2000年12月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国におけるIT R&D政策の動き


7.FCRPのアップデート

 98年12月の本月報で報告したDARPAと半導体工業会(SIA)のスポンサーによるフォーカス・センター・リサーチ・プログラム(FCRP)(http://marco.fcrp.org)は、大学における競争前段階の共同の長期にわたるマイクロエレクトロニクスの研究を拡大するためのイニシアチブであり、98年12月に2センターの発足を持って正式にスタートしている。UCバークレイに置かれた「Gigascale Silicon Research Center(GSRC)」が「Design & Test 」を担当し、ジョージアテックに置かれた「Interconnections for Gigascale Integration(GSI)」が「Interconnect」を担当している。これらの成果は既に相当出ているようであり、FCRPの管理を行っている「Microelectronics Advanced Research Corporation(MARCO)」(http://marco.fcrp.org)のホームページから辿っていくと、両大学や共同研究に参加している大学において、多くの研究者が相当数のペーパーを発表していることが分かる。99年の研究成果について、スポンサーからのフィードバック(http://marco.fcrp.org/news/summaryfeedback.htm)も発表されており、GSIの方について、研究体制やテーマの絞り方などに少し批判があるのを見ることができるが、全体としての成果は評価されており、既に2001_2003年の第2フェーズの研究計画が策定されているようである。


 FCRPでは当初の予定通り、上の2センターに加えて2001年に2つの新規センターを立ち上げるべく技術分野の選定を行ってきたが、この4月頃には「Materials, Devices & Structures」と「Circuits, Systems & Software」の2分野に決定しており、10月19日、DARPAから、この2分野における2001年度の研究テーマについての公募が行われた。この公募は大学によるセンター設置への立候補募集も兼ねるもので、12月に締め切られ、来年春には新規センターがどこに設置され、共同研究大学としてどこがどのようなテーマで参加するかが決定される見込みである。


 FCRPは、さらに2003年には最後の2センターを発足させることになっているが、いずれも予算としては、1年目には1センターにつき400万ドルが、2年目には600万ドルが、3年目からはフルスケールの1,000万ドルが当てられるとなっている。従って、2005年時点で6つのセンターが全てフルスケールとなったところで、全体の予算規模は6,000万ドルとなる。産業界とDARPAの予算分担は3対1となっている。



おわりに

 私の米国のIT R&D関連報告もこれで6回目となり最後のものとなる。3年半米国のIT R&D政策を見てきて、最も強く感じたのは、21億ドル程度のそれほど大きいとは思えない予算規模ながら、連邦政府の推進体制に、公的研究機関、大学、民間企業の一体となった実施体制がうまく噛み合って、予算規模をはるかに越えるような成果を上げているという点である。翻って日本を見ると、ようやくIT基本戦略が出されたことは喜ばしいことであるが、どうもインフラ作りばかりが強調されて、それを実際に担い利用するはずの肝心のR&Dの推進とIT技術者・研究者の育成は、わずかに触れられているに過ぎない。もちろんどうやってやるかなど、これから考えるのだろうけれど。


 そこで、二つ具体的な提案をしてみたい。それは、日本版ブルーブックを作ることと、日本版スーパーコンピューティング・ショーを開催することである。ブルーブック作りについては、もうそれらしいものはあるだとか、誰が作る権限を持っているのだとか(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部??)、すぐそんな議論になるだろうが、誰かがインターネットに素案を掲示して、おれのところのが抜けているぞと皆から意見を求めてみるのが良いのではないか。きっとぐちゃぐちゃになるだろうが、これが日本のIT R&D政策だったのかと言うところが日の下にさらされて良いだろう。SCショーの方も、それらしいものが既に開かれているのかもしれないが、学会でも見本市でもないショーにすることが肝心である。それも、真ん中にNEC、奥の方に電総研、目立たないところに埼玉大学(SC2000に出展されていた)というのではだめで、高速ネットワークや機器資材の提供も含め、全て民間のスポンサー付きで、学生が生き生きと研究成果をデモできるようにされる必要がある。さらには、ここで発表する学生には企業がアウォードを出し、高給でスカウトもしてもらったら良い。


以上、勝手なことを申し上げましたが、このようなことからまず入るのが、IT戦略実践の早道だと思うのですが…。



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