98年11月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるデジタル認証の動向-4-

(3)デジタル認証活用事例

デジタル認証システムは企業が顧客と取引する際にも、確実で割安な身元確認の手段を提供し、オンラインベースで顧客数を増加させることにつながる。また、取引業者や提携企業との取引に際しても絶大な効果を発揮する。

例えば、ベル・サウス・テレコミュニケーションはデジタル認証を利用し、経費の報告を電子的に処理するシステムを導入した。それまで、経費の処理に3週間以上かかっていたのが、新システムの導入によりわずか2日に短縮された。同社のITネットワーク管理者のロブ・ラスト氏は、CAシステムが完全に導入されれば、事務処理の簡略化による経費削減効果は年間540万ドルにも達すると予測している。

 ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)はデジタル認証を利用してインターネットを利用した確実で割安なEコマースを提供している。デジタル認証を利用することで、極秘文書の送付や電子メールを利用した文書の交換の際に安全性が保証されるのである。これらのサービスを利用する料金はクーリエを利用した速達便よりも低く押さえられると期待されており注目を集めている。

 一方、トロントに拠点を持つスコシア銀行(ScotiaBank)は97年7月にデジタル認証を利用したオンラインバンキングサービスを開始、現在利用者は3万2千人に上る。口座の残高照会ばかりでなく、資金移動、振り込み、金融商品に関する情報提供、株の売買に至るまで総合的なサービスを提供している。同銀行のシステムセキュリティを担当する副社長ポール・ウイング氏は現在、オンラインバンキングサービスの利用者は当初の予測をはるかに上回っており、評判は上々と話している。

JPモルガンもデジタル認証を導入した企業の一つである。それまではクライアントがJPモルガンにダイアルアップをし専用のハードウェアを利用した暗号化が行われていたが、接続が中断するとトランザクションの全てが停止するという弱点に悩まされていた。そこで、デジタル認証システムを導入し、安全性が高くかつ利用しやすいトランザクションを実現することに成功した。同社のインターネット・セキュリティ担当の副社長チャールズ・ブロウナ氏は一台あたり2,500ドルかかる専用機器が不必要となることから、少なくとも100万ドルのコスト削減につながるだろうと報告している。さらに、ハードウェア機器のメインテナンスにかかっていた費用が節約できる他、トランザクション処理にかかる時間も大幅に短縮される。例えば、それまで郵便で送られていた文書を電子メールで処理することが可能となり、規約の交渉に通常平均3週間は要していたのが、3日程度にまで短縮された。

(4)デジタル認証技術に対する需要

インターネット、電子メール、VPN(Virtual Private Network)などを利用したEコマースが普及するにつれ、デジタル認証技術に対する需要も急増している。フロスト・アンド・サリバン(Frost & Sullivan)が97年に行った調査では、電子メールを利用した暗号アプリケーション市場が全体の53%を占めている一方で、VPN市場は全体の24%、PKI(Public Key Infrastructure)市場は23%程度であると報告されている。このようなセキュリティ向上を支援する技術開発が進んでいるが、その背景にはインターネットの利用により機密情報の漏洩が大きな問題となっていること、巨大ファイルをインターネット・プロトコル(IP)でやりとりしたいという企業が増加していることなど様々な要因が存在しているためである。

現時点ではデジタル認証は産業界に普及しつつある技術であり、一般消費者への普及はそれほど進んでいない。しかし、ひとたび技術の信頼性が証明され、消費者に親しみやすいシステムが構築されれば、一般消費者からの需要も爆発的に増加すると見られている。現にいくつかのベンダーは一般消費者を対象としたデジタル認証サービスを開始しており、一旦、消費者が抱く不安要素が解決すれば、これまで馴染みの薄かったデジタル認証が普及するのに時間はかからないと考えられる。Eコマースの普及とあいまって、今後数年の間に認証技術が飛躍的に向上し、同時にそれに対する需要も急増するであろうと考えるのが専門家の間での共通見解となっている。

 データクエストは、現在5,600万ドル程度であるデジタル認証サービスやソフトウェアの市場は、2001年までに1億ドルを超えると予測している(図3参照)。

出典:データクエスト(97年1月)


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