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2002年8月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平
「米国におけるワイヤレス市場の動向」(その2) |
4.
モバイル通信事業をめぐる新たな動き (1)
新興キャリアの登場 全米をカバーする大手モバイル通信事業者とは別に、独自のサービスや戦略によってモバイル通信ビジネスを急成長させている事業者がある。以下では、そういった事業者のなかから、Leap Wireless、Dobson Cellular、MetroPCSについて取り上げる。 1. Leap Wireless(http://www.leapwireless.com/) Leap Wireless International Inc.は、カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置く地域モバイル通信事業者で、1998年にQualcomm Inc.から独立したメンバーによって設立された。同社は「Cricket Comfortable Wireless」と呼ばれるサービスを提供している。このサービスは、月々30〜35ドルの均一料金でローカル・エリア内からなら無制限に電話をかけることができ、またどのエリアからの電話も定額料金内で受けることができるという、携帯電話として画期的なサービスである。 2002年第1四半期の売上高は1億4,000万ドルで、1年前の2001年第1四半期の3,700万ドルと比べると、実に300%近い伸びとなっている。加入者は、2001年12月の時点で約112万人であったが、2002年3月時点で24%増の139万人となった。Cricket Comfortable Wirelessサービスは、現在全米20州40市場で提供されている。 Leapの最も大きな直接の競合相手は、地域通信事業者になるだろうと見られている。Leapの調査結果によると、同社のユーザー4,000人のうちの60%が「Cricket Comfortable Wirelessサービスをメインの電話として利用する」と回答し、32%は「通常の電話は持っていない(携帯電話しか使っていない)」と回答している。つまり、両者を合わせると92%が携帯電話をメインの電話として利用しているということになる。Leapは、「我々は今後の地域通信事業者があるべき、新しいタイプの地域電話会社といえる。つまり、Cricketを利用する顧客は、携帯電話を持って、いつでもCricketエリア内から電話することができるようになる」としている。 2002年7月現在、同社の財務状況を懸念する報道が見られ、その先行きが懸念されるが、同社の急速な成長は、今後の地域通信事業者が変化に迫られていることを示唆していると言えるであろう。 2. Dobson Cellular(http://www.dobson.net) Dobson Cellularは、オクラホマ州オクラホマ市に本拠を置く、1936年設立の地域通信事業者Dobson Communications Corporationのモバイル通信事業部門である。Dobson Communicationsは通信事業者としては老舗だが、同社がモバイル通信事業を開始したのは1990年代初頭で、モバイル通信事業者としては新興キャリアといえる。2000年までの同社の加入者は100万人を超えた程度であったが、その後急速に成長し、現在では130万人の加入者を有するまでになった。現在、Dobson Cellular Systems及びCellular Oneの名称で、米国17州でモバイル通信事業を行っている。 2002年第1四半期の売上高は1億4,300万ドルで、2000年第1四半期の1億3,100万ドルから前年同期比9%増である。償却前利益(EBITDA)は5億3,700万ドルで、2000年第1四半期の4億4,000万ドルから前年同期比22%増となった。 同社のモバイル通信事業が急速に拡大している背景には、積極的な買収戦略がある。1998年に6億4,000万ドルでSygnet Wirelessを買収、続いて2000年にAT&T Wirelessと共同で23億2,000万ドルでAmerican Cellular Corporationを買収した。 DobsonはTDMA方式とCDMA方式を採用しているが、AT&T Wireless及びCingular Wirelessとパートナーを組み、GSM/GPRS技術を導入して全米規模のローミングを行うとしている。また、EDGE技術を移植し、最終的には3Gサービスを提供することを念頭に、ネットワークを構築中である。 3. MetroPCS(http://www.metropcs.com./) MetroPCSは、1994年に設立されたテキサス州ダラスに本拠を置く地域モバイル通信事業者である。ダラスをはじめ、アトランタ、マイアミ、サンフランシスコ、サクラメントでサービスを提供している。MetroPCSのビジネスモデルはLeap Wireless同様、月額均一料金35ドルで電話が無制限に送受信できるプランの提供である。 MetroPCSは、家庭用のサービスも提供している。加入者は月々35ドルの定額料金を払うだけでよいが、ボイスメールや発信者番号通知サービス、通話中着信サービスを利用したい場合は、月々3ドルの追加料金が必要となる。さらに、文字で会話(text talk)したい場合は、5ドルの追加料金でテキスト・メッセージング・サービスを申し込むことができる。このように、他の事業者とは異なり、一括込みで提供して欲しくないとユーザーが考えるサービスをアンバンドル化しているのが、MetroPCSの特徴である。 MetroPCSのビジネスモデルはLeap Wirelessと非常に似たものであるが、同社によれば「操業当時からこうしたビジネスモデルについて熟慮してきた」という。そして、LeapのCricketサービスが中規模の市場をターゲットとしているのに対し、同社の長期的なゴールは大規模市場を狙っていくことにあるとしている。 MetroPCSはまた、3Gネットワーク・インフラであるCDMA 2000 1XRTTをベースとしたデジタル・ネットワークを敷設した最初の通信事業者であるが、サービスの提供はまだ開始していない。同社は、3Gサービス提供事業者として今後が期待されている。 (2)
MVNO(Mobile Virtual Network Operator) 〜 Virgin Mobile USA MVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)とは、自社で帯域事業免許やネットワーク・インフラを持たないリセール事業者のことを指し、以下のような特徴を有している。 Ø 自社で帯域免許を持たない Ø ネットワーク・インフラを持たない(例外あり) Ø すでに、ブランド力、マーケティング力を有している Ø 独自でマーケティング戦略、ブランド戦略、ビリング戦略、顧客サポート戦略などを行う MVNOは、欧州を中心に広がったビジネスモデルである。GSM規格で統一されている欧州においては、サービスの質やカバレッジで競合他社との差別化を図るのが難しい。そこで、他のビジネス分野で既に信頼性やブランド力を確立しマーケティング力を有している企業とモバイル・ネットワーク・インフラを持つ事業者がパートナーを組み、MVNOとしてビジネスを展開しはじめたのが始まりである。 米国では、英国Virgin GroupとSprintPCSが1億5,000万ドルずつを出資して合弁会社Virgin Mobile USA(http://www.virginmobileusa.com/)を設立し、2002年6月に米国初のMVNOとしてサービス提供を開始した。 Virgin Mobileは、15歳から30歳の若い利用者層をターゲットとして、利用した分だけを支払う“pay as you go”プランを導入した。毎日の利用分のうち最初の10分までが25セント/分、それ以降が10セント/分で、これに長距離電話やボイスメールなどすべての料金が含まれている。料金支払いはプリ・ペイド方式で、$20〜50のTop-Upカードを購入してPIN番号を電話機に入力する。クレジットカードでの自動事前支払いも可能である。Virgin Mobileはまた、携帯電話を通じて音楽を聴いたり、買物をしたり、エンターテイメント情報を入手したりできるVirgin Xtrasサービスも提供している。 米国の携帯電話普及率は、前月の駐在員報告で触れたように40〜45%と欧州や日本に比べ低いが、その大きな要因としてティーンエイジャーを始めとする若年層における普及率の低さが挙げられる。Virgin Mobileはまさにこの若年層をターゲットとしており、その動向が注目される。 Virgin Mobileの共同出資者であるVirgin Groupは、世界各国において、航空会社(Virgin Atlantic)をはじめ、携帯電話、金融サービス、フィットネスとレジャー、清涼飲料水、ワイン、レコード、自動車、旅行、ホテル、出版などさまざまなビジネスを手がけており、そのグローバル・ブランド力を誇っている。 英国第4位の携帯電話事業者One 2 Oneと折半出資でVirgin Mobileを設立したことが、Virgin GroupのMVNOとしてのビジネスの始まりであった。その後、オーストラリアの携帯電話会社C&W Optusと折半出資合弁企業Virgin Mobile Australiaを設立、続いてSingapore Telecomとの合弁企業Virgin Mobile Asiaを設立し、今回SprintPCSとの合弁企業設立はVirgin Groupにとって第4弾のMVNO設立となる。 一方、既に全米規模でのネットワーク・インフラとブランド力・マーケティング力を有するSprintPCSにとって、Virgin Mobileがどのような意味を持つのかは明確ではない。SprintPCS側からの出資は大部分が現金ではなく実際のサービス提供によって行われ、リスクが最小限に抑えられているとの指摘もある。 こうしたSprintPCSの姿勢を見ても、GSM規格で統一された欧州市場と違い諸規格・サービスの乱立する米国市場において今後MVNOビジネスが定着するか否かについては、慎重な見方をせざるを得ないであろう。 (3)
E911 モバイル通信サービスを巡る新しい動きの一つとして、「Enhanced 911(E911)」について触れておこう。911番は、日本の110番や119番にあたる、米国での緊急時電話番号であり、E911とは、モバイル通信キャリアに対し、携帯電話からの911番通報に発信者の位置を自動的に特定できる機能を付加するよう求める規制である。 E911規制が提案されたのは1996年で、当初の計画では第一段階(1998年)では911番に通報した携帯電話利用者の電話番号と通報場所に最も近い基地局の特定が可能となり、第2段階(2001年10月)で発信地の特定精度が100ヤード(約90m)以内に絞られることとされていた。 Verizon Wireless、AT&T Wireless、Cingular Wirelessなどを含む大手モバイル通信事業者9社は、結局はFCCの定めた2001年10月1日までにE911のサービスを開始できなかったのだが、2001年9月11日の同時多発テロ以降、E911サービスの重要性はより大きくクローズアップされ、対応が急がれている。 こうした中でFCC(http://www.fcc.gov/911/enhanced/)は、2001年10月に主要事業者毎に今後のE911サービスの導入計画を示したFact Sheetを公表するとともに、各社から3か月毎の進捗状況報告書を提出させ公表することとするなど、大手モバイル通信事業者に対する圧力を強めている。また、2002年6月には、FCCが対応の悪いAT&T Wirelessに対し220万ドルの罰金を示唆し、AT&T Wirelessが自発的に10万ドルを国庫納付することで決着したなどとも報じられている。 なお、上述のFact Sheetによれば、2005年末までには米国でE911対応のシステムが広く普及することになるはずであるが、このシステムを商用に活用したワイヤレス位置情報サービス(LBS:Location-Based Service)が普及するか否かについては未知数である。関係者の間でワイヤレス位置情報サービスの将来性は大きいと見られているものの、個人情報保護の問題などクリアすべき問題が残っている。 |
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