2000年11月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

法人ウェブ・ソリューション・ビジネスにおける競争と協力


  1. ルーセント・テクノロジーズ(Lucent Technologies)

    創設:1996年(AT&Tからのスピンオフ)、本社:ニュージャージー州マレーヒル
    売上:(2000年度、9月末)345億ドル(前年比15%増)、(純益)19億ドル(−6.7%)
    従業員数:15万3,000人
    主力製品:DWDM、スイッチ、データネットワーク機器など

    沿革

     世界最大の通信機器メーカーであるルーセントは、96年9月にAT&Tの製造・研究部門がスピンオフして誕生した。ベル研究所の持つ豊富な資源を活用し、同社の提供する製品は、集積回路、スイッチ、送信機器、ワイヤレスネットワークなど多岐にわたっており、最近では、データネットワーク機器の分野にも進出を果たしている。

     ルーセントは、急速に変化する通信機器市場に対応するため、戦略的M&Aとリストラを巧みに利用することで成長を続け、98年には時価総額でAT&Tを抜いた。ルーセントが創設から2年間で買収した企業は11社に上り、新たに発表した製品数は30種を超える。同社は99年、社史上最高額の240億ドルで、ネットワーク機器メーカーのアセンド・コミュニケーションズ(Ascend Communications)を買収、最強のライバルであるシスコに大きな脅威をもたらした。これまでの通算の買収社数は38社、買収額は460億ドルに上る。

     世界最大の通信機器ベンダーとして、常に新しい市場のトレンドを取り込むことに成功してきたルーセントであるが、2000年に入り、売上や利益が予測を大幅に下回るといった事態が発生した。売上の大きな落ち込みは、急成長を続ける光通信機器部門での事業戦略の誤りに起因している。このため、ライバルのノーテルにマーケットシェアで大きく遅れをとる結果となり、現在は、初期の遅れを取り戻すべく、戦略の転換や事業部門のリストラなどを急ピッチで進めている。


    事業戦略

     ルーセントは、従来の主力製品であった回線型スイッチの製造を縮小し、ワイヤレスや光通信といった成長市場に資源を集中する戦略を実施してきた。回線型スイッチの売上は過去数年にわたって伸び悩んでおり、ボイス通信に特化してきたルーセントは事業戦略の大幅な転換を迫られていた。そこで同社は、成長率の低い部門をスピンオフもしくは売却することで次々と切り捨て、会社全体の売上を引き上げる戦略を実施した。

     同社は、2.5Gbpsの光通信システムOC-48の需要が伸びるとの予測を基にし、同システムの大量生産を開始する。しかし、市場需要は10Gbpsの最速システムOC-192へと急速に移行したため大きく出遅れた。その結果、競合のノーテルが最大のマーケットシェアを確保し、ルーセントは第2位の地位に甘んじることとなった。

     OC-192システムの需要に生産が追いつかず、ルーセントは2000年に入り純利益が大幅に減少する。純利益の低下に続けて株価も下落し、その結果、同社の管理層の多くが辞職し、他の新興メーカーやサービス・プロバイダーへと移っていった。

     ルーセントは現在、投資家や顧客の信頼を再び勝ち取り、マーケットシェアの挽回を図るべく、新戦略の実施に尽力している。新戦略では、OC-192システムの大幅増産に加え、戦略的重要性の低い事業の整理が中心となっている。9月には、コールセンター、交換機などの製造を手がけるAbaya部門を切り離した。


    最新動向、今後の展望

     10月23日、ルーセントは2000年度の厳しい業績発表と同時に、CEOであるリチャード・マクギン氏を更迭した。新CEOのヘンリー・シャハト氏は、95年から97年までルーセントのCEOを勤めて引退していたが、今回、建直しと新CEO、COOの発掘のためにカムバックしてきた。

     同社にとってまず第一にやるべきことは、新経営陣による経営に対する信頼の回復であり、早速マイクロエレクトロニクス部門とパワーシステム部門の切離しを発表している。また、キャッシュ・ポジションの改善やCLEC等への貸付けの引締めを図ることが必要とされる。 ルーセントの強みは、通信事業者やサービス・プロバイダーとの強固な顧客関係を築いてきたところにあり、10月にもSBCと5年間にわたる10億ドルを超える規模の機器供給契約を結び、またブラジルのエレトロネットと2年間にわたる1.8億ドルの光ファイバーネットワークの構築契約も結んでいる。これを弾みとして、製品サイクルを加速することが重要である。ベル研究所の持つ高い研究能力を、売れる製品に結び付けられなかったこれまでのやり方を改め、次のOC-768(40ギガビット)や未だにわずかのアドバンテージを持つDWDMによって、シスコやノーテルからマーケットシェアの奪還を図らなければならない。


     

  2. ノーテル・ネットワークス(Nortel Networks)
    http://www.nortelnetworks.com

    創設:1976年、 本社:カナダ、オンタリオ州ブランプトン
    売上: (2000年1-9月)215億ドル(前年同期比46%増)
    従業員数:7万5,000人
    主力製品:DWDM、SONET、IP/ATMスイッチ、ワイヤレス・インフラストラクチャー

    沿革

     ノーテル・ネットワークスは、通信事業者用機器の世界第2位のメーカーで、光ファイバーシステムの根幹となる光通信機器市場のリーダーであり、競合のルーセントを押さえて同市場では最大のマーケットシェアを誇る。ノーテルはさらに、通信インフラストラクチャー機器、IPパケットサービス、ワイヤレスデータ、広帯域システムなども提供している。

     同社は98年8月、データネットワーク機器の大手メーカー、ベイ・ネットワークス(Bay Networks)を70億ドルで買収し、ボイス通信機器のメーカーから、最新のデータネットワーク機器を提供するメーカーへと転身を図った。ノーテルは現在、企業向けデータネットワーク機器市場において、第1位のシスコ(24%)に続いて19%のシェアを維持しており、光通信機器ほどではないが、ネットワーク機器市場においても一定の成功を収めている。

     ノーテルは2000年に入り、光通信機器市場での地位を不動のものにするため、戦略的M&Aを進めている。同社は、光通信機器の新興メーカーである、Qテラ(Qtera)、コアテック(CoreTek)、クロス(Xros)の3社を相次いで買収し、2001年には、光通信機器部門を子会社化し、独自のIPOを行う計画を発表している。


    事業戦略

     ノーテルは、広帯域サービスの需要が急増することを、他のメーカーより早く、正確に予測した。同社は80年代から、大学の研究所や顧客である通信事業者と共同で、10Gbpsの光通信技術の開発に着手し、96年にはOC-192システムの商用化をいち早く実現した。ルーセントが、95年に光通信機器市場への進出を決めたことを考慮すると、ノーテルは圧倒的に有利な立場に立っていたと言える。

     ノーテルは96年以降、10Gbpsシステムのリーダーとして市場を独占しており、北米のネットワーク・バックボーン構築に関する12の主要契約のうち10を、欧州における9の主要契約のうち7つの契約を勝ち取っている。また、有力な新興サービス・プロバイダーであるレベル3コミュニケーションズと強力なパートナーシップを構築しており、顧客のニーズを取り入れた研究開発に従事している。

     ノーテルはさらに、戦略的M&Aを通し、企業向け、サービス・プロバイダー向けの製品拡大に努めている。同社は99年、ISP向けにネットワーク管理製品を提供するシャスタ・ネットワークス(Shasta Networks)を買収し、2000年には、ウェブスイッチのメーカーであるアルテオン・ウェブシステムズ(Alteon WebSystems)を72億ドルで、インターネットアクセス機器メーカーのソノマ・システムズ(Sonoma Systems)を5億ドルで買収している。


    最新動向、今後の展望

     10月24日にノーテルが発表した第3四半期報告は、売上73億ドルで前年同期比42%増と言う申し分のないようなものに見えながら、肝心の光通信機器の売上が前期比で見るとやや減になったことから、株価を大きく下げることになった。しかしこれは部品の生産やインストールが追いつかないなどの事情によるもので、問題となるようなものではない。2001年の通信キャリアの設備投資について、ノーテルは20_25%と、アナリストなどよりやや低めに見ているが、その中でも30_35%の成長は確保できるとしており、この分野での問題はやはりなさそうである。

     一つ、課題とされているのは、ルーターの分野である。確かにLANスイッチやギガビット・イーサネット・スイッチなどの分野ではそれなりにシスコに追随できているが、ルーターでは全く相手にされていない。ハイエンド・ルーターでは市場シェアはわずかに0.3%、それ以外のルーターでも3%程度というものである。そこでノーテルは、ルーティング・ソフトウェア・コードの公開などを行い、ルーター以外の機器(例えば携帯電話)にルーティング機能を持たせることで、ルーター市場に揺さぶりをかけようとしている。今後も、光通信機器市場での地固めに力を注ぐ一方で、このようなデータネットワーク機器やワイヤレスといった急成長を続ける分野への拡大を実施することが必要とされる。



おわりに

 今回は触れなかったが、通信機器ユーザーである通信キャリアの世界が大変動の時代となっているのはご存知のとおりである。長距離はAT&Tとワールドコムの2強になり、ベビーベルも7社が3社にまで収斂し、ワイヤレスでもベライゾン、シンギュラーなど新しい合併企業が出てきている。磐石となってきたと思われた長距離2社もそうではなかったということまで明らかになってきた。そう、今がチャンスなのです。通信機器市場は日本が互角に戦えるフィールドであり、戦線が拡大・混乱している今こそ、突撃をすべきなのでしょう。もちろん、そういうつもりで戦われていらっしゃるのに、余計なことかもしれませんが。


(参考文献・資料)
Standard & Poor’s, Industry Survey 「Computers: Networking」Sep. 14, 2000
Standard & Poor’s, Industry Survey 「Communications Equipment」June 29, 2000
日経BPデジタル大事典2001年版
日経コミュニケーション誌、2000年9月4日号「光ネットワークの世紀へ」
通信機械工業会「CIAJ第6回情報通信海外調査報告(米国、カナダ)」1999年7月



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