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99年11月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
直前に迫ったコンピュータ2000年問題の近況 -5- |
4.各セクターにおけるY2K対応の状況 Y2K変換委員会の8月の四半期報告や上院の100日前報告でわかるように、重要なセクターはほぼY2K対応が完了しつつある。その後も続々と各セクターの完了宣言が出されているので、 以下に簡単にまとめてみる。
銀行については、8月2日に連邦銀行規制関連機関が共同で、連邦規制を受けている金融機 関の99%がテストも含めたY2K対応を完了し、既にそれらのシステムを日常業務の中で問題なく使用している旨を発表した。証券についても、9月7日、証券取引委員会やニューヨーク証券取引所などが共同で、米国の証券関連の全システム(SEC自身のシステムが最後になったようだが)が2度のテストも含めてY2K対応を全て完了したと発表した。9月17日にはワシン トンDCにおいて、グリーンスパン連銀総裁も含め金融関係者が一同に会してY2Kサミットを開催し、金融セクターにおける対応の完了を広く一般に公表している。
電力については、8月3日に北米電力信頼度協議会(North American Electric Reliability Council = NERC)が最終の四半期報告を発表したところによると、北米の3,088の発送電、配電会社の99%以上がY2K対応を完了した。これについて、コスキネン議長は業界の努力を評価しつつも、一部の企業が調査に参加していないこと、完了したと言うところでも一定の例外が認められていることなどに若干の懸念を表明し、またエネルギー省のビル・リチャードソン長官も外部監査などにより、完了報告の確認を行うことが必要と述べている。 原子力発電所については、10月26日、GAOがペンシルバニアとアラバマの2基がY2K未対応であるのと、4つの核燃料施設が9月1日のY2K対応期限に間に合っておらず、さらに使用済み核燃料が残っている14基の運用停止炉のY2K対応が未確認との報告を議会に提出した。 これに対し原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission = NRC)は、2基の対応も年 内に済み、全米103原発全体でY2Kによる運転安全への影響はないとし、また運用停止炉についてY2K対応のガイドラインは特にないが、管理者がY2K対応を進めてきたとしている。 石油・ガスについては、10月20日、API(American Petroleum Institute)とNGC(Natural Gas Council)が業界の96%を代表する2,160社から集めた調査結果により、その90%以上が9月末日までのY2K対応目標を達成したと発表。残る日程で残りの対応とサプライチェーン全体としてのY2K対応の確保とBCCPのテストに注力すると言う。
最もクリティカルとされてきた連邦航空局(FAA)の管制システムについては、急速な追い 上げで6月30日までで準備が完了。国際民間航空機構(ICAO)が9月29日に発表した報告によれば、全米で国際線を運行している146の航空会社のうち、9つの主要航空会社(93%の 旅客量を占める)の56%が既にY2K対応を完了しているか9月末までに完了、残りの会社も12月までには完了の予定。同じく全米で国際線サービスをしている113の空港のうち、20の 主要空港(88%の旅客量を占める)の75%が既に対応済みか8月末までに対応完了、残りも11月までに完了の予定。 9月30日、運輸省は各国の航空情報(管制、航空会社、空港)をウェブサイト (http://www.fly2k.dot.gov)に公開したが、米国からのトップ3の行き先であるカナダ、英国、 日本は年末までに全てのY2K対応が完了、トップ20の国(米国からのフライトの82%を占め る)も、たぶん準備が完了するであろうと言う。 海運については、やや呆れるほど断片的な情報しかなく、上院の100日前報告でも、Y2K対応に向けて積極的に動いているとは思えず、世界貿易に中断を起こす恐れがあるとしている。 合併などが相次いだため、対応の遅れが懸念されていた鉄道については、全米の80%の鉄道貨物輸送を占める大手4企業(Burlington Northern Santa Fe、CSX、Norfolk Southern、Union Pacific)の対応が完了するとともに、アムトラックや地域通勤鉄道会社などの旅客鉄道も問題 ない旨、10月8日に運輸省が公表した。
10月8日に連邦通信委員会(FCC)が出した報告では、長距離電話会社と大手の地域電話会社(地域電話回線の90%を占める)は、予定通り9月末に対応を完了。中小の地域電話会社1,061 社も6月末時点で54%が対応済みであったが、9月末で94%まで、12月末で98%までが対応済みになる見込み。
医療用電子機器のY2K対策については、食品医薬品局(FDA)が膨大な調査を行っており、 その最新の情報が、10月21日の下院商業委員会健康・環境小委員会の公聴会の中で明らかにされた。これらの機器のメーカー4,288社の数万に及ぶ製品の中から絞り込んで、少なくとも10月1日時点で214社の4,053種の製品がY2K非対応であることが判明している。このうちの190社は、無償修理などの対策を進めている。問題はこれらの医療機器情報を医療機関が必ず しも十分に活用していないということで、7月の調査では回答してきた病院の80%はこの情報の存在を知っていたが、看護施設や診療所では知っているとしたところは半分以下であったと いう。
中小企業の状況については、あまり定量的な情報がないようで、99年4月に全米独立企業連盟(NFIB)が行った、全米の中小企業の28%に当たる85万企業がY2K問題は放置するつも り、との調査があるだけである。9月22日の100日前の記者会見で、コスキネン議長は中小企業に対して「対策を取るに遅すぎるということはない」との呼びかけを行い対応を促すととも に、「中小企業のためのリソースガイド」(http://www.y2k.gov.new/0922doc3.html)を発表し中小企業向けの各種振興策やそのリンク先などを紹介している。しかし、この4月に通った 「小規模企業Y2K対応法」で準備された5億ドルのY2K対策融資の政府保証枠も、9月の段階で85件しか申込みがないと言う状況とのこと。
国際的なY2Kの取り組みということであれば、国連やIMF、IY2KCCなどの活動を見れば良いが、ここでは米国から見た各国の状況についての情報と言うものを紹介するに留める。 一つは9月14日に国務省が世界196カ国の米国大使館・領事館の情報を基に作成している「Consular Information Seats (http://travel.state.gov/travel_warnings.html)」の中に、Y2K情報を盛り込んだ旨を発表(http://travel.state.gov/91499.html)したことである。各国毎 の定性的なY2K情報の記述があるのみで、各国の進捗度などの比較がしてあるものではないが、これを基にした各種プレス報道によれば、危険な国として名前が挙げられているのは、ロシア、 ウクライナ、中国、パキスタン、イタリアなどである。 もう一つは、10月13日の上院Y2K委員会の公聴会において、CIAのNational Intelligence Officer for Science and Technologyのローレーンス・ガーシュイン氏の証言で明らかにされた CIAとしての各国のY2K対応評価(機密事項で全体は公表されていない)である。結論を言えば、「Y2Kで重大な問題を経験する可能性が最も高い国は、ロシア、ウクライナ、中国、イン ドネシア。西欧諸国は全体的に十分な準備が進んでいるが、イタリアなどで重大な問題が起きる可能性もあり得る。ドイツと日本はY2K対策を急速に進めたが、始まりが遅かったことと対 策の範囲が大きいことから何か問題が起きるかもしれない。カナダ、英国、オーストラリア、シンガポール、香港は大変良く準備されており、重大な問題が起きる可能性は低い。」と言う もの。そして、国際的なY2K問題によりどのようなインパクトがあるかと言う点では、 ① 電力や通信ネットワークなどで結ばれていることから来る直接のインパクトについては、 最も影響のあり得るカナダの対応が良好であることなどから、限定したものに留まる。 ② 原材料や製品の遮断などによる経済安全保障面での間接的インパクトについては、心配さ れる石油の途絶もメジャーの対応が進んでおり問題の起きる可能性は低く、金融決済面でも先進国の金融業界におけるY2K対応は十分進んでいることから多分問題はない。 ③ 外国でのY2Kクライシスが人道的救援などを要請することで米国の軍事コンポーネントを巻き込むというような国家安全保障上のインプリケーションについては、懸念される大 陸間弾道ミサイルの発射はあり得ず、ロシアが警戒情報を誤認する恐れも、コロラドに共同のY2K戦略安定センターを設置して情報をシェアすることで払拭される。 と言うことで、米国に大きなインパクトがあるとは予想していない。
アナグラムと言うつづり換えの遊びがあるが、「YEAR TWO THOUSAND」は「A YEAR TO SHUT DOWN」になるそうである。これを教えてくれたセキュリティーの専門家も、そうなることをもちろん信じているわけではなく冗談で言える余裕がでてきたということなのだろう。 ずいぶんしつこくY2Kばかりレポートに取り上げてきたが、何かのお役に立っただろうか。もうY2K報告はたくさんと言うことで、来年にY2Kてん末記を書かなくて済むような平穏な新年を迎えたいものである。と言いながらも、これをここまで読まれるような方は、ご自宅で新年を迎えることはできない方なのでしょう。ご苦労様です。
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