98年9月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

グローバル・エレクトロニック・コマース
フレームワーク発表から1年(後半)-5-

4. その他

前回報告した、課税、プライバシー、ドメイン・ネームについて、その後の1ヶ月に生じた動きを若干補足してみたい。

(1) インターネットへの課税
 上院のインターネット・タックス・フリーダム法案(S.442)であるが、7月28日に財政委員会を19対1の投票で通過した。(前回、司法委員会と書きましたが、財政委員会の誤りです。)大きな修正として、商業委員会では6年間のモラトリアムとなっていたものが、2年間に短縮されている。(下院通過法案は3年間。)上院の議論では、Eコマースの規模はもはや幼稚産業の域を超えており、どのように課税が適当なのかを決めるのに2年もあれば十分と言うものだった。また、現在インターネット・アクセスに課税している州はそれを継続できるとする経過措置が取り除かれている。

この法案は結局、両委員会での差異を調整している時間がなく、夏休み休会までに本会議に上げられなかったが、9月には調整を経て本会議で決定がなされる見込みである。しかし、さらに両院法案の調整が控えており、年内の成立は微妙なところであろう。

(2) プライバシー保護
ゴア副大統領は、7月31日のホワイトハウスでのプレスコンファレンスで、消費者のプライバシー保護にかかる一連のイニシアチブ「電子権利章典(Electronic Bill of Rights)」を発表した。その中身に特に目新しいものはないが、まず13歳未満の子供から親の同意なしで個人情報を収集することを禁止するための法制化を要請。個人の医療情報保護についても、きちんとした法制化がなされるまでは、医療ID番号の付与開始は延期するとした。また、いわゆる「identity thieves」(社会保険番号や運転免許証番号などを盗むこと)を厳しく罰するための法案S.512「Identity Theft and Assumption Deterrence Act of 1997」(7月30日に上院通過)を議会が通すことを求めた。さらに、ホワイトハウスが「Privacy czar」を任命して、プライバシー政策についてのクリアリング機能を持たせることを計画していることを明らかにした。

また、大統領顧問のアイラ・マガツィナー氏は、8月25日、民間団体主催のインターネット関連の会合で、プライバシー保護に係るEUの指令(10月25日発効)については、まだEU15カ国のうち3カ国しか法案を通していないなど、足並みが揃っているわけではなく、再考させることはできると信じていると語っている。

(3) ドメイン・ネーム・システム
「インターネットのドメイン名とアドレスの管理に関するポリシー・ステートメント」、いわゆる白書が6月に出された後、9月末までの間にこの白書の核心でもある「コーポレーション」のボードを選定する必要がある。このために臨時のグループとして世界中のインターネット・コミュニティーの自由な参加からなる「International Forum on White Paper(IFWP)」(www.ifwp.org)が組織され、世界を行脚して白書の理解とコーポレーションの設置に関するコンセンサスを求めつつある。

既に、7月1?2日の北米地域会合(バージニア州レストン)、7月24、25日の欧州地域会合(ジュネーブ)、8月11?13日のアジア太平洋地域会合(シンガポール)、そして8月20、21日の中南米会合(ブエノスアイレス)と世界を回り終え、最後は9月にアメリカで総括の会議が開催されるようである。それぞれの地域で得られたコンセンサスもウェブサイトから見ることができるが、ボードメンバーにはそれぞれの地域の代表が同じ比重で入ることと言うのが当然のことながら強調されている。

さて、コーポレーションの組織であるが、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)(www.iana.org)が進化して行くのが好ましいとしていた米国政府の意図のとおり、IANA所長のジョン・ポステル博士(インターネットの父の一人)は新IANAへの移行準備を着々と進めている。既に7月17日に最初の定款(Bylaws)案を出してコメントを求め、8月24日には第3版を掲示している。定款案によれば、コーポレーションはカリフォルニア州の非営利団体として、オフィスはロサンゼルスに置く。名称は定款案の中にははっきりとは示されていないが、別の文書で見ると「IANA」のままにしようとしているらしい。事業はインターネット運用の安定維持及びトップ・レベル・ドメインの割当て管理に必要なあらゆること。ボードメンバーは世界の地域代表を半数含む9名とする、というようなものである。どうもコーポレーションと言ってもIANAが米国内で東から西に移り、ボードメンバーに世界の地域代表が一人ずつ加わるだけで、これまでとあまり変わらないような気もするが、まあそういうものなのかもしれない。 

いずれにしても、9月末を目指して夏休み返上で行われている準備作業は、目を回すようなスピードで進んでいる。この稿が月報に掲載される頃には、もう新体制の大枠は固まり、いよいよドメイン・ネーム・システムの中身の議論を始めようとしているのだろう。(ところで、日本はこのスピードについて行けているのだろうか?)

おわりに
2回にわけて、米国のEコマースのフレームワークのその後を見てきたが、まだ、決済や認証のルール作りなど、触れていないところもある。9月以降、議会での審議の再開や、ドメイン・ネーム・システムの新体制の決定など、様々な動きが現われて来る。したがって、また近くこの問題の続きをご報告しなければならないだろうと考えているところである。それにしてもこの世界、ついて行こうとするのは疲れますね。

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