98年8月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

グローバル・エレクトロニック・コマース
フレームワーク発表から1年(前半)-6-

U.主要な項目についての進捗状況
 ここまでを見れば、各項目の大まかな状況は理解できると思うが、ここからは主要な項目について、その進捗状況を詳細に見てみることにする。

1.インターネットへの課税問題
インターネットへの関税・課税に係るフリー・トレード・ゾーン構想については、Eコマースのフレームワークの中でも、国際的なハーモナイゼーションがすぐにも必要となるものであることから、当初から最も注目されていたイシューである。現時点での状況を一言で言えば、米国内はインターネット・タックス・フリーダム法案が下院では6月23日に成立、上院でも近く成立の見込みで、一方、国際的には5月20日、WTO閣僚会議で当面のスタンド・スティルに合意したと言うところである。先に、参考までにWTO閣僚会議でのEコマースに関する宣言の関連部分を掲げておく。

「我々は、また、作業計画の結果又はWTO諸協定に基づく加盟国の権利義務に影響を及ぼすことなく、加盟国が電子送信に関税を賦課しないという現在の慣行を継続することを宣言する。一般理事会は、第三回閣僚会議に報告を行う際、この宣言を見直す。宣言の延長については、作業計画の進展を踏まえつつ、コンセンサスにより決定される。」

さて、米国内での動きであるが、97年3月にクリストファー・コックス下院議員(共和党、カリフォルニア)とロン・ワイデン上院議員(民主党、オレゴン)により提出されたインターネット・タックス・フリーダム法案も、97年中は州・地方政府などから課税権限の不当な抑制であるとして反対を浴びて、審議があまり進まなかった。クリントン大統領は、このような状況を打開するため、98年2月26日、サンフランシスコでの講演で同法案への支持を表明した。大統領の発言は、「米国内の3万もの課税当局がEコマースから税を取れないかと考えているが、この最も有望な新しい成長の芽を不公正な課税によって損なってはならない。もちろん同法案は既存の税をEコマースに課すのを妨げるものではない。私は、州知事、市長等の関心を聞いており、成長を約束し、非差別的で、かつ地域に必要な歳入を与えるようなルールを確立するために、コンセンサスを作っていこうと約束している。」という主旨のもの。

(ここで言う既存の税というのは売上税のことで、メールオーダーなどで商品を買う場合、自分の住んでいる州の業者から購入すれば、通常の商店で買ったときと同様に売上税はかかるが、他州の業者から買えばかからないという規定があり、インターネット上で商品を注文して買う場合も同様に扱うと言うこと。因みにニューヨーク市の売上税率は8.25%もするので、私も先般PCを買った際にはわざわざニュージャージー州からメールオーダーで取り寄せたりした。)

この講演以降、特にコックス下院議員が州知事会などと精力的に交渉し、3月19日には、当初6年としていた課税の猶予を3年にし、またEコマースへの適正な課税のあり方について委員会を作り提言を出すなどの歩み寄りにより、両者が合意を見たと発表している。最終的に下院では5月14日に商業委員会を通過し、6月23日に本委員会にて満場一致で可決されている。いくつかの修正を経て可決された法案の主旨は以下のようになっている。

州及び地方政府は、インターネット・セールス及びサービスへ新たな課税を行うことを3年間猶予する。

諮問委員会を設置して遠隔販売の問題について研究し、2年以内に議会に報告を提出させる。(構成は連邦政府3名、州・地方政府から14名、産業界及び消費者からは共和党、民主党がそれぞれ7名を推薦し、計31名とする。)

行政府が、外国政府に対し同様にインターネットを関税・課税をフリーに保つよう求めることを要請する。

既にインターネット・アクセス及びセールスに課税している8州(コネチカット、ウィスコンシン、アイオワ、ノースダコタ、サウスダコタ、ニューメキシコ、テネシー、オハイオ)は、それを継続できるが、1年以内にその継続を法制化できなければ廃止する。

(余談であるが、州政府にしてみれば、諮問委員会で、今までしたくてもできなかった州を超えたメールオーダーへの売上税課税について議論できることになったのは渡りに船だろう。もし課税が許されるようにでもなったら、メールオーダー業者や(私のような)消費者はとんだとばっちりを受けることになる。)

一方、上院においては、5月5日に、商業委員会を通過した後(元の通り6年間のモラトリアムのまま)、司法委員会に回り、7月16日に公聴会が開催されている。ここで、コックス下院議員も証言に立ち下院法案の説明をしているが、「この法案は単なる国内法ではなく、クリントン政権に対し、外国政府にも関税・課税をフリーにさせるよう要請していると言うところが重要なのだ。なぜなら今は米国がEコマース市場を支配するのに優位な位置にあるため、非課税を保つことは米国に直ちに利益をもたらすからだ。」とまで言っている。(ちょっと言い過ぎではないか?)また、現在連邦政府が電話料金などに課している3%の通信税については、下院法案に言及されていないが、これを月々19.95ドルなどのインターネット・アクセス料の上に課している州もあり、連邦税も上院法案ではモラトリアムの中に追加して欲しいとの要請をしている。

上院では7月30日までに司法委員会を通過できない場合は、自動的に本委員会に上げるというカレンダーに入っているため、下院法案との関係でどのような修正が成されるかはわからないものの、9月中には可決されることになるのだろう。(なお、連邦議会は11月の中間選挙のため、8月の夏期休会後、9月から10月9日まで開会されて、それで第105議会を終える予定。)

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