2002年4月  JEITA ニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるB2B電子商取引の動向」(その2)


6.           B2B電子商取引の今後の展望

 B2B電子商取引は、先月の駐在員報告で述べたように、ドットコム・バブル崩壊によって概して厳しい時代を迎えているわけであるが、一方でこうした厳しい時代を背景に、様々な手法や事業モデルが登場し始めている。以下に当面の傾向として可能性が高いと予想されるものを挙げてみる。

(1)          包括的ビジネス・サービス・プロバイダー(BSP)の台頭

 eマーケットプレイスを提供してきた企業は今後、ソリューション・プロバイダーとの提携や合併が必要不可欠となってくると思われる。顧客は格安の商品を入手したり、取引を迅速にするだけでは満足せず、自社の顧客の動向や在庫状況にリアルタイムで対応できるeマーケットプレイスを要求するようになる。その時、コンサルティングから既存システムへの統合、そしてハードウェアおよびソフトウェアの供給をワンストップで行えるB2Bコマース事業者への依存度が高まってくるであろう。また、従来はeマーケットプレイスの提供で収益を挙げようとしてきた企業がソリューション・プロバイダーへと転換していく可能性も高くなる。こうした事業転換で再度注目を浴びるようになった企業の例として、鉄鋼製品のeマーケットプレイスを提供していたニュービュー・テクノロジーズ(NewView Technologies、旧eスチール)を挙げることができる。

(2)          バーティカルなプライベート・エクスチェンジへ移行

 従来の異業種にまたがるプラットフォーム(ホリゾンタル・エクスチェンジ)よりも各種分野に精通したプラットフォーム(バーティカル・エクスチェンジ)が好まれるようになる中で、eマーケットプレイス・プラットフォームを提供する企業がプライベート・エクスチェンジへと移行すると考えられる。専門的という考え方自体は以前から存在していたが、バーティカル・エクスチェンジには、コンサルティングからエクスチェンジの提供、そしてSCMERPの統合とオンライン決済まで処理するワンストップ・ショッピングの提供が必要になってくる。

(3)          大手の後方支援を得たコンソーシアムが勢力をつける

 eマーケットプレイスでは、資金力のあるコンソーシアムが、多くの売り手と買い手を擁する規模の大きさと信頼感が武器となって競争に勝ち残れる可能性が高くなると思われる。一方、新興企業の多くは事業から撤退することになるであろう。換言すると、それらの新興企業が顧客として取り込もうとした大企業が自らB2Bコマースの主導権を握るようになる「買い手市場」へと遷移する図式となる。

(4)          単なるASPでは生き残れずVSPへ脱皮

 電子商取引関連のソリューション・プロバイダーも、バイタル・リンク(Vital Link)にみられるように、単なるアプリケーション・サーバーの提供では採算が取れず、付加価値サービスをつけることによって差別化を図ることが必要になる。その手法として、特定業界に特化したASP、つまりバーティカル・サービス・プロバイダー(VSP)への脱皮する形態が増えると予測されている。バイタル・リンクの場合、飲食業界向けにPOS(販売時点情報管理)やビデオ監視システムをインターネットと組み合わせたサービスをオンラインで提供し、およそ2,500の顧客サイトが利用するまでに至っている。他のVSPとしては、金融サービスのドラド(Dorado)やマイヤーズ・インターネット(Myers Internet)がある。

(5)          P2PB2Bの融合型B2Pの台頭

 調達システムの新たな手法として2001年から注目されているのがピア・ツー・ピア(P2P)である。これは既にナップスター(Napster)で一躍有名になったモデルで、基本的にネットワークに参加するユーザーが情報を分散して保存、そしてそれを共有する仕組みである。P2Pの場合、サーバーは登録利用者の属性情報を管理するだけで、実際につながった端末同士がファイルのやり取りを行うため、規模の拡大につれてインフラを拡張する必要がなくなり、ネットワークを提供する企業のコスト削減につながる。

 このP2PB2Bコマース環境に導入したのがいわゆるB2Pと呼ばれる新手の事業モデルで、タイヤや整備業界向けにeマーケットプレイスを提供するオープンウェブス(OpenWebs)が先駆的存在となっている。同社のサービスを利用する企業はネットワーク上で在庫情報を自由に検索できるほか、自社のPOSと結び付けることによって、迅速な対応ができるようになった。そして何よりも、簡単にシステムを導入できてしまう汎用性は今後も非常に優位になると考えられる。

(6)          先行き不透明なソリューション・プロバイダー

 ソリューション・プロバイダー全般の行方については予測が難しい。1990年代後半から2000年にかけて、ERPベンダーがCRMへ転身したり、そこへeマーケットプレイスのプラットフォーム事業者が入り込む中で、それらを統合したソリューション・プロバイダーが登場するようになった。一方、業界ネットワークにポータル機能を提供する業界ポータル構築業者や、ウェブ・サイトのパフォーマンスや顧客の動向をつぶさに分析するウェブ・アナリティクス、コンテンツの管理やコンサルティングを提供するコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)も登場した。しかし、そういった事業者のサービスはどこかで重複する場合も多く、一概に線引きすることが難しい。言い換えれば、今後の統廃合によって一つの企業がいくつもの機能を提供し、統合的な事業へと収斂していくことになると考えられる。


おわりに

 B2Bの電子商取引がわかりにくいのは、インターネットの普及によって、eマーケットプレイス構築といった人目に付きやすいIT化と、ERPSCMCRMといったバックオフィスを中心とするIT化の融合が進みつつある中で、業種毎、企業毎に異なる様々なビジネス慣行を反映した様々な取り組みが行われているからである。

 具体的事例でも取り上げたように、この分野での勝者、敗者は依然として流動的であり、今後も企業の勃興、淘汰、合従連衡という激しい動きの中から「流れ」が生まれてくるものと思われる。(了)



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