2002年3月  JEITA ニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるB2B電子商取引の動向」(その1)


4.           産業別に見たB2B電子商取引の動向

ジュピター・メディア・メトリクスによると、図22006年におけるB2Bコマース市場54,500億ドルの半分は自動車産業によるものであるという。この例からもわかるように、現状、B2Bコマース市場は自動車産業とエレクトロニクス産業によるものが中心であり、逆に言えばこうした主要産業におけるB2Bコマースの動向の見方如何によって、B2Bコマース全体に関する市場予測なども大きく異なってきてしまう。

そこで、以下に、主要産業におけるB2Bコマースの概要を見てみることとする。

なお、参考までに、図3に米国経済を産業セクター構造(売上げベース)別に比較したグラフを掲げておく。図3からわかるように、米国では卸売り、製造、小売り、金融という4大産業が総売上高の70%を占めており、より高いリターンを求めるB2Bコマース事業者がそれらのセクターに乱立している。

 

3 産業別に見た米国産業規模(売上げベース)

(注)単位は10億ドル。価格は97年のドル価値ベース。総額177,549億ドル。

(出展: 商務省経済分析局 200010月)

(1)          航空防衛産業

4,000億ドル市場と言われる同業界では、B2Bコマースがどこまで一般企業や企業に対し恩恵を与えていくのか疑問視されている。オフラインでの商習慣が重要な業界であるため、大企業主導型で、今後も大手が、部品の調達を効率化できるインフラ作りに専念するものの、取引先以外の新規企業の受け入れには消極的になると考えられる。それにつれて、中小企業が自由に参加できるeマーケットプレイス(パブリック・マーケットプレイス)は今後も形骸化していく可能性が高い。

例えば、同業界に期待していたスペースワークス(SpaceWorks)は2001年5月上旬、閉鎖的な市場に切り込むことができず、事業継続を断念している。一方、ボーイング、ロッキード・マーチン、レイセオン、BAEシステムズが共同で立ち上げたeマーケットプレイス、エクゾスター(Exostar(http://www.exostar.com/)も低迷したままだ。これは、企業が大口契約を避け、個別に交渉したり、従来の流通チャンネルに依存していることが理由として挙げられている。つまり、オフライン取引を尊重しているのである。

現在、同業界でeマーケットプレイスを推進するのは、GEの航空機エンジン部門とユナイテッド・テクノロジーズ(United Technologies)傘下のプラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)の2社であり、それぞれが年間数億ドル相当の製品をオンラインで取引している。両社は新規顧客の開拓にeマーケットプレイスを利用するのではなく、あくまで既存取引の効率化に重点を置いている点で、新興企業のアプローチと異なる。

フォレスター・リサーチによると、航空防衛産業におけるB2Bコマースは2000年は8%だったという。

 

(2)          農業関連

年間8,250億ドルの売上げをほこる農業にもインターネットの波は押し寄せている。フォーブス誌によると、農家の50%がインターネットへ接続しており、乱立した各サイトもかなりのユーザーを初期段階から獲得できた。例えば、Farmbid.com(http://www.farmbid.com/)は、2000年第1四半期だけで9万人の会員を獲得している。

業界コンソーシアムも結成されたが、そのうち、デュポンやカーギルが参加していたRooseter.comは閉鎖となった。現在、クラフト・フーズ(Kraft Foods)とダノン(Dannon)が酪農を相手にしたeマーケットプレイス、Dairy.com(https://www.dairy.com/)を運営している。

ゴールドマン・サックスによると、農業におけるB2Bコマースは2000年は4%だったという。

 

(3)          自動車産業

自動車産業界は航空・宇宙産業と同様に多数の部品メーカーを抱えており、調達システムの構築は必至となっていた。米国でB2Bコマースに乗り出したのは、ゼネラル・モーターズ(GM)とフォードで、それにダイムラークライスラーが加わって一大コンソーシアム、コビシント(Covisint(http://www.covisint.com/)を形成した。その後、ルノー/日産やプジョー・シトロエンがコビジントへの出資を発表したほか、オラクル(Oracle)やコマースワン(Commerce One)といったB2Bコマース・プラットフォーム事業者も参入し、部品や原材料のサプライヤー(供給元)、そしてメーカー(自動車会社)の間でのeコマース・システム導入を実現させている。

フォレスター・リサーチによると、自動車産業におけるB2Bコマースは2000年は3%だったという。

 

(4)          石油化学製品

同業界の全市場規模は年間1兆ドルを軽く超えると言われており、今後どこまでB2Bコマースが普及するか注目を集めている。現在、ケムコネクト(ChemConnect(http://www.chemconnect.com/)のほか、eケミカルズ(e-Chemicals(http://www.e-chemicals.com/)、イーストマン・ケミカル(Eastman Chemical(http://www.eastman.com/)CheMatch.com(http://www.chematch.com/)が大手として君臨する。しかし、差別化が図れないeマーケットプレイスが相次いで閉鎖に追い込まれている一方、20021月にはケムコネクトがCheMatch.comの買収を発表するといった合従連衡の動きも続いている。

ケムコネクトに買収されることとなったが、CheMatch.comは匿名方式のリアルタイム取引システムを導入して顧客の信任を勝ち取っており、独立系eマーケットプレイスの成功例としての評価は高い。具体的には、売り手と買い手の双方が匿名で入札し、取引が成功すると双方の身元が照会される。また、特定の企業を指定するプライベート・エクスチェンジ機能も兼ね備えており、参加企業の方針によって売買方法を選択できる。

一方、下請けとだけ連動するプライベート・エクスチェンジを形成しているイーストマン・ケミカルは独自のeマーケットプレイス「イーストマン・マーケットプレイス」(http://www.eastmanmarketplace.com/)を開設し、逆オークションによる売買取引を仲介、最も単価の安い企業が販売権を獲得する仕組みとなっている。同エクスチェンジにはGEのインターネット事業部門GXS.comが技術提供業者としてシステム構築に参加しており、大手の後方支援のついたプライベート・エクスチェンジが勢力を伸ばしているという実態の典型例となっている。イーストマン・ケミカルは同サイトによって、入札要請から契約完了にかかる期間を以前の2か月から2週間に短縮し、さらに、得意業者との通信活動を含めて全購買額となる20億ドルの20%をオンラインで賄っているという。

フォレスター・リサーチによると、石油化学薬品製造業界におけるB2Bコマースは2000年は1.9%だったという。

 

(5)          コンピュータ/電機精密部品

同業界は、メーカーの生産効率化と業者らの販路拡大という2つのオンライン化を最も早くから導入した業界である。初期段階では、受注生産方式(BTO)を導入し徹底的なコスト削減を行ったデル・コンピュータや、製造から発送までのSCMのオンライン化を徹底させたシスコ・システムズの成功が挙げられる。

一方、700億ドル市場と言われる電子部品取引の市場規模の大きさに加え、部品在庫数は1,000万点におよび、メーカーが商品目録の情報を常時更新するという必要性から、取引のオンライン化が不可欠となっていた。そこで独立系のeマーケットプレイスに加えて登場したのが、販拡目的で立ち上げられた業界コンソーシアムだった。特に、IBMやシーゲート・テクノロジー、ソレクトロン、ノーテル・ネットワークスが設立したe2オープン(http://www.e2open.com/)や、コンパック・コンピュータ、ゲートウェイ、ヒューレット・パッカードといったパソコン関連メーカーが中心となったコンバージ(Converge(http://www.converge.com/)が有力コンソーシアムである。

e2オープンは単なるeマーケットプレイスとして機能するだけでなく、同業界で盛んなアウトソーシング事業を巧みに連動、設計から納品まで電子部品の製造で必要な全工程に関わる取引をオンライン提供する。互いのノウハウを交換することで自社の弱点(技術や市場)を捕足できるメリットは非常に大きいと言われる。

フォレスター・リサーチによると、コンピュータおよび電子部品のB2Bコマースは2000年は28%だったという。

 

(6)          小売り

小売り業界は米国経済を左右する巨大産業である。同業界最大手のウォルマート・ストアーズ(Wal-mart Stores)に代表されるように、同業界では顧客を対象にB2Cコマース、業者を相手にB2Bコマースの導入が積極的に行われてきた。これは、製造、卸し、販売に携わる企業が複雑に入り乱れ、業界の構造がモザイク化していたことから、各社が販路の簡略化によるコスト削減に乗り出したことが理由として挙げられる。

同業界のB2Bコマースとしては、ロイヤル・アホールド、Kマート(20021月に日本の会社更生法にあたる破産法第11条を申請)といった小売り大手17社が結成したワールドワイド・リテイル・エクスチェンジ(WWRE(http://www.worldwideretailexchange.org/)のほか、プロクタ−&ギャンブルやユニレバーが結成したトランソラ(Transora(http://www.transora.com/)、シアーズ・ローバックやクローガーが設立したグローバルネットエクスチェンジ(GNX(https://www.gnx.com/)といったコンソーシアムが乱立している。また、自ら独自のeマーケットプレイスを構築しているウォルマートも存在しており、独立系ベンチャーが同市場を席巻するのは厳しい。

こうした中で、特にWWREは非営利団体として機能していることから、より安価にかつ効率良く小売り商品を購入したい企業が次々に参加する形となっている。一方で、WWREが膨大な情報を抱え込み、技術的な面で特殊なニーズに対応できないという問題が浮上している。実際に小売り業者が取り扱う商品は、規格が統一されている工業製品に比べて非常に在庫管理が困難である。コンピュータの互換性や業者間のシステムの互換性も、同業界でのB2Bコマースを発展させるために解決しなければならない課題となっている。

フォレスター・リサーチによると、小売りのB2Bコマースは2000年は全体の1.2%に留まっていたという。

 

(7)          エネルギー資源

米国のエネルギー産業市場は年間1,360億ドルと推定されているが(eMarketer調べ)、2000年にオンライン取引額は全体の1.9%に過ぎなかったという。

現在、同業界のeマーケットプレイスで最大規模を誇るのが、燃料、貴金属、金など幅広い先物商品を取り扱っているインターコンチネンタルエクスチェンジ(ICE(http://www.ice.com/)で、BP、ロイヤル・ダッチ、シェルといった石油業界トップ3が参加している。ICEは原油から貴金属までを取り扱う巨大パブリック・エクスチェンジを運営しながら、従来の店頭取引を統合していった。また、競合するコンソーシアムには、ニューヨーク・マーカンタイル・エクスチェンジ(http://www.nymex.com/)があるが、先に起きたエンロンの破綻がどう影響するのか不確定要素が残されている。

一方、エンロンの破綻を前に、すでに事業の失敗に喘いでいたのが石油メジャーのシェブロンだった。全米3位の石油メジャーとして君臨する同社は1999年、eビジネス専門の子会社シェブロンeビジネス・デベロップメント(CeDC)を設立、PetroCosm.comおよびSiliconValleyOil.comSVOC)ほか、複数のeマーケットプレイスに出資し、B2Bコマースの基盤づくりに注力していた。しかし、20012月にSVOCを、同年4月にはPetroCosm.comを相次いで閉鎖し、石油関連B2Bコマース事業から事実上の撤退に追い込まれた。

PetroCosm.comは、eマーケットプレイス・プラットフォーム大手アリバ(Ariba)とVCのクロスポイント・ベンチャー・パートナーズの共同出資によって設立。当初は、業界大手が他社に先駆けて立ち上げたことから有望視されていた。しかし、共同出資企業の将来に対する意見が分裂し、市場の流動性が停滞したこともあいまってとん挫した。また、潤滑油と軽油に特化したSVOCもほぼ同様の理由で閉鎖となった。

現在生き残っている大手が今後、同様の危機に直面する可能性は否定できない。そのため、B2Bコマース市場の勢力図が二転三転することも考えられる。一方、従来の独立系サイトは、市場を拡張することが非常に困難となり、最終的に大手傘下に組み込まれてしまうと考えられる。

 

(8)          食品・飲料製品業

小売り同様に巨大な市場として期待がかかるのが、食料品および飲料といった消費財の産業である。eMarketerによると、食料品産業の世界市場はおよそ8,000億ドルと見積られており、アルコール飲料だけでも6,000億ドルに上る。米国ではそれに加えて、調理済みの食料品を提供する、いわゆるフード・サービスが非常に盛んになっている。これは、多くの世帯が共働きという社会的背景を反映させたものであり、その配給市場だけでも1,750億ドル規模に達することから、B2Bコマース市場として有望視されている。

しかし、実際にはB2Bコマースの浸透率は他の業界以上に低く、食料雑貨品(たばこを含む)および飲料水市場だけをとっても、米国内でのオンライン売上げは全体の1.1%にしか過ぎないという。(ゴールドマン・サックス調べ) いくつかの理由が考えられるが、主因は、業界の歴史が長く、そして巨大化したため、メーカー、卸売り、そして小売りをめぐって市場が断片化したことが挙げられる。

現在、複数のeマーケットプレイスが存在するが、その中で巨大サイトとして業界を牽引するのが業界コンソーシアムである上述のトランソラ(http://www.transora.com/)である。同社は、コダック、コカ・コーラ、ケロッグ、クラフト・フーズ、プロクタ−&ギャンブルなど、世界各国から50社以上が参加している巨大コンソーシアムで、市場規模はおよそ5,000億ドルに達すると言われている。商品の取引からSCMまで統括したサービスを提供し、旧来のEDIとウェブの両システムに対応することで、業界をオンライン上で統括すると期待されている。

 

(9)          不動産/建設業

エンジニア・ニューズ・レコード誌によると、2000年にオンラインで建設資材を調達した企業は全体の5.6%に過ぎなかったという。しかし、同業界が今後、B2Bコマース市場に期待するのは、そうした資材調達を含む取引というより、むしろコミュニケーションの発達と考えられる。必要となる人材を集たり、資機材を瞬時に集められる横のつながりを拡張できる点が重要となってくる。

一方、不動産事業は以前からB2C市場を中心にオンライン化が進んでいたが、B2Bコマース市場は企業向けのショーケースや情報提供に留まっていた。そうした中、20005月にサイモン・プロパティ・グループら不動産大手11社が結成したコンソーシアム、コンステレーション・リアル・テクノロジーズ(Constellation Real Technologies(http://www.constellationrealtechnologies.com/)を中心に、コスター・グループ(Costar Group(http://www.costar.com/)、アビドエクスチェンジ(AvidExchange(http://www.avidxchange.com/)といったeマーケットプレイスが同業界で台頭してきた。各サイトの機能は、不動産の売買から修繕や増改築に必要な資機材のオンライン取引に至っている。

ゴールドマン・サックスによると、建設および不動産のB2Bコマースは2000年は全体の15%だったという。

 

(10) 金融サービス

一般顧客向け金融商品の販売(B2C)はオフラインとオンラインを巧みに利用するチャールズ・シュワブ(The Charles Schwab)といったクリック&モルタル型の成功で市場に浸透してきたが、同業界でのB2Bコマース・サービスは、すでにオフラインのインフラが確立されているため、その普及が非常に遅れているのが現状である。主な業務としては、B2Cコマースを行う企業に対するオンライン取引決済のシステムまたはプラットフォームの提供や、エスクロー・サービスが挙げられる。

一方、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、ゴールドマン・サックスといった証券大手が企業向け投資商品の販売や公債、モルゲージの売買を中心としたeマーケットプレイス、トレードウェブ(TradeWeb(http://www.tradeweb.com/)を構築したほか、ブルームバーグも同市場へ参入を果たしている。

ゴールドマン・サックスによると、金融サービスのB2Bコマースは2000年は1.2%だったという。

(了)

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