98年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

97年の回顧と98年の展望 -8-


3.メディア・ビジネスへの期待

 前号で、11月のCOMDEXの感想として、家電とコンピュータの境界領域の分野が目立っていたと述べた。97年は、「Information Appliances(情報家電)」がかなり話題になった年であった。それにはいくつかの要因があったと思う。第1はDVDが出てきたこと。DVDレコーダーはPCでもテレビでもどちらにも使えるものであるため、境界を低くする役割を果たした。第2は、前述したようにケーブル・モデムの普及が始まったこと。ケーブル・モデムは単にPCにつなぐだけでなく、もともとテレビにつながっていたセット・トップ・ボックス(STB)が進化したものとも言えるのである。第3は、これが最大の要因だろうが、デジタル放送の開始が98年11月と迫ってきたこと。同時にHDTV放送のスタートも約束されたこと。しかも、放送フォーマットが複数方式併存することになったため、ハード提供側に様々なチャンスが生まれることになったのが大きい。その他にも要因はあるのだろうが、PC業界にとっても家電業界にとっても、今の技術の延長上ですぐに捉えることのできる巨大な市場なのである。PCがラフに言って米国1億世帯のようやく43%の4,300世帯に普及してきたと述べたが、テレビの普及率は97%であるし、CATVの普及率は67%で、その6,700万世帯にあるSTBの数はもっと多いはずである。(因みに我が家はテレビ4台それぞれにSTBが載っている。もちろん標準のCATV受信サービスだけならボックスを必要としないものもある。)これらが高機能のデジタルSTBに代わる、あるいはテレビそのものがデジタル対応のパソコンテレビに代わると考えただけで、その市場の大きさはわかろう。

 最近の動きを少し見てみよう。97年の展望の中にウェブTVの紹介があった。96年10月からサービスを開始したウェブTVであるが、97年8月にはマイクロソフトの傘下に入り、9月には第2世代のシステムであるウェブTVプラスを発表した。最近になって電器店に出回るようになってきたが、12月に店頭に置かれた三菱製のウェブTVプラスはあっという間に売り切れたそうである。その他に、ソニーとフィリップスも作っている。ウェブTVプラスは第1世代のものと違って、テレビとウェブの切り替えではなく、テレビの中に小画面でウェブを映したりその逆もでき、電話回線につなぐモデムも33.6Kbpsから56Kbpsになり、また1.1GBのハードディスクも搭載されたことからMPEGで圧縮されたビデオ12時間分を夜のうちにダウンロードしておくことなどもできる。しかも、価格は299ドル(値引き後で279〜199ドル)で、月間の接続料は19.95ドル(12月からMCIの電話地域だと14.45ドル)というものである。日本でもサービスが始まったようなので、これ以上の説明はしないが、米国においては300ドルというのがこのような製品が売れるか売れないかのスレショルドらしく、97年のクリスマス商戦では相当売れたことだろう。因みにクリスマス前の段階での加入者は15万と発表されている。

 ここで、この世代のウェブTVがインフォメーション・アプライアンス(IAs)の中心になっていくと予想するつもりはない。あくまでもこれは過渡期の商品であり、今後は上述したように、デジタルTV、HDTVを受信するための次世代のデジタルSTBとケーブル・モデム、そしてそれらを組み合わせたものが中心になってくるのである。もちろん、さらにそれらが一体となって画面まで備えたデジタルPCテレビ、あるいはPC-HDTVとでも呼ぶようなものが出てくるのだろう。しかし画面までHDTV対応にしたものにすると、それだけでも5,000ドル〜10,000というような価格帯になってしまうであろうから、各家庭が今持っているテレビを捨ててまで、すぐに切り替えていくとは思われない。従って、既存のテレビの上に置くものが次の主役になるのである。

 最近の動きとして、ケーブル・モデムについては前述したとおりであるが、後回しにしたインテルの動きを見てみよう。インテルは97年10月に、シスコ社と@ホーム社とそれぞれ別に、ケーブルモデム開発で協力することを発表している。併せて、CATV業界の開発コンソーシアムであるケーブルラボとも協力協定を結んでいる。これらの協力関係は最終的には前述したように各社がMCNS仕様に沿った互換性のあるケーブル・モデムを98年中に発表していくという形にまとまって行き、その中にインテルのチップが使われる可能性を高めたと言うことにつながる。

 一方、セット・トップ・ボックスについても、インテルは積極的な動きを展開している。10月3日付のウォール・ストリート・ジャーナルに「インテルとマイクロソフトがインターネットTVでは分裂」という見出しで書かれたように、インテルはネットワーク・コンピュータ(NCI)社(オラクル社傘下=マイクロソフトのライバル)の主導するSTBの標準に支持を表明している。12月9日、カリフォルニア州アナハイムで開催されたウェスタン・ケーブル・ショーにおいて、そのNCI社の標準となる「DVDナビゲーター」というデジタルSTB用のソフトウェアが発表された。このソフトはその名の通り、ネットスケープ社のナビゲーター技術を基にしながら、HTMLとJavaスクリプトでアプリケーションが書かれたオープンさを売り物にしている。インターネットのアクセスについては、放送信号の合間に埋め込まれたインターネット信号を拾うという形で下りは受け持ち、上りはケーブル・モデムや電話回線利用のアナログ・モデムやADSLをサポートしている。実はこれはオラクルの言う「ネットワーク・コンピュータ(NC)」のホーム版そのものであり、テレビ放送の代わりにソフトウェアをダウンロードすれば、NCにもなり得るのである。話がそれたが、このDVDナビゲーターはプラットフォームを選ばないと言うことで、インテルもこれを入れたペンティアムUベースのデジタルSTBの実演をしている。

 このデジタルSTBについて、インテルは12月4日にその詳細を発表した。インテル自身はこのペンティアムUベースのボックスをセットトップ・コンピュータと呼びたいようであり、これによって、かつてインテル、マイクロソフト、コンパックが主張していたPCに最適のデジタル放送フォーマットのみならず、全てのフォーマットを変換できるばかりでなく、その名の通りPCとしての機能も発揮できる。インテルとしては、これを今後のデジタルSTB市場、PC-TV市場の標準にしたいと考えているのである。

 さて、本稿の締め切りを過ぎた12月22日付けのニューヨーク・タイムズ紙によると、CATV業界トップのTCIが、これら新しいデジタルSTBの中からどれを選ぶかが注目されていた競争入札の結果が、17日明らかになった。落札したのはネクストレベル・システムズ社で、今後3年間で150万台のデジタルSTBを納める。1台当たりの価格は300ドル程度と言われており、総額では45億ドルになる。TCIの年商が80億ドル程度、ネクストレベルは18億ドル程度ということから、どちらにとっても相当大きな取引ということになる。マイクロソフトはウェブTVとウィンドウズCEをベースにしたデジタルSTBで、NCIはDVDナビゲーターで、そしてインテルもセットトップ・コンピュータで応札していたのだろうが、全て今回は破れたことになる。もちろん、IBM、サン・マイクロシステムズ、サイエティフィック・アトランタ、東芝、シスコ、トムソン、ソニー、ルーセント、ゼニス、テキサス・インストルメント、パナソニックを含む約30の企業も狙っていたはずである(NYT紙が挙げているままの企業名)。しかし、今回の入札はNYT紙曰く、「シリコンバレー企業が、PCの世界を乗り越えて、はるかに大きなテレビ・ビジネスに向かうためのレースのスターティング・ガンが鳴ったにすぎない。」1998年はこのレースがどのように展開していくのだろうか。


おわりに
 以上、私の興味で勝手に分野を選び、97年の回顧と98年の展望を行ってきた。挙げていないことは多い。Javaを巡る争いはどうなるのか、NC対NetPC、そこにWBD(ウィンドウズ・ベースド・ターミナル)が加わった争いはどうなりそうか、米国での2000年問題はどのように進んでいくのか等々、いくらでも重要な話題はあるだろう。もっと調べたかったのだが、私の半年の経験ではそこまでは手が回らなかったとの言い訳をさせていただくしかない。しかし、ITの世界は1年で通常の世界の7年分の動きがあるという。半年も居ればベテランとなっていなければならないだろう。さあ、今年、1998年にはどれだけのスピードでITの世界は拡がっていくのだろう。皆様のご指導を受けつつ、一緒に追いかけるのを楽しんでいけるようにしたい。 9

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