5.PCを巡る動向
(1)PCの出荷動向
2000年においても、PCを巡っては様々な出来事があった。ここでは各論はさておき、全体の出荷動向について触れておこう。
調査会社Gartner Dataquest (http://www3.gartner.com/IndexHomePage.jsp?=dqm)が2001年1月19日に公表した調査結果によると、2000年のPC出荷台数は、全世界が対前年比14.5%増の1億3,474万台、米国が対前年比10.3%増の4,943万台であった。(表4、5参照)
表4 全世界のPC出荷台数
企業名
|
2000年(千台)
|
1999年(千台)
|
伸び率(%)
|
Compaq
|
17,203
|
15,870
|
8.4
|
Dell
|
14,536
|
11,459
|
26.9
|
HP
|
10,237
|
7,600
|
34.7
|
IBM
|
9,162
|
9,311
|
- 1.8
|
NEC
|
5,848
|
6,045
|
- 3.3
|
Gateway
|
5,110
|
4,745
|
7.7
|
その他
|
72,642
|
62,577
|
16.1
|
全世界合計
|
134,738
|
117,626
|
14.5
|
(出展: Gartner Dataquest)
表5 米国市場のPC出荷台数
企業名
|
2000年(千台)
|
1999年(千台)
|
伸び率(%)
|
Dell
|
9,430
|
7,263
|
29.8
|
Compaq
|
7,615
|
7,234
|
5.3
|
HP
|
5,641
|
3,939
|
43.2
|
Gateway
|
4,271
|
4,021
|
6.2
|
IBM
|
2,674
|
3,290
|
- 18.7
|
その他
|
19,800
|
19,065
|
17.4
|
米国市場合計
|
49,432
|
44,811
|
10.3
|
(出展: Gartner Dataquest)
対前年比2ケタの伸び率を示したことは、世界的なITブームの中でPC産業が全体的には順調に発展してきたことを物語っており、誠に喜ばしいのであるが、一方で世界最大の市場である米国市場の伸び率が全世界のそれを大きく下回ったことは、今後のPC市場の動向を占う上で重大な意味をはらんでいる。
それは、一つには2000年後半から少しずつその兆候が現れてきた米国の景気減速の影響である。調査会社IDC (http://www.idc.com/)が2001年1月22日に公表した調査結果によると、2000年第4四半期の米国におけるPC出荷台数は、対前年同期比0.3%増にとどまり、米国市場の減速感が明確になった。さらに、同社が2001年4月20日に公表した調査結果によると、2001年第1四半期はついに対前年同期比9.5%減とマイナスになっている。
もう一つには、米国の家庭におけるPCの普及率が5割を超えたことなどを背景に、米国PC市場がサチュレートし始めたとする見方もある。
また、2000年企業別の動向を見ると、好調なDell、HP、伸び悩むCompaq、Gateway、深刻な状況にあるIBMと、明暗がはっきり分かれている。2001年に入って、ついにDellは世界市場において1994年以来トップの座にあったCompaqを抜いて初めて世界ナンバー・ワンの座に就いた。Dell時代はいつまで続くのであろうか。もちろん各社は巻き返しを図っており、限られたパイを巡る競争はますます激化するだろう。
2001年はPC業界にとって厳しい年になりそうである。せめて、Windows XPが予定通り2001年下半期に発売されてくれればいいのだが...。
(2) その他の動向
2000年におけるその他PCを巡る動向の中で、司法省(+19州)対マイクロソフトの反トラスト法訴訟について簡単に触れておこう。
1998年以来連邦地裁で争われてきた、マイクロソフトのOS WindowsへのブラウザIEのバンドルに関する反トラスト法訴訟は、2000年6月、ジャクソン判事が「マイクロソフトのOS部門とソフトウェア・アプリケーション部門への2分割」という厳しい判決を下して終わった。これはマイクロソフトのみならずPC産業を揺るがす大きな判決、のはずなのだが、当然マイクロソフトは直ちに控訴、2001年に入って2月から控訴審口頭弁論が始まっている。地裁判決に関しては、ジャクソン判事のマイクロソフトに対する「偏見」を問題視する声も上がっており、控訴審がどのような展開になるのかまだまだ予断を許さない。
こうした重要案件の審理が短時間で決着すると思っている人はいないだろう。地裁審開始当初はたいへん注目された本裁判であるが、年月の経過とともに、Windowsは2000、Meの世代へと移行、インターネットをとりまく業界地図も大きく変化してきており、裁判の持つ意味がどんどん風化してきている感がある。それほどこの業界の変化が早いということであろうか。
おわりに
今回は、専らIT関連業界全体の動向の中からいくつかの観点を選んで取り上げてみたが、まだまだ本来「回顧と展望」で取り上げるべき事項は残っている。Linux陣営の動き、ASPの動向、PDAなどポストPCへの流れ、モバイル・コマースの動向なども気になるところであるし、またBluetooth、P to PやIPv6といった新しいキーワードにも注目していく必要があるだろう。これらは今後随時駐在員報告で取り上げていくこととしたい。
日本では、今年に入ってe-Japan戦略が決定され、早急にIT先進国に追い付くべく法制度改革やネットワーク・インフラ整備が始まっている。日米比較をしてみると、携帯電話によるインターネット接続は日本が先行しているし、BluetoothやIPv6も日本のほうが盛り上がっている感がある。
ただし、誤解してはならない。米国は「ITブーム」の時期を経て、既にITを「ツール」として充分に活用できる環境が整い、IT投資からのリターンが厳しく問われる時代に入ってきていると理解すべきであろう。彼我の差はまだ大きい。
いよいよIT「革命」の本番を迎えた米国の動向に、引き続き注目していきたい。皆様、今後ともよろしくお願い申し上げます。
(了)
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