2000年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国Eコマースにおけるインフォメディアリーの台頭とその影響 -4-


3.インフォメディアリーの今後の展望

(1)プライバシー保護とインフォメディアリー

 1999年に入ってから新しいタイプの仲介業者として登場したインフォメディアリーは、今後、どのような進化を遂げるのであろうか。「Net Worth」の著者であるジョン・ヘーゲル氏は、「現在、インフォメディアリーとして活動している企業はインフォメディアリーの卵であり、どのタイプの企業が真のインフォメディアリーへと進化するかはまだ分からない」と述べている。同氏が描く真のインフォメディアリーの姿は、「消費者の情報を消費者のために管理することで、消費者が安全な環境で効率的にオンライン・ショッピングを行うのをサポートする企業」である。

 今後のB-to-Cインフォメディアリーの特徴は、オンラインにおける消費者のプライバシーを保護しながらショッピングをサポートする点である。オンライン・プライバシーは、消費者の多くが懸念事項として挙げており、ジョージア工科大学がウェブを頻繁に利用する消費者1万人を対象に行った最近の調査によると、全体の71%が「オンライン・プライバシーを保護する法律を制定すべきである」と答えており、84%の消費者は、ショッピングサイトが消費者の個人情報を他企業に販売することに強く反発している。

 インフォメディアリーは、Eコマースの普及を妨げる要因になりかねないプライバシーの問題を解決する役割を担う。消費者は、重要書類を金庫に保管するのと同様に、自分の個人情報ファイルをインフォメディアリーに預ける。インフォメディアリーは、消費者の要請に基づき、預かった個人情報をベンダーに提供するエージェント、かつ個人情報への不正なアクセスを防ぐ門番の2つの役割を果たす。消費者は、どのショッピングサイトにどの種類の情報を提供するかをインフォメディアリーに指示し、ショッピングサイト側は、情報の提供料としてコミッションをインフォメディアリーに支払う。コミッションの一部はインフォメディアリーが保持し、残りは消費者に還元される。ノベル(Novell)の戦略ビジネス部門バイス・プレジデントであるマイク・シェリダン氏は「インフォメディアリーを利用することで、消費者はプライバシーを保護できる一方、ベンダー側は、効果的なマーケティングを実施することができる」と述べている。

 考えられるモデルとしては、まず、消費者がインフォメディアリーと契約を結ぶ。すると、インフォメディアリーは契約した消費者のPCに一種のソフトウェアをインストールし、その消費者のウェブにおける行動--どのサイトを訪れたか、どのページを見たか、どの製品を検索したか、どの製品を購入したか--を全てトラッキングする。インフォメディアリーは、こうして集めた情報をあらゆる側面から分析し、オンラインベンダーにとって有益な形で情報をパッケージ化する。そして、消費者の指示に基づき、これらの情報を特定のベンダーに開示する(図2を参照)。


出典:ワシントン・コアにて作成


既に99年の初めから、このようなタイプのインフォメディアリーが登場している。カリフォルニア州エルセリトに本拠地を置くLumeria(www.lumeria.com)が、その一例である。同社の主力サービス「SuperProfile」は、暗号化されたウェブ上の文書に、消費者の氏名、年齢、性別、収入、クレジットカード番号といった個人情報を保管する。消費者は、購入したい製品を扱うベンダーを指定し、そのベンダーに個人情報を提供する。ベンダーは、アクセス料金をLumeriaに支払い、その料金の80%は消費者にそのまま還元される仕組みとなっている。

同種の企業として、コロラド州ルイビルのPrivaSeek(www.privaseek.com)も挙げられる。ユーザーは、同社のサイトに個人情報を入力し、ソフトウェアツールを自宅のPCにインストールする。このソフトウェアは、ユーザーのオンラインでの行動を全てトラッキングし、取引データなどを参照してユーザーの個人情報を自動的にアップデートする。ユーザーに関する個人情報は全て、安全なウェブ環境に保管され、消費者の要請に基づき、特定のベンダーに情報を公開する。

 これらの新興企業のみでなく、既存の大企業の中にもインフォメディアリーを目指すケースが存在する。金融サービス大手であるシティグループとファーストUSAは、ノベルの開発した新技術「DigitalMe」を試験的に利用している。DigitalMeは、消費者の個人情報、パスワード、クレジットカード番号を保管する技術であり、ユーザーは、自分の情報を好きなときにアップデートでき、特定のベンダー、ウェブサイト、個人に向けて情報を公開することができる。

 これらのインフォメディアリーの着目すべき点は、従来から、Eコマースの発展を阻害する要因として取り上げられてきたプライバシーを、逆にビジネスに利用したところである。オンラインで買い物はしたいが、プライバシーの問題から買い物を躊躇する消費者を対象に、プライバシーの保護を約束することで、消費者が安心して買い物ができる状況を作ると同時に、オンライン販売業者から手数料を徴収する。


(2)爆発するEマーケットメーカー

B-to-Bインターメディアリーについて、この1月26日にガートナーグループが発表したばかりの調査報告では、「Eマーケットメーカー(e-market maker)」と呼んで、その積極的な役割を評価している。この報告では、世界のB-to-BのEコマース市場について、1999年の1,450億ドルが2004年には7.29兆ドルに拡大し、全B-to-Bの商取引額105兆ドルの7%を占めるようになると予測している(その間は、2000年4,030億ドル、2001年9,530億ドル、2002年2.18兆ドル、2003年3.95兆ドル)。そしてこの急拡大を支えるCataryst(触媒)として、Eマーケットメーカーの役割がクリティカルであり、これらが生み出す市場が2004年のEコマース市場の37%に当たる2.71兆ドルになるとしている。これらのEマーケットメーカーは1年前はおそらく30社ほどだったのが、現在では約300社にも拡大しており、中でも化学、電子、出版、自動車などの業界が最もアグレッシブであると言う。そこで例示されているホットな企業としては、Chemdex、VerticalNet (www.verticalnet.com)、Altra Energy Technology (www.altranet.com)、Paper Exchange (www.paperexchange.com)、Instill(www.instill.com、フード・サービス業界)、PlasticNet、Commerce One(www.commerceone.com)のMarketsite.net(www.marketsite.net)がある。

これらのうち、上述したChemdexなど多くは、正にVertical(業界毎)の電子マーケットプレイスを作り上げて運営しているEマーケットメーカーであるが、VerticalNetとCommerce Oneは、複数のマーケットプレイスを立ち上げたり、運営したり、あるいは立上げのためのソリューションを提供したりする、より広い幅で活躍しているEマーケットメーカーと言える。

VerticalNetはペンシルバニア州ホーシャムに本拠を持ち、1995年に設立されている。これまでに50以上の業界毎のマーケットプレイスを立ち上げて、基本的には自らそれらを運営している。一つ一つのマーケットプレイスは独立しており、それぞれが必ずしもEコマースのマッチングを主眼としてるわけではなく、いわゆる「Votal(VerticalなPotal)」と呼ばれる、業界プロフェッショナル向けの情報提供などを行うポータルの性格に近いものが多い。従って収入源としても、一般のポータルの構成に類似の、広告収入、会費収入、Eコマースのコミッションなどから成り立っている。ついこの1月17日には、ソフトバンクがVerticalNetと日本に合弁企業を設立すると発表しており、また1月21日には、マイクロソフトが1億ドルの出資を行って提携をするなど、ますます期待が高まっている企業である。

Commerce One(カリフォルニア州、ウォルナット・クリーク、1997年設立)は、ちょうど先月の駐在員報告でも触れたように、11月にGMと組んで「GM TradeXchnage」と呼ぶサプライチェーン・ネットワークを構築すると言うことで話題になっているEコマース・ソリューション企業である。Commerce Oneの1部門であるMarketsite.netは、「MarketSite Potal Solution」と呼ぶ、Eマーケットメーカーがマーケットプレースを構築するのに必要なソリューションの提供と、それによって構築されたマーケットプレースを、大きくつないだ「MarketSite global trading Portal」の運営という2つのサービスを提供している。GMもこのソリューションを導入したのであり、日本のNTTも99年3月にこれを導入してエレクトロニクスのマーケットプレースを構築すると発表している(まだできていないようであるが)。その他にブリティッシュテレコムが作ったマーケットプレースやシンガポールに構築されているSesami.netなどのマーケットプレースが接続されて、国際的なマーケットプレースができるという仕掛けのようである。


おわりに

 この稿を書いている最中にも、ソフトバンクの発表があったり、ガートナーグループの報告が出たり、また、1月19日付けの日経新聞では日本の商社がMetalSiteと合弁で鋼材取引のEマーケットプレースを日本にも設立すると言う記事も載るなどしている。日本のビジネスもこのインターメディアリーを巡る急激な動きに、決して乗り遅れてはいないようである。ただ、少し気になることがある。日経の記事の中に、これまで国内の鋼材取引を押えてきた商社が、「既存の商流は基本的に維持する」とか、生き残りを目指すとか、あるいは日本の鋼材取引を大きく変革する力を秘めている、などの表現が見られることである。新聞の表現の問題だけなのだろうが、もし商社がこれまでのビジネスをEコマースに置きかえれば良いとだけ考えているようなことがあれば、従来の仲介業者がハイテク化されたというだけに留まってしまい、流通の効率や生産性、コストなどに真の変革は起こらないのだろう。やはり、脱・仲介がまずあったのであり、そこに新しくインターメディアリーを起こすのだと考えなければいけないのではないか。そうすることで、本当の意味でのEマーケットメーカーに成り得、Eマーケットプレースのメリットを享受できるのではないだろうか。

さて、2000年の初めての原稿となりますが、関係者のぎりぎりまでのご努力があって、日本でも米国でも大きなY2K問題を招くことなく新ミレニアムを迎えることができました。カウントダウンに沸き返るタイムズスクエアをオフィスから見下ろしていた私としても、ほっとするものがありました。もちろんまだ問題が起きる可能性が、全て過ぎ去ったと言うことではないでしょうが、Y2K問題の顛末記を書くようなことはもはや必要ないのでしょう。皆様、本当にお疲れ様でした。

 

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