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98年9月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
グローバル・エレクトロニック・コマース
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(前回に引き続き、今回も昨年7月のクリントン政権のEコマースのフレームワークから1年たった時点での、各項目毎のレビューをしてみたい。)
●1. 暗号 暗号に関する昨年来の動きについて見てみよう。Eコマースのフレームワークに掲げられた暗号に関する目標は、「行政府は産業界と連携し、信頼性の高い公開鍵暗号のインフラの開発を促進し、必要とされるセーフガードを提供する。」というものであった。つまり、昨年の本月報9、10月号で報告したように、96年以来、クリントン政権はキー・リカバリー機能を組み込んだパブリック・キー・インフラストラクチャー(PKI)の構築を目標に置き、民間の猛反対にも関わらず一貫して議論を進めようとしてきたのである。 しかし、昨年前半の議会で、合法的なキー・リカバリーの禁止と暗号製品の大幅な輸出規制緩和を骨子とする「暗号によるセキュリティー・自由 (SAFE) 法案」が多くの賛同を得られるにつれ、政府方針の先行きは怪しいものとなってきた。そこで9月、上院の司法委員会「技術・テロリズム・政府情報」小委員会において、FBIのルイス・フリー長官が、公共の安全と国家の安全保障の観点から、法執行機関にとっての暗号問題への理想的な解決法は、米国内でキー・リカバリー・システムを強制することである旨を明言し、一気に議論をリー・リカバリー強制側に引き戻した。但し、これはホワイトハウスの方針よりさらに厳しい側に振れ過ぎていたため、クリントン大統領が政府方針は不動との発言をしなければならなかったぐらいではあったが。このフリー長官の証言を契機に、暗号自由化に慎重な側が力を取り戻して各種の修正条項を入れたため、昨年9月末の段階でSAFE法案は、下院の5委員会(司法、国際関係、商業、安全保障、諜報)が、それぞれ相異なる修正を施して可決するという事態になった。結局、その後SAFE法案の一元化が行われている様子はなく、98年3月に法案提出者のボブ・グッドラッテ議員(共和党、バージニア)が議会において同法案の審議再開を訴えた以外は表に出てくることはなくなっている。 この3月頃から、FBIの強硬姿勢に変化が見え始めたようである。FBIの幹部が、「法執行当局は、法的手順に則って犯罪関連の通信あるいは電子保存データの平文(ひらぶん)にアクセスするための技術的な能力を持つことに関心を有しているのであって、キー・リカバリーの強制のみにこだわってはいない」旨の発言(これに技術的な解はあるのだろうか?)をし、司法省幹部もこれを裏付けたりしている。 さらに4月15日には、前回も示したように、ウィリアム・デーリー商務長官が「The Emerging Digital Economy」の記者発表の際に、暗号政策について政府が追及してきた国家安全保障と民間の利益とのバランスを求めるという方向は間違っていなかったものの、これまでの進め方には誤りがあったと述べている。 法執行当局の懸念は理解するものの、既に米国以外の29ヶ国が97年末段階で656の暗号製品を出荷しており、このままでは外国にこの市場を支配されてしまう。従って、政府においても民間においても、妥協による問題解決を図るという努力を改めて開始しようと呼びかけている。 この流れに沿ってか、5月12日には両者の妥協を促進するようなS.2067「Encryption Protects the Rights of Individuals from Violation and Abuse in CYberspace Act (E-PRIVACY)」法案が、ジョン・アッシュクロフト(共和党、ミズーリ)及びパトリック・レイヒー(民主党、バーモント)の両上院議員により提出されている。 E-PRIVACY法案は、
でも、流れは変わっていないようで、6月9日には、ダイアン・フェインステイン上院議員(民主党、カリフォルニア)の仲介により、マイクロソフトのビル・ゲイツ、ネットスケープのジム・バークスデール、サンのスコット・マクニーリー、アメリカ・オンラインのスティーブ・ケースを含む主要なITメーカーのCEOが、ジャネット・リノ司法長官及びルイス・フリーFBI長官等と、暗号政策に関する話し合いの機会を持った。その内容は明らかにされていないが、ホワイトハウスは、この話し合いが暗号製品輸出の緩和につながることを期待するとのコメントを出している。 |