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2001年6月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平 「米国におけるブロードバンドの動向」 |
4.ブロードバンドを巡る今後の展望 (1) 競争政策 米国におけるブロードバンド発展のきっかけとなったのが、1996年の通信改革法であることはよく知られている。(ここではその詳細について改めて触れることは避けるが、ご関心の向きは、城所岩生氏著「米国通信改革法解説」(木鐸社)に詳しいので、御一読ありたい。) ブロードバンド分野における競争政策のあり方は、今後も同分野の発展に大きな影響を及ぼすであろう。 ケーブル・モデムによるインターネット接続に関する「オープンアクセス問題」については、FTCとTCCによるAOLとタイム・ワーナーの合併審査の過程で、前述のように一定の方向性が出されたと見ることができるであろうが、これはあくまで巨大企業同士の合併の際の条件であって、法制化ということになると話は別であろう。 また、ILECのブロードバンドへの投資を促進するためにはILECの長距離データ通信への参入を認めるべきであるとして、1996年通信改革法の見直しを求める動きもあるが、当然CLECは猛反対している。 ブッシュ政権がFCC委員長に指名したマイケル・パウエル氏は、前任のウィリアム・ケナード氏とは異なり、政府の関与(規制)よりも市場における競争を優先させる方針であると見られている。今後の動向が注目される。 (2) 新しいブロードバンド・サービス 本稿では、ブロードバンド・サービスとしてケーブル・モデムとDSLを中心に取り上げたが、これら以外の手段によるブロードバンド・サービスも出現している。そのうちいくつかを紹介しておこう。 その一つがレーザーを活用した無線通信サービスである。テラビーム・ネットワークス(http://www.terabeam.com/)は、無線通信技術を利用したブロードバンド・サービスをユーザーに提供しているが、この際、電波の代わりにレーザーを使っている。ユーザーはビルの窓際に特殊なレーザー送受信機を設置する。後は、無線通信のようにレーザー光線を送受信することでデータを転送する仕組みとなっている。送受信機が混雑の少ない転送経路を検知して自動的に切り替えるため、常に安定した転送速度を保てる。同技術は最高で1.25Gbpsのデータ転送を可能にする。最大のメリットは、敷設コストが大幅に削減できることである。 同社はルーセント・テクノロジーズから総額4億5000万ドルの投資を受けているが、一方、競合のエアーファイバー(http://www.airfiber.com/)も通信機器メーカー大手ノーテル・ネットワークスの支援を受けて勢力を拡大しており、両社のぶつかり合いは必至とみられている。 サービスはまだ始まったばかりであり、今後どこまで市場を占有するかは不透明であるが、しかし、インフラコストが非常に安く、帯域幅が大きいことから、都心部にある企業向けのWANサービスとして発展していく可能性が高そうである。 もう一つは、衛星通信を活用したサービスである。衛星通信事業者大手のディレクTVやエコスターは、他社と提携することによって、インターネット接続事業の拡張を試みている。しかし、衛星通信を活用する場合は、上り方向に電話回線を利用するため、衛星放送とISPの使用料金の両方が必要であり、このためDSLやCATVが利用できない地域などに限られてくる。 これに対し、スターバンド・コミュニケーションズ(http://www.starband.com/)は、双方向性のインターネット接続を提供する。ユーザーはモデムと送受信機を利用して、150局におよぶTV番組を視聴できるほか、インターネット接続(下り方向500Kbps、上り方向150Kbps)が利用できる。料金は月額59ドル95セントである。DSLやケーブルモデムに比べてデータ転送速度が遅いのと、月額使用料が高いため、他のサービスに比べて優位というわけではない。しかし、今後価格が下がればCATVやDSLの対抗製品となる可能性がある。
おわりに 日本でもやっとブロードバンドが普及し始めており、米国におけるDSLの値上げもあって、ブロードバンド利用料金で日本の方が安くなったという。しかし、先行した米国の状況を見てもわかるように、ブロードバンドは多額の先行投資を要するビジネスであり、日本でもいつかその壁にぶつかる時が訪れるかもしれない。 その壁を突き抜け、真の意味でブロードバンドがブレークするには、やはりコンテンツが重要だと思う。現状では、ブロードバンドの最大の牽引者は「コンテンツ」ではなく「常時接続」や「スピード」であるが、それだけでは高額なブロードバンドの普及には限界があるであろう。 「コンテンツ」勝負になった時に強いのは、豊富なストックを有するAOLタイム・ワーナーのような企業なのか、それともi-modeで流行ったキャラクター配信や着メロのような新しい大衆向けコンテンツを開発できる企業なのか。 まだブロードバンド分野での競争は始まったばかりである。 (了) 本稿に対する御質問、御意見、御要望がございましたら、arataryohei@jetro.go.jpまでお願いします。 | 駐在員報告INDEX|ホーム | J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。 |