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99年12月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国における新IT R&D政策の動き -2- |
H.R.2086「Networking and Information Technology Research and Development Act」概要 同法は1991年ハイパフォーマンス・コンピューティング法(HPCA)を修正し、ハイパフォーマンス・コンピューティング計画に関連する、NSF、NASA、DOE、NIST、NOAA、EPAの研究開発のための2000年度から2004年度にかけての予算承認をしようとするもの。 承認された予算のうちの一定額を、@情報技術研究センターへのグラントを含む、ネットワーキングと情報技術に係る長期的基礎的研究、A大規模研究設備の開発に係るグラント、B情報技術インターンシップのグラント、に振り向ける。 2001年度と2002年度について、次世代インターネット計画に参加している機関の予算承認を行う。 ハイパフォーマンス・コンピューティングに係る諮問委員会に対し、@ハイパフォーマンス・コンピューティング、ネットワーキング、情報技術研究開発計画について、定期的な評価の実施を要請し、A調査結果やリコメンデーションについて、特定の議会の委員会に対して少なくとも2年に1回の報告を求める。 NSFに対し、米国で輸出規制がかかっている暗号技術について、外国における入手可能性について比較し、議会に対して報告するよう求める。 内国歳入規則を改正し、増加研究費に係る税制上の恩典を恒久化する。
少し解説を加えるとすれば、まず、この法案にDODとNIHが含まれないのは、科学委員会がそれらに関する立法管轄権を有しないからであり、国防委員会などとの連携が必要と説明されている。「情報技術研究センター」というのは、6人以上の研究者が共同で行う大規模で長期的な研究プロジェクトのことを指し、1件当たり500万ドルまでのグラントが与えられる。また、「大規模研究設備」というのは、表ではテラスケール・コンピューティングとしたが、IT2で言う高度コンピューティングのためのテラフロップス級のスーパーコンピュータの研究と調達に対応するものであるが、DOEの予算要求がゼロとされ、全てNSFが担当するようにされている。これは、GAO(会計検査院)が98年夏と99年7月に出した報告の中の、DOEの研究所におけるスーパーコンピュータの利用状況が低いことや、ASCIの運営管理が不適切なことなどの指摘を受けた措置である。さらに、5月に発表されたコックス・レポート(対中国軍事重要技術移転の国家安全保障への影響を調査していた下院特別委員会(クリストファー・コックス議長(共和/カリフォルニア))の報告)で指摘されたDOE研究所の機密情報漏洩が大きく影響していることは言うまでもない。もう一つ、IT R&Dだけの問題ではないが、R&D税クレジット(研究開発費の増加分の20%税額控除制度)の恒久化については、センセンブレナー議長は、これまで米企業は税クレジットの延長がなるかどうかの不安があって長期的研究プロジェクトへの着手ができないでいたことを是正するものとコメントしている。 さて、この法案については、7月14日、下院科学委員会基礎研究小委員会(ニック・スミス議長(共和/ミシガン))が公聴会を開催している。証言に立ったのは、OSTPのニール・レーン局長(大統領科学技術顧問)、ロビーイング団体であるテクノロジー・ネットワークのロベルタ・カッツCEO、ワシントン大学コンピュータ科学工学部のエドワード・ラゾスカ部長(ロビーイング団体であるコンピュータ・リサーチ協会会長)、ノースカロライナ州マイクロエレクトロニクス・センターのアラン・ブラテッキー副所長という、いずれも推進側の人ばかりであった。従って、レーン局長がDOEに対する法案の厳しい姿勢の是正や、NISTとNOAAの政府予算案までの増額などを求めた以外は、NITRD法案を絶賛する意見ばかりが聴かれたのは当然のことであろう。
9月1日と2日に、PITAC及びIT支持者たちはワシントンに集まり、IT予算復活のための総決起集会とも言うべき会合を開催した。1日の記者会見にはPITACメンバーの、ライス大学のケン・ケネディ教授、3Com社のエリック・ベンハモウCEO、AT&T研究所のデビッド・ネーゲル所長、MCIワールドコムのビントン・サーフ上級副社長らが出席し、ITに対する連邦予算支出増大の必要性を強く訴えた。同日付けでPITACの新共同議長(8月任命)であるカーネギー・メロン大学コンピュータ科学部長のラジ・レディー氏とIBMインターネット部門ゼネラル・マネージャーのアービング・ウラダウスキー・バーガー氏から、上院歳出委員会のテッド・スチーブンズ議長(共和/アーカンサス)を初め関係議員らに対して、IT R&Dの歳出承認見直しを要請する書簡を発出してもいる。2日にはNSF本部を会場としてPITAC会合が開かれOSTPのレイン局長らと予算復活について話し合うとともに、ホワイトハウスから要請されていたIT2及びその実施計画(99年6月)(http://www.ccic.gov/pubs/it2-ip)の評価について議論している。 それについては、6ページほどの簡単な評価(http://www.ccic.gov/ac/pitac_it2_review.pdf)が、9月8日付けで大統領及び関係議員らに送付されている。基本的にはIT2とNITRD法案の双方を支持しているが、例えば@研究内容については、省によってはPITACが推奨する長期的研究より視点が短期になりすぎているところがあること、Aハイエンド・コンピューティングへのアクセスについては、IT2はDOEに重きを置きすぎており、DOEがゼロと言うのは適当ではないものの、NSFに重点を置いていると言う意味ではNITRD法案の方がPITACの考えに近いこと、BPITACが推奨している多分野横断的な技術センターや大規模な探求センターの設立については、IT2もNITRDも不十分な対応しか示していないこと、などを指摘している。 9月9日、下院科学委員会はNITRD法案を可決した。センセンブレナー議長は、「下院科学委員会メンバーによるNITRD法案の全会一致の超党派支持は、下院全体による同法案の受入れを保証するものと期待している。」とコメント。また同委員会の民主党の筆頭メンバーであるラルフ・ホール議員(テキサス)も、「ITは国民一人一人の生活、学習、勤労及び娯楽の方法を変容させており、21世紀における経済の持続的成長部分であり続ける。」と述べている。可決に際して同委員会は、議会付属のGAO(General Accounting Office)に対し、IT研究への歳出レベルの低さが米国全体のIT研究の必要性に対してどのような影響を与えるかを評価するよう求めるという修正条項を加えるなど、その後の歳出委員会の審議に圧力をかけようともしている。
気が早いが2001年度のIT予算獲得戦略について、ホワイトハウス国家経済会議(NEC)の上級スタッフでIT政策担当のトム・カリル氏は、今年の議会における議論で従来のHPCCとIT2との差異についての理解・認識に混乱があったことを反省し、2001年度は全てのITプログラム支出を一つの傘の下に入れ、ベースが何であり、何が増額要求かをはっきりさせたいとしている。一方で、NITRD法案については、11月16日の第106議会の前期終了に当たって、正式に下院本会議上程を決めている。ということは、センセンブレナー議長としては2000年の早い時期に下院を通そうという強い意欲を持っているとのことであり、ホワイトハウスの意図と食い違ってくることも考えられる。どちらもプラスの方向ではあるが、今年の混乱が2000年初めにもどうも残りそうであり、来年春の状況を注視しなければならないだろう。 付け足しであるが、R&D税クレジットの恒久化は結局認められず、2000年12月31日までの18ヶ月の期間延長に留まった。
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