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2000年8月 電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一
ポストPC時代における次世代型情報端末と企業戦略(後半) |
(5)家庭内普遍コンピューティング技術
家庭内普遍コンピューティング技術のスマート・アプライアンスへの応用には様々なものが考えられているが、中でも、大手家電メーカーのGEアプラインアンス(www.geappliances.com)やワールプール(www.whirlpoolcorp)などが来年にも売り出すとされる「スマート冷蔵庫」などが代表的なものとされる。もともとキッチン内の中心的なアプライアンスである冷蔵庫にネットワークと接続されたタブレット型PCを付け、庫内の食品の管理やネットを通じた食品購入のみならず、家庭内のハブとして、他のアプライアンスのコントロールもできると言うもの。その他にもネットワークからレシピがダウンロードできたり音声で指示できたりするスマート・オーブンやレンジなどが開発されている。GEアプライアンスは10年以内には98%のアプライアンスがネットワーク対応になり、オフィスやモバイル・フォンからコントロールするようになると予測している。 キッチンでどれだけインターネット接続が必要なのかは、アナリストの意見も分かれるところだが、次に述べる家庭内ゲートウェイ技術が確立してくれば、家庭内のハブは居間にあってもキッチンにあってもどちらでも良くなり、米国の広くてオープンなダイニングキッチンを思えば、冷蔵庫が家庭内の情報ハブになる可能性は高いのかもしれない。 2. 住宅用ゲートウェイ技術 家庭内普遍コンピューティングを実現する第1段階としては、まずは複数のパソコンを結ぶと言うところから始まる。家庭と言っても米国ではSOHOがターゲットとなり、イーサネットをベースとするネットワーキング・キットが98年頃から伸び始めたが、最近は新たな線を引かなくて済む電話線利用のキットが主流となっている。主な製品としてはインテルの「AnyPoint」(www.anypoint.com)、リンクシス社(www.linksys.com)の「HomeLink Phoneline」、スリーコム(www.3com.com)の「HomeConnect」、S3社(www.s3.com)の「HomeFree Phoneline」などがある。いずれも1Mbpsや10Mbpsの速度でパソコン間を結び、価格は1台当たり100ドル程度である。また、ワイヤレスも伸び始めており、インテルなどが1.6MbpsのHomeRF標準(www.homerf.org)採用のキットを、ノキア、ノーテルなどが11MbpsのIEEE802.11標準(www.wirelessethernet.org)採用のキットなどを出している。電力線利用のものも話題となっていたが、「ホームプラグ・パワーライン・アライアンス」(www.homeplug.com)がようやくこの6月に雑音の少ない方式を標準として選択したところであり、出遅れている。 さて、第2段階としては、パソコンのみならず、上述のような各種のアプライアンスを接続していくことを考えなければならないが、いくつかの陣営がホーム・ネットワーキング技術のデファクトととなるべく競い合っている。 その一つが、サン・マイクロシステムズを中心とするジャバベースのソフトウェア「Jini(ジーニー)」(www.jini.org)で、複数の異種の機器を、容易にネットワークに接続させる技術として注目されている。Jiniは“自発的ネットワーキング”ソフトウェアと呼ばれ、各種デジタル機器に搭載されると、ネットワークに機器の機能についての説明情報を自動的に提供し接続を最適化させるため、プラットフォームが異なる各種機器をスムーズに接続することができる。 そのJiniと競合するソフトウェアとしてマイクロソフトが99年1月に発表して開発が進められているのが「ユニバーサル・プラグ・アンド・プレイ」(UPnP)(www.upnp.org)で、IP、HTTP、XMLなどの標準を用い、ネットワーク機器、家電、家庭用コンピュータが情報を伝えあい、共有できるようにするソフトウェアである。 その他に、特にAV機器を中心にIEEE1394標準によりネットワークに接続する技術として、ソニーを中心として日欧で開発している「HAVi(Home Audio Video Interoperability)」(www.havi.org)がある。 さらに、現在話題のブルートゥースも、10メートル程度の近距離で家庭内の機器を同期させることができるのは前述した通りである。 これらのホーム・ネットワーキング技術は、どれが本命と言うところはまだなく、横断的な標準も模索される中、例えば上述のGEはUPnPに参加しているが、サンとも協力関係を持っているし、ワールプールもUPnPに参加したが、シスコやノキアと別な協力関係を結んだりしているというような状況にある。 (6)高性能テレビゲーム機 次世代テレビゲーム機も、家庭内のインターネット・アクセス機器として注目されている。既に米国の市場にはセガの「ドリームキャスト」(99年9月発売)が出ているほか、ソニーの「プレイステーション2」が10月26日に発売される予定であり、任天堂の「ドルフィン」もそれに続き、さらに来年の秋には、マイクロソフトが「X-Box」を出すことを発表している。 ドリームキャストは56Kモデムも内蔵しており、2000年4月18日付けの「PC Magazine」では、ウェブ・アプライアンスとして、ウェブTVなどと並べて評価されているが、通常のウェブ・サーフィンなどの機能では他より劣るとされるのは仕方のないところであろう。やはりゲーム機のインターネット接続機能は、対戦ゲームや子供同士のeメールのやり取りなどに現状では限定されると考えるべきなのかもしれない。 しかし、マイクロソフトは70億ドル(99年)と言われているテレビゲーム市場を狙うのみならず、インターネット戦略としてのMSNや双方向テレビ戦略としてのウェブTV/マイクロソフトTVに、X-Boxをからめることで、ホームエンターテイメント市場全体を押えようと考えていることは間違いない。それより1年先行するソニーが、プレイステーション2のゲーム機としての魅力のみならず、デジタルセットトップボックスやデジタルテレビなどとの連携で、ホームエンターテイメントをどのように変えて行けるのかが、まずは注目されるところである。 (7)自動車搭載端末 自動車へのインターネット接続技術の開発がここに来て、急速に進みつつある。中心となっているのが、テレマティックスを高度化し、インターネットを組み込む技術であり、大手ITメーカーがこぞって参入を決めている。テレマティックスとは、安全性を向上させるための車載用組込み型電子システムであり、ナビゲーション情報、事故時の緊急サービスの要請、故障の場合の修理工場との連絡、盗難の防止や追跡などの技術を総称している。 高度テレマティックスの開発で先行しているのが、モトローラ(http://www.motorola.com/ies/telematics/)である。同社は既にゼネラルモーターズの98年モデルから、テレマティックス・システム「オンスター」(www.onstar.com)を提供している。GMの中級以上の車のバックミラーやダッシュボードに、3つのボタンからなるオンスターのシステム(695ドル)が取り付けられ、セルラーとGPSでミシガン州トロイのオンスター・センターとつながっている。年間199ドルの「Safety and Security」に入れば、緊急時のセンターからのアシスタンスや緊急車両の要請などがボタン操作(エアバッグ動作時は自動)でできたり、車が盗難にあった場合はGPSで追跡して警察に通報したり、故障時には故障の状況や場所などを告げなくても遠隔診断してGMのサービスカーが駆けつけてくれるなどのサービスが受けられる。399ドルの「Premium Service」では、さらに音声でのナビゲーションやコンシュルジュサービス(ホテル予約やレストラン紹介など)が追加される。 モトローラは、今年中に現在の10万人以上のオンスターのユーザーが年内には100万人を突破するとしているが、GM以外にもフォード、BMW、ベンツ、日産などと、類似のシステムを共同開発しており、2001年モデルから本格的に提供するメーカーが多く、テレマティックスのブレーク・イヤーになりそうである。(ストラテジス・グループは、2000年のテレマティックス・ユーザー82万人が2004年には1,100万人に増えると予測している。) フォードはGMより早く、リンカーンの96年モデルに既にテレマティックス・システム「RESCU(Remote Emergency Satellite Cellular Unit)」の搭載を試行的に始めていたが、本格的な新型モデルへの搭載は2001年モデルからとなる。この立上げを強化すべく、7月31日に、フォードはクワルコムとジョイントベンチャー「ウィングキャスト」を作り、オンスターに正面から対抗していく方針を明らかにしている。 テレマティックスとはやや異なるアプローチから、車載端末市場を狙っているのがマイクロソフトである。マイクロソフトは自動車用ウィンドウズCEを99年1月に発表し、クラリオンが「AutoPC」(www.autopc.com)として製品化している。AutoPCは通常のカーラジオのスペースに収まるサイズのコントロール・モジュール(1,299ドル)にオプションのCDチェンジャーやGPSなどが加わり、音声で指示をするPCで、ナビゲーションも画面でなく音声で行われる。セルラー・フォンと接続することで、ニュースや天気予報などの情報にアクセスできるだけでなく、音声でeメールを送る機能までついている。今後、サービス・プロバイダーとの提携により、ロードサイド・サービスなども提供されていくということで、自動車会社のテレマティックスと同様の方向に向かうようである。 |
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