性に応じてリソースや技術を配置することで形成する。そして例えばPCOEMは、高い技術を必要とする通信装置のために必要なインフラストラクチャーのコストを負担することはないというように、ビジネスユニットをオペレーションの面でもフィナンシャルの面でも独立して扱う。このようなモデルにより、顧客に最適なEMSを提供できると言うのである。

     逆に顧客を容易に増やしていけないという面もあるが、既に30~35の大手の顧客アカウントを有しており、それぞれがアウトソーシングの範囲を広げているので問題はないと言う。さらに、マサチューセッツやカリフォルニアの工場は、特定のOEMではなく、エマージング・テクノロジーの企業に向けて開放しており、これは同社のモデルにフレキシビリティーを与えるものになっている。

     また、OEMからの工場買収については、98年半ばにHPのいくつかのPCB工場を買収した経験を持つが、米国内の買収については未だ慎重な姿勢をとっているように見える。それは、買収する工場が長期的に見て、同社のビジネスユニットとして適切なものかという観点で見ているからのようである。短期的にはそのままそのOEMの製品を肩代わりして生産するということで行けるかもしれないが、将来それが例えばオーバースペックの買い物であったり、ロケーションとして適切ではなかったりなどと、負担にならないかとして見て、むしろ自前の工場(もちろんリースなどにより投資額は抑えているものの)を持つという道を結果的に選んでいるようである。一方、海外については、早期の拡張のため、積極的に買収(OEMからではなく現地企業の買収や工業団地の購入などが主)を行うという戦略をとっており、ブラジルとハンガリーに続いて、中東欧やアジア地域(日本や東南アジア)での拡張を考えているとしている。

    製品の内訳では、PCビジネスを拡大して2000年度には前年比3倍の20%まで持っていった上、セットトップ(完成品)の比率を高めている。主要な顧客はデルとゲートウェイである。また、シスコ、ルーセント、3コムなどからの通信関連の需要は引続き強く、2000年度は45%にもなるとしており、アナリストは高成長の通信セクターへの傾斜を好感している。

    おわりに

    ・日本はオンデマンドによってものを作るのがものすごく下手だ

    • 今やMITIでさえ日本企業に工場は売ってe-businessに入りなさいと言っている
    • 日本は旧式の電子機器や反復性の高い生産は引き続き得意とするだろうが、ソフトウェア・インテリジェンスを使ったフレキシブル生産システムでは大変弱い
    • 日本の生産は10年以内に沈没し、90%は外国人が支配することになるだろう
    • 日本では金利0%で金を借りて採算の合わないくらいまで工場を自動化する
    • 日本はインフォメーション・システムのコンセプトを工場に導入できないばかりか、そのインテリジェントな利用により企業を統合していく準備すらできていない
    • インターネット時代の意思決定は日本のカタツムリのように遅いコンセンサス討議とは相容れない
    • 日本人はインターネット経済ではしばしば必要な不完全な情報に基づいた決定というものをすることができない

    などなど、221日付けフォーチュン誌の「For Sale: Japanese Plants in the U.S.」は言いたい放題である。だから、日本のOEMは津波のように海外プラントをEMSに売っていくことになるという結論である。EMSが不可避の流れなのだから、結論はそういうことかもしれない。でもこれらの指摘は当っていない、と言うべく日本のOEM各社は努力をされているところと理解しています。

     

    (参考資料)

    _ 稲垣公夫著「アメリカ生産革命」(日本能率協会9812月刊)

    _ Manufacturing Market Insider誌各号(www.mfgmkt.com

    _ Electronic Buyers’ News誌各号(ebns.com

    _ Upside Today20002月号「Making Outby Robert Mcgarveywww.upside.com

    _ Fortune2000221日号「For Sale: Japanese Plants in the U.S.by Gene Bylinskywww.fortune.com

    _ Fortune2000320日号「Heroes of U.S. Manufacturing

    _ CNET News 2000818日「High-tech manufacturers add brains to brawnby Stephen Shanklandnews.cnet.com

    _ Electronic Business9912月号「CEO of the year, Koichi Nishimuraby Bill Robertswww.eb-mag.com)及び各号

    _ 東洋経済誌99717日号「EMSが製造業を救う」

    _ 週刊ダイヤモンド2000722日号「ソニー革命、凄みと死角」



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