98年910月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一


米国における
コンピュータ2000年問題のその後-7-

3.各セクターにおけるY2K対応の状況

各セクターにおける状況を見る前に、8月にコンサルタント会社のキャップ・ジェミニ・アメリカが発表した、2000年問題に係る民間主要企業116社及び14政府機関に対するインタビュー調査結果で概要を見てみよう。これによると民間セクターは対応が進んでいるソフトウェア業界から遅れているヘルスケア業界まで、100点満点の88〜80までに収まっているが、政府機関は67と対応が遅れている。

民間セクターを進んでいる順から上げると、ソフトウェア、金融、コンピュータ、製造業と通信(同点)、航空、石油・ガス、製薬、流通、運輸と電力(同点)、ヘルスケアとなっている。調査対象企業、政府機関の40%は既に2000年問題に係るシステム障害を経験しており、86%は99年1月以降、障害は増えると予想している。一方で57%の企業は2000年対応の状況により市場の競争状況に変化が生まれ、35%は彼らの2000年問題進捗度を市場へのメッセージとして積極的に送っていくとしている。また、55%の企業は2000年問題非対応企業との取引は行わなくなるだろうとしている。

というところで、以下にクリティカルとされる各セクターの状況の概要と、州政府の状況、横断的な問題であるライアビリティと訴訟の問題、そしてエンベッデッド・システムの問題について述べてみよう。

(1) 金融
 銀行については、連邦準備委員会/銀行(FRB)及び関連の連邦金融機関検査委員会(FFIEC)等が中心になって、国内及び国際的な金融コミュニティーのY2K対応を図っている。かなり以前より国内の銀行に対してY2K対応の警告を発しているが、97年11月にはスーパービジョン・プログラム(http://www.ny.frb.org/bankinfo/circular/10996.html)を策定し、各行が98年半ばまでに接続試験を開始し、98年末までにはミッションクリティカルなシステムについては対策を完了するという目標を設定し、各行がそれを達成するための詳細な対策プランをFRBに提出するよう指示している。その後も個別の指導を行いつつ、98年8月20日には、フェーズUのスーパーバイザリー・レビュー・プラン(http://www.ny.frb.org/bankinfo/circular/11084.html)を策定しており、この中では、98年7月〜99年3月を対象期間として、接続試験とCPの策定を中心に詳細な指導をしている。CPについては、98年6月に、FFIECがそれを策定するための主要な要素に関するガイダンス(http://www.ny.frb.org/bankinfo/circular/11057.html)を出している。
 
一方、国際的なY2K対応のための活動も活発に行われてきているが、特に98年4月8日にthe Bank for International Settlements(BIS)が主催した2000年問題のラウンドテーブルで設置が決定された国際金融機構の共同委員会(Joint Year 2000 Council)が、今後の議論をリードする場となる。2000年問題に関する国際的な情報交換や調整など、全てがここで取り仕切られることになっており、CPに関するペーパーもここで作成中であり、これは銀行毎のレベルのコンティンジェンシーにも、マーケット・ワイドのそれにも対応できるものとなる。
 
証券については、規制側としてはSECがあるが、業界団体としては、証券業協会(Security Industry Association: SIA)が、様々にY2K対策活動を行っている。その内容は、普及啓蒙から業界上げての接続テスト、コンティンジェンシー・プランの策定支援に至るまで多岐にわたっており、7月には接続の予備テストを成功させるなど、対応はかなり進んでいる。

(2)電力
電力については、6月12日に上院Y2K特別委の最初の公聴会において、主要10社に対するY2K進捗度調査が発表され、その対応の遅れが大きくクローズアップされた。最初の評価の段階を終了しているのが、10社中2社のみであり、また、電力業界にとってクリティカルな自動システム中のエンベッデッド・チップについて、ある社は30万のシステムが存在するなどとしているが、十分な実態把握がなされておらず、さらには石油、ガス、石炭などの供給先のY2K対応について考慮されていない、等々が指摘され、ドッド副議長には「もはや停電が発生するかどうか議論するのではなく、その停電をどれだけ抑えられるかどうかを議論する段階」とまで酷評された。

このような状況を受けて、クリントン大統領のイニシアチブにあった「キャンペーン」を、電力業界が初めて採用し、7月28日、コスキネン議長、エネルギー省のエリザベス・モラー長官代行、北米電力信頼度協議会(NERC)のマイケル・ゲント会長によって、ナショナル・プレス・クラブで発表された。エネルギー省ではNERCに電力業界のY2K対応支援のためのリーダーシップを要請し、NERCではそれに応えて全米300の電力会社のY2K対応状況についての調査を行うとともに、1)エネルギー省に対する定期的な進捗状況報告、2)全電力業界にわたるCP策定の調整、3) 共通的な電力業界の設備やシステムのY2K対応に係る情報のマスター・チェックリストの策定などのY2Kプログラムを開発している。

これに従い、9月17日、NERCから初めての業界包括的な状況調査及びワークプランが発表されており(ftp://ftp.nerc.com/pub/sys/all_updl/docs/y2k/y2kreport-doe.pdf)、かなり厳しい目標としつつも、98年10月末までに評価段階を終了、99年5月末までに改修と確認を終了、6月末までにクリティカル・システムのY2K対応を完了するとしている。併せて、98年内にCPのドラフトを策定し、99年6月末までに企業レベル、地域レベルのCPを策定する。

(3)運輸
最新の状況として、9月10日に上院Y2K特別委の公聴会で運輸が取り上げられた。同委員会が同日発表した、主要なエアライン、空港、鉄道、海運、トラック輸送、都市交通からの32社(うち16社の回答がこの集計に間に合った)を対象とした調査の結果は以下のとおり(http://www.senate.gov/~y2k/index.html)。
回答企業の62%が未だ評価段階を終了していない。
CPを策定済みの企業はなく、半数が取り掛かってもいない。
94%の合計のY2K対策費は6.5億ドルを超える。
半数の企業がY2Kに係る訴訟を懸念している。
94%の企業がY2K対応は期限に間に合うとしている。(しかし、委員会としては評価もまだ済んでいないのに、これは楽観過ぎると感じている。)
回答した8社のうち6社が、彼らのシステムのうち70%以上がミッションクリティカルと評価している。
 
この調査ではエアラインと空港からの回答数が十分でなかったが、運輸業界全体としての進捗もあまり芳しくないとの評価がなされた。

逆に運輸の中で最もクリティカルとされてきた連邦航空局(FAA)(http://www.faay2k.com)の管制システムについては、同公聴会で証言に立ったジェーン・ガーベイFAA長官が、急ピッチで作業を進めた結果、クリティカルシステムに限らず全てのシステムのY2K対応の完了が連邦政府の期限の99年3月にほぼ間に合うまでになったとしている。問題とされていた旧IBMメインフレームを使っているHOSTコンピュータ・システムは全て新システムに入れ替えられることになっているが、コンティンジェンシーに備え、旧HOSTシステムもこの7月までに改修を終了し、2000年以降も使えるようになっている。CPも策定中である。
 
航空業界の団体としてはIATA(www.iata.org/y2k/Index.htm)が96年頃から2000年問題のワーキンググループを作って啓蒙に努めてきているが、98年1月からは、この活動をIATA PROJECT 2000として拡充し、空港、管制システム、地上サービスなどを含むサービスサプライヤーとも協調しつつ、対策にあたるとしている。

(4)通信
通信については、各電話会社が独自に進めているY2K対策を、連邦通信委員会(FCC)がスーパーバイズしており、最近の状況については7月31日のマイケル・パウエルFCC長官の上院Y2K特別委の公聴会での証言(http://www.fcc.gov/Speeches/Powell/Statements/stmkp819.html)に詳しい。同証言によれば、米国内の電話回線の98%を20社で占めているが、彼らに対する4月時点の調査では、全ての対策が99年第2四半期に終了するとされているとのこと。

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