99年4月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国情報技術研究開発政策の動向
(IT2の発表)-5-


米国については、現在の米国の繁栄や技術発明はかつての投資、活動がもたらした結果であり、これらの投資、活動等は現時点、十分に行われていない。イノベーション指数でも、85年をピークにイノベーション指数は下がり始め90年代前半はかろうじてフラットを保っているが、その先の上昇は見こまれていない。その原因は以下のようなところにあると考えられる。

  • 人材不足:
     好景気にも関わらず、R&Dの従事者が劇的に減っている。R&D専門家の需要が益々増えつつある現在でも、総労働人口に占めるR&D従事者の比率は80年代後半から下がる一方。その上、教育機関において、科学・技術専攻の大学院生数が伸びないか減少する傾向が起きている。このような傾向を見ると、米国R&D労働者マーケットにおける人材不足は当分続くことが分かる。

  • 連邦政府のコスト削減によるR&D投資低迷:
     現在、米国GDPに対するR&D投資率は80年代前半より低くなっており、基礎研究投資率も医療科学分野を除き、遥かに減少している。これらは連邦政府の投資不足によってもたらされた結果である。連邦政府のR&D投資は、現好景気期間が、過去25年間の中の好景気期間と比較し、最も低い伸び率となっている。民間部門における研究も短期的目標に専念されつつある。

  • 政策のイノベーションのスローダウン:
     市場開放と知的財産権保護による米国のリーダーシップの後、政策の動きが止まっている。政府から民間に下りてきた商業化の波が過ぎた後、イノベーション再生を目的とした積極的な政策やプログラムが殆ど存在していない。一般的に、他の先進国と比べ、産業界にコストとなるような法規制が十分緩和されていない。

  • イノベーションに対する公共部門の役割に関する政治的コンセンサスが希薄:
     現在、新規発展国やOECD国の幾つかはマクロ的経済不振の中でも、個々のイノベーション能力を高めるべく投資を続けている。しかし、米国は経済繁栄の中にあって、イノベーション・インフラストラクチャーへの公共投資を減らしつつある。この原因は、冷戦終結後の構造改革を繁栄したものとも言えるが、短期的な効率性や金融市場での活動に目を奪われ、長期的な生産性向上や競争力と言うファンダメンタルズに注意を向けていないからである。

米国の各指標の動向

1970年代 1980年代 1990年代の前半
R&D投資の総額
R&Dの総従事者数
GDPに占める2次、3次
教育投資額
知的財産権保護の強さ
ミマ
マーケットの開放性
ミマ


結論として、米国に対する政策的インプリケーションは以下の通りである。

  1. 低下傾向にある連邦のR&D投資を反転させる。その際に、民間の長期的プロジェクトへの投資を促し、大学での基礎研究のバイタリティに注意することが必要。R&D投資減税の恒久化なども一つの政策。

  2. 縮小しつつある科学者や技術者の蓄積を再構築する。そのために義務教育(K-12)への投資を変え、大学教育でも技術家庭を充実させることが必要。

  3. 著作権などの分野で知的財産権の保護を強化することを最大のプライオリティとすべき。米国の資産がどんどんとノレッジ・ベースに変わっている現在、知的財産によってイノベーティブ・アウトプットを高めていくべき。

  4. 国内と海外の市場開放努力に係る歴史的な米国のリーダーシップを再生させるべき。もし、世界市場へのアクセスを失い、あるいは米国へのアクセスを制限したら、米国は世界のイノベーションをリードしていけなくなるだろう。

  5. イノベーションを促進するために、国家の法規制環境を見直してみるべき。企業が投資国の選択を多く持つ世界では、イノベーションに繋がる投資を促進するような政策的フレームワークが益々重要になっている。



 蛇足だが、この94ページにも及ぶ報告書を熟読したわけでもないのに、こんなことを言ってはいけないと思いつつ、やはり日本がトップに立つというのはそうかなという気がする。そもそもイノベーティブ・アウトプットの代理として国際特許取得数というものを持ってきているから、そういうことになってしまうのではないかと思い、大胆にもMITのスターン教授にeメールで聴いてみた。何とご丁寧にも回答をいただいたが、そんなことはない、特許取得件数は重み付けの決定のために使ったのであって、現に8つの実指標の中には入っていないのだからというものであった。確かにその通りなのだが、結局「イノベーション指数」=「特許が今後ともたくさん取れるかどうか」と言うことになっているような気もするのだが。ちょっと難しすぎる論文に挑戦してしまったかなと、やや後悔をしている次第である。


おわりに

今回の報告は、いくつかの報告書のさわりを紹介しただけのようなものになってしまったが、3月末と言う時期でもあるということでご容赦願いたい。こちらの株式市場はダウの1万ポイント載せにうかれているようであるが、一方で、今の繁栄に安住していてはいけないぞと警鐘を鳴らす人も多く存在しているようである。2000年度予算の審議がこの先どうなっていくかはわからないが、このような真剣さが理解されて、ますます米国の競争力に磨きがかかっていくのだろう。日本でもこのような米国の状況を見つつ、産業競争力会議でも十分な議論を尽くしていただきたいものである。

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