![]() |
99年9月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国におけるブロードバンドの進展 -2- |
(2)AT&Tの戦略に対するFCCの姿勢 上述のAT&Tの戦略に対し、その周囲の動きにはめまぐるしいものがある。それを述べることとしたいが、その前にライバルである地域電話会社が抱えている先行する2つのイシュー(12月のレポートに示した3つのイシューのうちの2つで、3つ目はAT&Tのケーブル買収を巡るイシュー)について、その後の動きを見てみたい。 第1のイシューと言うのは、現在のルールにおいて、地域電話会社(Incumbent Local Exchange Carriers: ILEC)が、家庭からダイアルアップでインターネットへの接続が求められ、別の中小の地域電話会社(CLEC)を通じてAOLなどのISPに接続した場合、通話時間に応じてレシプロカル・コンペンセーション・フィーなるものをILECがCLECに払う。ダイアルアップはあくまでも一方通行なので、ILECからCLECへと一方的に支払いをしなければならず、かつインターネットの接続時間は長時間となるため、その額が年間5億ドルにも上っているというものである。以前から、ILECはインターネットのアクセスについては、このフィーを除外して欲しいとFCCに要請してきたが、FCCがその回答を先延ばしにしてきたという問題である。 FCCはようやく99年2月25日、ダイアルアップのインターネット通話を長距離通話と定義し直し、法的には地域通話にかかるレシプロカル・コンペンセーション・フィーがかからないようにするとの決定を下した。しかし、今後も何らかのコンペンセーションがILECとCLEC間の接続合意の中で支払われるよう、州の通信委員会の調停の下で議論が進むことを求めていくとの方針を併せ発表している。どうも、これでは何が変わるのかわからない。FCCも想定問答を発表するなどして一生懸命説明をしているが、玉虫色の結論であることは隠しようがないようである。理論的にはレシプロカル・コンペンセーション・フィーはILECからCLECに払わなくて良いことになる。でも、長距離としたからと言ってダイアルアップ・ユーザーに長距離電話料金を払わせることはもちろんしない。CLECがもらえなくなったフィーの穴埋めとしてISPに何らかのフィーを要求して、結果としてISPが接続料を値上げしたり、従量制にしたりもさせない。と言うことで、つまりはILECからCLECにこれまでの接続契約通りにフィーを払うようにさせるということで、ほとんど何も変えないようにすると言うもののようである。このようなことで、ILECがわかりましたというとも思えないのだが。FCCは一応4月末を締切りとして、今回の決定について関係機関からの意見を求めているが、どのような意見が出てきたのか、それでさらに何か修正があるのか等について、その後何も発表されていない。 第2のイシューは、これもILECの問題だが、ILECがADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)等による高速インターネット・アクセス・サービスへの投資を進めていくためには、これをCLECに無条件に開放することなく、ILECのみがこれを使った長距離データ・サービスを提供できるようにして欲しいというものである。この件については、既に98年8月6日にFCCは命令及び規則制定提案に関する告示を出しており、結論としては通信法は技術に関係なく高速ネットワークであろうと競争相手に開放しなければならないとして、原則としてこの要請を却下している。但し、ADSLサービスをILECが子会社を設けて行う場合にはILECと同様の義務は課せられないとし、これについて10月までに意見を求めるとした。その後もILECは子会社設立と言うのは費用もかかるので、高速通信ネットワークそのものを規制適用除外にして欲しいと要請をしているが、現時点ではFCCは決定を変更するような様子は見せていない。 さて、これら2つのイシューに見るように、ILECに対してFCCは従来からの競争促進の姿勢を崩さず、やや厳しめの態度で臨んできたが、ケーブルによる高速通信については、少し緩めの立場をとっているように見える。昨年12月の報告で第3のイシューとした問題、すなわちケーブルを使って地域電話サービスを行う場合にも、そのケーブル・ネットワークの開放は通信法で求められていると解釈すべきなのかと言う問題が、今、AT&Tを巡って燃え盛っている。AT&TのTCI買収発表後にAOLやベビーベルがFCCに対して、TCIのケーブル網がAT&Tに独占されると消費者の選択が限られてしまうと提訴した。これに対しAT&Tは、多額の資金で買収を行った上に、大きな投資を行ってアップグレードしなければならないところに、競争相手の相乗りを認めなければならなくなるとすれば、買収自体が危ういものとなると言う趣旨の反論をしてきており、FCCも静観の姿勢をとってきていた。 ところが、99年6月4日、オレゴン州ポートランドの連邦地裁において、AT&Tは保有するケーブルを、競合するISPにも開放しなければならないとの判決が下されたことで、動きが急になる。この訴訟は地方政府が管轄するCATVのフランチャイズ権をTCIからAT&Tに移し変える際に、ポートランドでは消費者団体やISPが政治家に働きかけてこれに対抗し、オープン・アクセスを条件にしたことに対し、AT&Tが1992年ケーブル法の拡大解釈であるとして起こしていたもの。この地方政府対AT&Tの裁判で判事は、「このフランチャイズ合意の下では、AT&Tはそのケーブルモデム・プラットホームから競合会社を遮断する契約上の権利は持つことができない」との判決を下したのである。 争点をもう少しわかり易くしてみよう。現在、TCIのケーブルによるインターネット・アクセス・サービスは@ホームが独占的に供給しており、もし利用者が例えばAOLのサービスを受けたいとすると、利用者は@ホームに40ドル程度を支払った上に、AOLにも20ドル程度を支払わなければならなくなる。もしAOLが@ホームのコンテンツの部分を代わって供給できるようになれば、@ホームに支払う分は小さくできるであろうし、サービス全体を供給できるようになれば、ゼロにできる(その場合は別にTCIのケーブル・プラットフォーム使用料のようなものが少し必要となるかもしれない)はずである。これはTCIがAT&Tに買収されることに関係無く、以前からAOLなどが問題と指摘してきたことであるが、この買収を機会に地方政府に働きかけて、オープン・アクセスを条件とさせることに成功したということなのである。 6月16日にAT&Tはすぐさまサンフランシスコの連邦控訴裁判所に対し、地方政府はケーブル・フランチャイズ権の移転審査において、ケーブル企業にオープンアクセスを要請することなどケーブル法上許されていないとして、控訴している。 一方、FCCは99年2月17日に、AT&TによるTCIの買収を最終的に承認しているが、その際、「FCCとしてはこの買収がインターネット・サービスの競争を害するものではないと認め、この時点で吸収後の会社のブロードバンドの設備へのオープンアクセスを条件として付けることは控える」旨の発表を行っている。その後は本件については静観の姿勢をとっていたが、ポートランドの判決に対して、ケナード委員長は、6月15日の講演の中で、全米3万の地域ケーブル・フランチャイジング当局が、ブロードバンドについて勝手に技術標準を決めるようなことになれば大混乱になる旨、述べている。
これに対し、ケナード委員長はLSGACの議長宛てに8月10日付で書簡を送っており、「ブロードバンドはまだ揺籃期にあり、FCCとしては前もって規制を置くことなく、ケーブル会社がこれを採用する努力を先行させることを許すことにした」旨を伝え、今後、通信法709条に基づくブロードバンドの普及に関する第2次の報告を準備するため、広く関係者から意見を求めるとしている。
|
J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.