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2000年2月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国Eコマースにおけるインフォメディアリーの台頭とその影響 -3- |
(2)B-to-Bインフォメディアリー 企業間Eコマースにおけるインフォメディアリーは、特定の業界における売り手と買い手をインターネット上に集め、自由に交渉や取引を行う環境を提供する。通称「電子マーケットプレイス」と呼ばれるこのタイプのインフォメディアリーは、信頼できる情報を提供してくれるワンストップ・ショップを求める買い手と、インターネットを効果的に利用し、グローバル市場への進出を期待する売り手を結び付ける。 電子マーケットプレイスは、企業間Eコマースにおいて急速に成長しており、米国投資会社のボルプ・ブラウン・ウィーランは、電子マーケットプレイスの市場規模が、1998年の7億5,000万ドルから2002年には2,110億ドルにまで膨れ上がると予測している。 こうしたインフォメディアリーが企業にもたらす利点は大きい。買い手は、1つのサイトから膨大な量の製品・価格データを入手できるようになるため、取引において交渉力が高まるのに加え、オンラインでの取引が促進されることにより、売り手も買い手も取引コストを大幅に削減することができる。さらに、売り手は、一度に多くの買い手にアクセスできるため、新規顧客の開拓が容易になる。 電子マーケットプレイスは、市場が地域限定化されたり細分化されている業界において、最も効果を挙げており、隔離された売り手と買い手を1つの場所に統合するインフォメディアリーは「マーケットメーカー(新たに市場を作り出す者)」などとも呼ばれている。電子マーケットプレイスが登場している業界は多岐にわたっており、余剰在庫の鉄鋼製品売買をサポートする「MetalSite」や、化学薬品の取引をサポートする「Chemdex」などが代表例として挙げられる。 電子マーケットプレイスに共通して見られる特徴としては、@参加企業が独自のニーズに合わせてインタフェースをカスタム化できる、A参加企業の会員費やサイトの利用は無料であり、取引が成立した場合にのみ、取引額の一部を手数料として徴収する、B取引のサポートに加え、業界の最新ニュースやチャットサービスなどを提供している--などが挙げられる。 電子マーケットプレイスには、買い手が求めている製品・サービスに関する情報を掲載し、売り手が入札をする「オークション・モデル」、買い手が製品リクエストの情報を掲載する一方で、売り手が販売したい製品の情報を掲載し、双方で取引交渉をする「エクスチェンジ・モデル」、数百社にのぼるサプライヤーの製品カタログを掲載し、買い手が製品比較を行える環境を作る「カタログ・モデル」など、様々なモデルが存在する。 大手調査会社メタ・グループのアナリスト、ジョン・マン氏は「2003年までに、電子マーケットプレイスは、売り手と買い手のマッチング、情報の仲介業、取引のサポートなどにおいて、なくてはならない存在になる」と述べている。電子マーケットプレイスの登場により、買い手は大きな利益を享受する一方、既存のサプライヤーの中には、新型仲介業者を脅威とみる企業も存在する。ガートナーグループのアナリストであるアレグザンダー・ドロビック氏は「電子マーケットプレイスにより、買い手は最も価格が安くて質の良い製品やサービスを選択できるようになるため、伝統やブランドといったイメージを売りにしているサプライヤーは、戦略の大幅な転換を余儀なくされるであろう」と述べている。
@ Chemdex(www.chemdex.com) 1997年にカリフォルニア州に設立されたChemdexは、大学や研究機関を対象としたリサーチ用の化学薬品を取り扱うカタログ・モデルの電子マーケットプレイスである。同サイトは、バイエル(Bayer)やグレイナー・アメリカ(Greiner America)などの大手化学薬品会社を含む、約170社のサプライヤーの製品カタログを掲載しており、その提供製品数は100万種を超える。また、ユーザーには、バイオテクノロジー企業の大手であるジェネンテック(Genentech)やハーバード大学研究所などが名を連ねている。 Chemdexの創設者でCEOのデービッド・ペリー氏は、24歳の時にハーバード・ビジネススクールへ進学、在学中に、バイオテクノロジー企業であるビロジェン(Virogen)の設立に大きな貢献をした。ビジネススクール卒業後、ビロジェンの最高経営責任者に就任したペリー氏は、リサーチ用化学薬品の調達が、依然としてカタログ・ベースで行われており、非常に効率が悪いことに気づいた。ビロジェンの科学者は、平均で週に4,5時間を費やして、いくつものカタログを見比べるという作業を行っていた。 そこでペリー氏は、調達プロセスを効率化する手段としてインターネットに着目した。彼自身、最新の技術に長けていたわけではないが、元アンダーセン・コンサルティングの幹部であったジェフリー・リーン氏と知り合い、リーン氏が開発した製品比較技術を利用し、インターネットで化学薬品の調達を行えるサイトの設立を思い立ったのである。両氏はその後、クライナー・パーキンズ・コーフィールドやCMGIなどのベンチャーキャピタルから1,500万ドルを集め、Chemdexが誕生した。 ユーザーは、Chemdexのサイトにアクセスすると、サプライヤーの製品をまとめたカタログを閲覧でき、異なるサプライヤー間の製品比較を行った後、注文できる。また、ユーザーが企業である場合には、社内の調達部門とシステムを連結し、予算などの条件に合わせてカスタム化できるソリューションも提供している。 Chemdexは、同社のサイトを通して成立した取引に対し、取引額の5〜10%を手数料としてサプライヤー側から徴収している。これは、カタログ・ベースでの取引で徴収される手数料40%に比べると、非常に低い率となっている。 Chemdexは、世界最大のバイオテクノロジー業界団体である「BIO(Biotechnology Industry Organization)」と戦略的パートナーシップを結んでおり、850社を超えるBIOのメンバー企業にサービスを提供している。 Chemdexは、化学薬品業界における電子マーケットプレイスの代表格として活躍している。化学薬品業界には、Chemdexのほかに、Chemconnect、e-Chemicals、CheMatchといったマーケットプレイスが多く存在する。これらのマーケットプレイスは、それぞれ特殊な化学薬品の取引に特化しており、効率的な住み分けが行われている。その中でもChemdexは、化学薬品業界で培った経験を活かし、医療機器などの他業界においてもマーケットプレイスの構築を目指しており、今後も、電子マーケットプレイスのリーダー的存在として成長していくと思われる。
MetalSiteは、余剰在庫の鉄鋼製品を取引する世界最大の電子マーケットプレイスである。1998年の秋に、製鉄会社大手であるウィアトン・スチール(Weirton Steel)、LTVスチール、スチール・ダイナミクス(Steel Dynamics)の3社が共同で始めたMetalSiteは、3社が持つ在庫製品を持ち寄り、ウェブサイトを通じて販売するというビジネスモデルから始まった。販売形態としては、個別企業間の取引と「QuickBid」と呼ばれるオンラインでのオークション形式がとられており、エクスチェンジ・モデルとオークション・モデルを混合した電子マーケットプレイスとなっている。 MetalSiteは従来、業界のニュースやメンバー企業間でのチャットサービスなどを提供していたが、多くの企業が抱える過剰在庫に目をつけ、鉄鋼製品の売買を行うマーケットプレイスとして新しく生まれ変わった。製品を購入したい企業は予め登録しておき、売り手がオンラインに掲載している製品カタログを閲覧して、欲しい製品を購入する。MetalSiteで製品を販売したい企業は、取引が成立した際、取引額の0.5〜2%を手数料としてMetalSiteに納める。 3社で始まったMetalSiteであるが、開設からわずか1年足らずのうちに、ベツレヘム・スチール(Bethlehem Steel)、ウェブコ(Webco)、アトラス・スチール(Atlas Steel)などのサプライヤーをメンバーに加え、現在は、17社が鉄鋼製品を販売している。また、MetalSiteで製品を購入する企業は1,000社を超えており、毎月、12万トンを超える鉄鋼製品がサイト上で取引されている。 MetalSiteのCEOであるパトリック・スチュワート氏は「過剰在庫に目をつけた戦略が、MetalSiteの成功の秘訣である」とコメントしている。MetalSiteの開発・運営には1,200万ドルを超える資金が投入されている。これは、セキュリティが強固で洗練されたシステムを構築するためであり、既にこれらの資金は回収済みである。 鉄鋼業界を含め、米国には多くの電子マーケットプレイスが存在するが、それらの大半は新興インターネット企業が運営しており、MetalSiteのように、業界のリーダーが中心となり、自らサイトの開発や運営を手がけるケースは稀である。
Promedix.comは、特殊医療器具の売買をサポートするカタログ・モデルの電子マーケットプレイスである。Promedex.comは、MCAヘルスページという社名で1996年に設立された。MCAヘルスページは当初、医療器具メーカー向けウェブサイトのデザイン・構築を手がけていたが、同社の創設者であるスキップ・クリントワース氏とブラッド・ボンド氏は、Eコマースを利用して、医療器具の売買プロセスを大幅に効率化できることを発見した。その後、CMGIベンチャーズから資金援助を受け、1999年の9月に誕生したのがPromedix.comである。 カテーテルなどの特殊医療製品市場は、1,200を超える小規模ディストリビューターが混在しているため、買い手である病院は、製品の比較などができない状況であった。また、製造元とディストリビューターが製品や価格の情報を牛耳っているため、買い手は不当に高い値段で製品を買わされるというケースも珍しくなかった。 Promedix.comは、こうした状況を改善すべく、複数の特殊医療器具メーカーの製品を1つのカタログに統合し、買い手が製品の検索や比較、購入を行える「Specialty Medical Product Exchange」を発表した。1999年9月から本格的稼動が始まった同サイトには、既に、450社にのぼるメーカーが参加を表明している。 当初は、既存のディストリビューターを完全に排除するつもりであったPromedix.comであるが、サービス開始が近づくにつれ、その戦略を転換する必要性に迫られた。Promedix.comの戦略ビジネス開発部バイス・プレジデントであるピーター・ナイバーグ氏は「特殊医療器具の買い手である5つの病院をアドバイザーとして招き、会合を重ねるうちに、既存のディストリビューターと協力することの重要性を認識するようになった」と述べている。 Promedix.comが直面した問題の1つとして挙げられるのが、既存ディストリビューターと病院の関係である。既存のディストリビューターは、長年の取引を通して、病院とりわけ医師らと緊密な関係を築いており、新参企業が入り込む隙間がない状態となっていた。ナイバーグ氏は「Promedix.comは、インターネットを利用して取引の効率性を大幅に向上させることはできるものの、買い手との関係を築くという意味では全くの初心者であった。そのため、既存のディストリビューターをいかにして我々のビジネスモデルに取りこむかが次の課題となった」としている。 Promedix.comは、依然として、既存のディストリビューターとの共存方法を模索中である。1つのオプションとして考えられるのは、注文処理や課金といったバックエンドの業務をPromedix.comが担当し、取引先との関係管理といったフロントエンドは、従来通り既存のディストリビューターが担当するというモデルである。今後、どのようなモデルを採用するかは不透明であるものの、Promedix.comの事例は、既存のディストリビューターとの関係という、全てのマーケットプレイスが直面するであろう課題をどう克服していくのかと言う意味で、注目されるところである。 |
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