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99年4月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国情報技術研究開発政策の動向 |
2.IT2計画 上述のようなPITAC報告の「長期的基礎的研究の増大」との勧告を受けて、クリントン政権として新たに打出した情報技術関連研究開発の新政策が「21世紀の情報技術(Information Technulogy for the Twenty-first Century ; IT2)」イニシアティブである。99年1月24日にゴア副大統領が米国科学振興協会の年次会合におけるスピーチで発表した際に、公開された約30ページに及ぶワーキング・ドラフトは、その前半がIT2計画の総論部分、後半が2000年度計画に参加する6連邦政府機関のそれぞれの集中研究分野についてのアペンディクスとなっている。総論部分の概要は以下の通り。
「21世紀の情報技術:米国の未来への大胆な投資」 ワーキング・ドラフト(骨子)99年1月24日
なお、一つこのIT2計画成立の過程で議論されていたDOEのSSI(Strategic Simulation Infrastructure)と呼ばれる新規計画について注意しておく必要がある。DOEはASCIを通じて莫大なコンピューティング能力を得つつあり、核実験シミュレーション以外のこれらの有意義な活用について検討を求められていたことは12月報告でも触れたところである。その回答として98年の夏頃から検討が進んでいたのが、分子の構造や相互作用の解明とか自動車エンジンの設計などに役立つという例を前面に掲げたSSI計画である。産業界にとってすぐにも役立つ計画として、その支援を受けつつあったものである。このSSIを立てるか、あるいはPITACの提言に基づいた長期的基礎的研究振興の計画を立てるか、関係者間で相当の議論が行われたようである。しかし、コンピュータ・シミュレーションは既にHECCやASCIで行われていること、ミッション性の高いDOEがSSIを主導するのは適当ではないのではないかとの意見、PITACの提言はより広い範囲をカバーしておりSSIも包含し得ることなどが最終的に勘案され、IT2を政権としての新規計画として出してきたのである。このような経緯から、DOEのIT2目標の一つとしてSSI(Scientific simulation Initiativeと名称を変えているが)が残されており、また管理体制のところで出てきた高度インフラストラクチャーの担当サブグループというのはこのSSI計画の名残ということである。 さて、このIT2に関しては、3月16日に下院科学委員会基礎研究小委員会(委員長;ニック・スミス議員、共和党・ミシガン)が、公聴会を開催している。証言者は以下の6人である。
スミス議長は、この公聴会の目的について、IT2の内容を吟味することであり、特に既存のHPCC/NGI及びASCIとの関係はどうか、重複はなく新たなプログラムと言えるのか、PITACの提言である長期的基礎的研究と言う内容に沿っているのか等を聴きたいとしている。また、FY99のHPCC(含むASCI)予算は1,314百万ドル、FY2000のHPCC+IT2の予算要求額は1,462+366の1,828百万ドルで514百万ドルの上乗せ要求となっているが、これはPITACの提言している2004年までに14億ドルの増額というものの1年目(因みに472百万ドル)の増額に当たるということなのかと、細かいことまで聴いている。 最初に証言に立ったOSTPのレーン局長は、IT2計画の概要を説明しただけなので省略するが、514百万ドルの増額要求がPITACの472百万ドルの増額提言に直接当たっていると言うような表現はもちろん避けている。(それでは切りしろがあると言ってしまうことになる。) 以下に他の証言者たちの証言のハイライトを記しておこう。(日本でも政府への予算増額の要請などの参考になるかもしれないので。と言っても日本の国会では研究開発プログラムの内容について、このように集中して審議する場などないかもしれないが。) ケネディPITAC議長は、IT研究が益々重要になってくる中で、連邦R&D投資75ドルのうちの1ドルしかITに向けられていない現状では、各連邦機関がミッション特有の短期的プロジェクトに費用を集中するのは致し方ないところであり、長期的な基礎研究のためには新規の研究費上乗せが必要である旨を訴えた。PITACとして、ソフトウェア、スケーラブル・インフォメーション・インフラストラクチャー、ハイエンド・コンピューティング&コミュニケーションズの3つを重点投資分野としたが、さらに重要なものとしてITリテラシーの向上とIT専門家の育成という社会的な問題への対応を挙げている。後者についてはただ単にH1Bビザの発給を増やすなどということではなく、大学でのエキサイティングかつイノベーティブな研究を増やして、学生を魅きつけて、少なくとも新たに毎年500名のIT専攻の学生を増やす必要があるとしている。これらの意味から、IT2は貴重な第一歩となると期待されるが、PITACとしては未だIT2がこれらのゴールに合致するものかどうかのレビューを行っていないので、これからそれを行うこととすると結んだ。 競争力評議会のブロック氏は、最近NRC(National Research Council)のCommittee on Innovations in Computing and Communicationsのメンバーとして、「Funding a Revulution: Government Support for Computing Research」という報告書の作成に加わった経験を基に証言している。この報告書は政策立案者にITの発展に政府がどのような役割を果たしてきたかと言う歴史的な視点を与えるためのものであるとし、現在の繁栄が60年代からのDARPA、NSFを初めとした連邦機関の投資がもたらしたものであると説明している。特に、連邦の資金が米国の最も優秀な研究者に、短期的な収益性など求めることなく与えられたこと、そしてそれ以上に大学と言う次の世代のITワークフォースを教育する場に注がれたことが、政府にしか成し得ないことであったとする。現在、大学におけるITの研究費、研究設備費の70%は政府機関から来ており、大学院生の20%(主要な工科系大学などでは50%を超える)は政府のサポートで研究を行っている。これらを充実させることが米国のIT分野でのリーダーシップを維持する道であるとしている。 シスコ社のウルフ氏は、ビジネスの立場からIT2に期待するとしつつも、もっと拡充されるべきとの証言を行っている。数十億に上るノードをつなぐことのできる「Deeply Networked Systems」の研究は、産業界が最近「Electronic Persistent Presence(EPP)」と呼び始めた全てがつながりっぱなしのネットワークに関わる技術であって期待される。しかし、EPP実現のために必要な暗号やプライバシーに関する研究などが不十分である。「ITの経済・社会的インプリケーション」についても、ITのワークフォースへの貢献が不足速ではないか。シスコは「シスコ・ネットワーキング・アカデミー」という高校生、大学生対象の2年間のプログラムで、現在も17,000人に科学技術への興味を高めるための教育プログラムを実施しているが、HPCCの時代から「ヒューマン・リソース」の研究があることになっているが、その成果も不十分のままであるとしている。 バイオニューメリック社CEOのハウシアー氏は、13年前にバイオメディカル研究用としては世界で初めてNIHにスーパーコンピュータが導入された際に、自らも癌の新薬開発のためにそれを使って研究していた経験を基に証言をしている。NIHのスパコンは今や130ギガフロップスの性能しかなく、日欧の研究機関にも大きく遅れを取ってしまっている。ASCIのブルーマウンテンはNIHにこそ必要なのである。このような状況下でIT2によってNIHに新たなスーパーコンピュータの設備とソフトウェアの研究がもたらされることは不可欠であって、もしそれがなければ今世紀中にヒトゲノムの解析を終えることができず、救えるはずの生命が救えなくなる、という切実な表現でIT2の実施を訴えている。 UCバークレイの情報管理システム学部長のバリアン氏は、NRCの「Fostering Research on the Economic and Social Impacts of Information Technulogy」と言う報告書を最近著した委員会の議長を務めた経験も踏まえて、コンピューティングとコミュニケーションの経済的社会的側面に関する研究の必要性について説いた。例えば、家庭で高い料金を払ってでも広帯域に接続したいというニーズはあるのか、企業は情報ネットワークに対応して知的財産権のポリシーをどのように設定すべきなのか、情報技術が生産性向上に繋がっているという明確な証拠が見当たらないという生産性パラドックスの問題はなぜ解明できないのか等々、研究しなければならないテーマは山積している。しかし、NSFの全予算に占める社会・行動・経済科学研究の予算はわずか4%にしかすぎず、コンピューティングとコミュニケーションの社会的インパクトの研究費はそのうちのさらにわずかな部分と言うようにあまりに研究費が不足していると主張した。
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