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99年1月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
98年の回顧と99年の展望 -1- |
はじめに
98年もあっという間に過ぎ、暮れ行く年を回顧する時期がやってきた。つまり私のニューヨーク駐在も1年半が過ぎ、予定で言えば折返し点に差し掛かったということになる。今年は昨年とは違い、1年間じっくりと米国のIT産業を見てきたので、書く内容について言い訳はできないのかもしれない。見てきたこと、聞いてきたことをもとに、いくつかのトピックに絞りつつも、98年の回顧と99年の展望を記してみよう。 ただその前に、1年前に書いた98年の展望が少しは当たっていたかどうか反省してみることが必要であろう。昨年はPCの話題から入っている。伝統的なPCメーカーがデル・ビジネス・モデルに対抗していくのはなかなか難しいとの業界の見方や、1000ドルPCがさらに広がっているであろうことなどを伝えたが、98年もそのまま97年のトレンドが続いた。アップルについては、昨年末ではジョブズCEO(まだ代行)の再建努力は開始されたが、立ち直れるかどうかわからないと言葉を濁したが、努力が実ってうまくいっていることは大変喜ばしい。 続いてインテルについて、互換チップ・メーカーにローエンドで押されながらも余裕の製品戦略を示しており、またグローブCEO(当時)もタイムの97年の顔に選ばれるなど、今更ながらにすごい会社であると書いた(98年の顔はクリントンだなんて)。しかし、その途端に98年第1四半期の利益がゼロになると報道され、しまったと思った次第である。でも、さすがに製品開発の層が厚く、なんだかんだと言いながらも結局ジーオン、ペンティアムII、セレロンと、ハイエンドからローエンドまで取り揃え、ほぼ元に戻したのはやはり立派である。 次に97年10月に始まった司法省の対マイクロソフト訴訟について経緯を紹介したが、その後の裁判の展望までは述べられなかった。述べなくて良かったかもしれない。後述するが、訴訟は1995年のライセンス供与に関する同意審決違反から、より広い反トラスト法違反に争点が移ったが、ご承知のように延々と審理が続いている状況であり、未だにその先の展望は難しい状況だからである。 インターネットについては、ISP間の競争がますます激しくなること、そして新たな接続としてxDSLとケーブル・モデムの利用が拡大していくであろうこと、さらに97年7月発表のEコマースのフレームワークに従った環境整備が着々と進んでいくであろうことを述べた。この辺りはその通り98年に最も動きが激しかったところであり、この後に詳しく述べてみる。 最後はメディア・ビジネスへの期待として、デジタル・セット・トップ・ボックスでの主導権争いに代表される、PCとテレビの融合に係るレースの号砲がなったと書いた。ただ98年は11月に地上波デジタル放送が開始されたとは言え、まだケーブルを通じて流される段階には至っておらず、デジタル放送そのものが広く受け入れられるという素地はできていない。しかし、インターネットとメディア・ビジネスをさらに融合するような動きが現れてきているので、併せて述べてみたい。
(1) 着々と進むEコマースの環境整備 98年はやはりEコマースが最も注目されたイシューであろう。97年時点ではインターネットのキラー・アプリケーションとしてのEコマースという認識であったが、今やEコマースは独立したイシューであって、むしろEコマースが必要とするインフラとしてのインターネットというように、その地位が逆転してしまったと言っても良いかもしれない。Eコマースに係る環境整備としては、何度も報告してきたように、97年7月のクリントン大統領の「グローバル・エレクトロニック・コマースのフレームワーク」に基づいて様々な作業が進められてきた。繰り返す必要もないかもしれないが、この11月30日にEコマースの年次報告なるものが著され、大変良く整理されているので、その概要をここに載せることで全体を見てみよう。
●米国政府EコマースWGの第1回年次報告(98年11月30日) ご覧のように、この報告書は米国の提唱したフレームワークがこんなに世界に受け入れられ、うまく進んでいると言うことを自画自賛するためのもののように見えるが、その通り、フレームワークをここまで進めてきたアイラ・マガジナー大統領特別顧問の引退の花道にするものでもあったようである。この報告書の発表はホワイトハウスに関係政府機関の代表や上下院議員、主要なIT企業のトップ(CISCOのジョン・チェンバースCEOやE-BAYのメグ・ウィットマンCEOなど)を集めた上、アイラ・マガジナー氏は家族連れで出席し、ゴア、クリントンの二人がそれぞれスピーチをするという豪華なものであった。なお、マガジナー氏の後任には商務省の法律顧問であるエリオット・マクスウェル氏が任命されている。 こちらの大統領、副大統領のスピーチが一般の国民にとっても受け入れられ易いのは、話が具体的であり、かついろいろなデータが分かり易く入れられているところである。この日もゴア副大統領は、クリントン大統領と一緒にホワイトハウスに入った93年1月には、たった50のウェブサイトしかなく、インターネットを知っている人などほとんどなかったのに、今や世界で1.4億人が利用し、米国でも毎日5.2万人が初めてインターネットにロギングしていると言っているし、クリントン大統領は、このサンクスギビングのウィークエンド(11月26〜29日の4連休)には、米国のPCを持っている家庭の40%がオンラインでショッピングをすると予想されている(昨年は10%)と言っている。 話はややわき道にそれたが、この報告書はもちろんPRのためだけでのものではなく、米国政府の新たな決意表明でもある。フレームワークの残された課題については2000年1月1日を最終的な期限としているし、5つの新規課題はそれぞれの関係省庁にしっかりとツケを出している。「帯域幅」については、商務省、USTR、連邦通信委員会(FCC)に、民間企業の投資を促し、画像、音声の高速処理/伝送ができる高度通信ネットワークの構築を指示し、「消費者保護」については、商務省と連邦取引委員会(FTC)に詐欺商法、過大広告などインターネット上の不公正商行為から消費者を保護するための効果的な苦情処理機関の創設や、国際システムの構築を指示し、また、「途上国支援」では、国務省と国際開発庁(USAID)に、インターネット経済発展イニシアチブを推進するよう指示している。さらに、「経済的インパクト」のより良い理解のため、国家経済評議会のリードの下に組織されたインターエージェンシーのデジタル・エコノミー・ワーキンググループがスタディを行うことになっているし、「中小企業」については、商務省と小規模企業庁(SBA)に、中小企業が政府とのやり取りにインターネットを利用し易い環境を作ったり、中小企業のEコマース成功例をクローズアップするなどのイニシアチブを作るよう指示するなど、それぞれのツケを具体的に示している。 蛇足となるが、クリントン大統領の下院での弾劾が決まり、2000年の次期大統領選まで今の体制が持つかどうか危ぶまれるところであるが、Eコマースのフレームワークの完成を2000年1月にしたのは、ミスター・インターネットとも呼ばれるゴア副大統領の後押しという政治的思惑もあるのだろう。ホワイト・ハウスはこの報告書発表に併せて、Eコマース推進のためのタスクフォースを新設し、その座長にゴア副大統領の主席内政担当補佐官のデビッド・ベイアー氏を指名しており、ゴア副大統領主導色をはっきりと打ち出している。
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