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2002年5月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平
「IT不況下の米国IT業界のリストラに向けた取組み」 |
はじめに 今回は、IT不況下の米国IT業界のリストラに向けた取組みについて取り上げる。 「週刊エコノミスト」誌3月5日号にも寄稿したので御覧になった方もいらっしゃるかもしれないが、米国のIT関連大手各社は引き続き世界的なIT不況の中で売り上げの低迷に苦しんでいるものの、2001年に大幅な人員削減や在庫圧縮などを進め、IT投資の回復を待って反転攻勢に出る態勢を着々と整えつつある。 本稿では、米国IT関連大手各社の直近の四半期決算などから米国IT業界の回復状況を概観するとともに、ケース・スタディとして、デル、HP及びIBMの事業再構築(「リストラ」というと日本では主に雇用削減の意味に使われるが)に向けた取組みを取り上げてみたい。 なお、本稿は、去る2月末に「週刊エコノミスト」誌に投稿した原稿をアップデートしたものをベースとしており、またケース・スタディはニール・マイル社に依頼している。 1.
米国のIT関連大手各社の決算動向 最初に、米国IT業界の現状を見てみよう。米国のIT関連大手各社が発表した直近の四半期決算によると、昨年10月にウィンドウズXPを発売したマイクロソフトを除き、各社とも引き続き世界的なIT不況の中で売り上げの低迷に苦しんでいる。(表1、図1) 特に、パーソナル・コンピュータやネットワーク関連機器、半導体などのハードウェア関連の落ち込みは大きく、昨年秋頃には各社ともハードウェア関連事業部門は概ね対前年同期比20〜30%の落ち込みとなっていた。利幅は薄いが比較的安定しているサービス事業の比率の高い企業が、かろうじて落ち込み幅を小幅にとどめていたと言うことができるであろう。 ただし、米国市場に関する限り、対前年同期比での売上の大幅な落ち込みは、2000年秋が「IT関連株価バブル」を背景とした容易な資金調達に基づく「IT投資バブル」のピークであったことに起因するものであり、いわばある程度不可避なものであると言うことができる。こうした観点からすれば、「これ以上悪くなることはないだろう」という見方もできるであろう。 事実、直近の米国商務省のGDP統計によると、米国のIT関連の設備投資は、2002年第1四半期に5四半期振りに増加に転じ、またハードウェアだけについて見ると2001年第4四半期以降対前期比でプラスとなった。(表2) しかし、対前年同期比で見ると、IT投資全体でマイナス11%、ハードウェアでマイナス19%と依然として大幅なマイナスとなっており、決して先行きを楽観できる状況ではない。 表1 米国のIT業界各社の直近の四半期決算
(注)営業利益にはリストラ等の特殊要因を含まない。 Compaqの純利益の前年同期は131百万ドルの損失。 (出展: 各社発表資料) 図1 売上高前年同期比の推移(2001年〜)
(出展: 各社発表資料) 表2 米国のIT関連の民間設備投資
(注)金額は季節調整済み年換算額の名目ドル値。(単位:10億j) (出展: 商務省経済分析局) 一方、企業別に見ると、各社がIT不況の影響を一様に被っているわけではない。例えば、調査会社IDCが4月17日に公表した2001年第4四半期のパーソナル・コンピュータの米国市場における出荷動向(表3)によると、米国市場全体で出荷台数が対前年同期比0.4%減となる中で、生産アウトソース・直販というビジネスモデルを武器に容赦のない価格攻勢を続ける業界トップのデルが対前年同期比19.4%増の出荷台数を記録し、市場シェアも1年間で約5%伸ばして28.4%を獲得するという一人勝ちの状態にある。(そのデルにしても、11-1月期の売上高で見ると対前年同期比マイナスであるが。)パソコンにおける「負け組」のHPとコンパックが合併によって活路を見出そうとするといった動きが出てくるわけである。 表3 2002年第1四半期の米国市場におけるPC出荷台数
(出展: IDC) こうした深刻なIT不況下で、米国のIT業界各社は、2001年に入って事業戦略の見直しに基づき大幅な人員削減や在庫圧縮などのコスト削減策を早急に進めたわけであるが、各社の四半期決算の動向を見ると、その効果が見え始めている。 例えば、「IT投資バブル」の影響を大きく受けたネットワーク関連機器大手のシスコを見ると、同社の2000年8-10月期、11-1月期の売上高は対前年同期比でプラス50%を上回る高い伸びを達成し、売上高営業利益率も20%を超えていたが、2001年に入って売上が急減し、売上高営業利益率も1〜2%にまで急落した。そこで同社は、人員削減、過剰設備統合、組織改編などの対策を打ち出すとともに、2001年2-4月期決算ではリストラ関連費用や過剰在庫費用で30億ドル以上を計上するなど、バブルの清算に取り組んだ。その結果、直近の2001年11-1月期決算では、売上高営業利益率が15%を超えるまで持ち直している。(図2) 図2 2001年の売上高営業利益率の推移
HP、Dell、Ciscoについては決算期は2-4月期、5-7月期、8-10月期、11-1月期。 (出展: 各社発表資料) もちろん、他社もそれぞれ、人員削減、生産のアウトソーシング、営業費用削減、在庫圧縮などの対策を早急に進めている。その結果、テロ事件という想定できないアクシデントの発生にもかかわらず、直近の四半期決算では、売上が引き続き低迷する中で、各社とも売上高営業利益率が前期比で着実に改善してきている。各社とも、IT投資の回復を待って反転攻勢に出る態勢を着々と整えつつあると見ることができるであろう。 それでは以下、具体的な事例として、デル、HP及びIBMのリストラの動向について見てみることとしよう。
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