2002年10月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「ニューヨーク州におけるナノテクへの取組み」


図表7 ナノテク関連の地域的連携

Nanotechnology Alliance in Southern California www.larta.org/Nano
Nanotechnology Franklin Institute, Pennsylvania www.sep.benfranklin.org/resources/nanotech.html
Texas Nanotechnology Initiative www.INanoVA.org
Denver Nano Hub www.nanobusiness.org/denver.html
Sillicon Valley, San Diego and Michigan Nano Hubs
NanoBusiness Allianceのウェブサイトhttp://www.nanobusiness.org/にも関連情報あり)
Roco氏講演より作成)

図表8 ナノテク拠点設置に対する州の関与

拠点 拠出額
ニューヨーク Center of Excellence in Nanoelectronics: Albany Center 2.12億ドル
カリフォルニア California NanoSystem Institute 1億ドル/4年間
イリノイ Nanoscience Center 3,400万ドル
ペンシルバニア Nanotechnology Center 1,050万ドル/3年間
インジアナ Nanotechnology Center 500万ドル
サウスカロライナ NanoCenter 100万ドル
テキサス Nanotechnology Center 50万ドル/2年間
ニューメキシコ University of NMNational Labsとのコンソーシアム  
ニュージャージー NJITへの支援と将来のnanophotonicsコンソーシアム  
フロリダ Center at the University of South Florida  
ジョージア Center at Georgia Tech  
オクラホマ Nano-Net  
オハイオ 支援センター(検討中)  
テネシー (検討中) 2,400万ドル)
ルイジアナ (検討中)  

Roco氏講演より作成)

なお、このようなハイテクによる地域振興の成功例としては、SEMATECHの最初のR&D施設が建設された地であるテキサス州オースチンが有名である。

テキサス州の州都であるオースチンには、以前からテキサス大学オースチン校やIBMTIMotorolaDELLなどの企業が立地していたが、1982年にMCCMicroelectronics and Computer Consortium)が、また1988年にSEMATECHが誘致され、さらにATIAustin Technology Incubator)などのベンチャー企業支援組織が設立されて、1990年代にハイテク企業の集積地として大きく発展した。現在、オースチンには約2,000社のハイテク企業が立地しており、その発展のメカニズムは、いわゆる「オースチン・モデル」として知られている。(オースチンの発展におけるテキサス大学、MCCSEMATECHの役割は十分検証できないとの説もあるが。)

今回のISMTN誘致を受けて、地元オルバニーでは「オルバニーは第二のオースチンになれるかもしれない」という論調が目立った。

しかし、オルバニーが実際にオースチンと同様の成功を収めることができるかどうかについては未知数であろう。現下の厳しい経済環境下で、しかも半導体産業の投資が中国を中心とするアジア地域に重点を移している中で、ISMTNの誘致が地域経済に及ぼす影響は限られるのではないかとの指摘もある。今回のシンポジウムの参加者からは、「オースチン・モデル」に対する「オルバニー・モデル」はまだ確立されておらず、これから作られることになるのであろうとのコメントも聞かれた。

7.                大学の役割

オルバニーにおけるCenter of Excellence建設を通じたハイテク企業誘致のため、UAlbanyは大きな役割を果たしている。

UAlbanyの関連組織Albany NanoTechの敷地内には、既に原子間力顕微鏡(AFM)や超音波力顕微鏡(UFM)、IBM製のスパコンといった先端的R&D装置に加えて、クラス10のクリーンルーム内に0.18μmレベルの200mmウェハー対応のR&D施設が設置されており、現在、本年10月及び来年10月完成予定の300mmウェハー対応R&D施設2棟(インキュベーション・スペースを含む)を建設中である。


図表9 Albany NanoTech

(正面が200mmウェハー対応施設、左が本年10月完成予定の300mm対応施設)

(出展: 石井伸治氏撮影)

UAlbanyKaren Hitchcock学長はシンポジウムでの講演の中で、技術革新に関する大学をとりまく環境は変化しており、政府支出による基礎研究を大学が発展させ産業界が実用化するという従来のリニアモデルではなく、大学の研究者とISMTNのような大型施設とビジネス・インキュベータが同居することによって技術革新と実用化を加速化するというコロケーションモデルが重要になっていると指摘し、UAlbanyもナノテクの実用化に積極的な役割を果たしていくことを表明した。
Hitchcock学長はまた、Albany NanoTech200mmウェハー対応R&D施設がSchool of Nanoscience and Nanoengineeringによって教育用に利用されていることを挙げ、こうした先進的施設を人材教育に利用している大学は他に例を見ないとして、この分野におけるUAlbanyの優位性を強調した。

8.                ナノビジネス

シンポジウムでは、ナノテクの事業化(ナノビジネス)の現状と展望についても紹介された。

200110月に設立され既に200社のメンバーを有するナノビジネスの業界団体NanoBusiness Allianceの創設者・専務Mark Modzelewski氏によると、ナノビジネスの世界市場は2006年に2,000億ドルに達するとも、10年余りで1兆ドル規模になるとも、また既に3,000億ドルに達しているとも言われる。また、エレクトロニクス関連では、カーボンナノチューブを活用した素子、有機ナノエレクトロニクス、Magnetic RAMMRAM)、量子コンピュータ、光スイッチなどが有望だという。

ただ、Modzelewski氏によると、IBMGMなどの大企業がナノテクに熱心な一方で、ベンチャー企業で成功している例はVeecoZyvexC Sixtyなどまだ少ない。ベンチャー・キャピタルがいわゆる技術の死の谷(Death Valley)を乗り越える有望なビジネスモデルを持つ企業に出会えない一方で、企業内ベンチャーやエンジェルが一定の役割を担っているという。

ニューメキシコ大学のSteven Walsh氏は、トップダウン・ナノテクは従来のマイクロエレクトロニクスの延長に留まっており、一方でボトムアップ・ナノテクのような革新的技術が大きな市場を生むには時間がかかるとして、ナノビジネスは一夜にして花開くものではないと指摘した。

シンポジウム会場からは、「ナノテクは最近盛り上がっているが、エレクトロニクス・半導体業界は従来から様々な努力を積み重ねてきており、目新しいものは少ない。」「いや、ブレークスルーは突然やってくるものだ。」といった様々な声が聞かれた。

おわりに

今回のシンポジウムは、成長分野としてのナノテクに対する期待の高まり、半導体産業の置かれた厳しい経済環境、興隆するアジア諸国との連携・競争戦略の模索、といった様々な要素を併せ持つ、まさに「総括の難しい」シンポジウムであった。

ともかく、Pataki州知事の強力なリーダーシップのもとに急速にナノエレクトロニクスのCOE化を進めつつあるオルバニー地区について、第二のオースチンになれるか否かは未知数ながら、今後注目していく必要があるであろう。

ナノエレクトロニクス分野では、一般的には日本が米国に比べ優位に立っていると言われていたが、20013月に取りまとめられた三菱総研の「米国ナノテクノロジー分野研究開発の推進戦略に関する調査」(http://www8.cao.go.jp/cstp/project/nanotech/index.htm)によると、この分野で米国が急速に差を縮めており、量子デバイスや量子コンピュータなど一部では日本を引き離し始めているという。

今回のシンポジウムでは、半導体分野におけるナノテクに関する詳細な技術的講演はなかったが、本分野においては、トップダウン・ナノテク(一層の微細加工化の追及)とボトムアップ・ナノテク(新素子の実用化)との間にまだ少し距離があり、いつ頃どのような形で前者から後者への移行が行われるのかが関係者の重大な関心事であることが伺えた。そして、半導体業界の将来を見通してボトムアップ・ナノテクでも着々と手を打とうとする米国の姿が印象的であった。

激しい国際競争と厳しい不況の中で生き残りをかけて業界再編に取り組んでいる日本の半導体業界にとって、遠からず訪れるであろうトップダウン・ナノテク領域で巻き返しを図ることが喫緊の課題であることは間違いないのであるが、ある日突然ボトムアップ・ナノテクによるブレークスルーが訪れ、気がついたら大きく引き離されてしまっていた、ということにだけはならないよう祈りたい。

(了)

(参照URL

Albany Symposium 2002: http://www.albanysymposium.org/

ニューヨーク州立大学オルバニー校(UAlbany): http://www.albany.edu/

Albany NanoTech: http://www.albanynanotech.org/

Center for Economic Growth: http://www.ceg.org/

International SEMATECH: http://www.sematech.org/

総合科学技術会議: http://www8.cao.go.jp/cstp/project/nanotech/index.htm

国家ナノテク戦略(NNI): http://www.nano.gov/

米国半導体工業会(SIA): http://www.semichips.org/

ニューヨーク州科学・技術・学術研究局(NYSTAR): http://www.nystar.state.ny.us/

Tech Valley: http://www.techvalley.org/

NanoBusiness Alliance: http://www.nanobusiness.org/

http://www8.cao.go.jp/cstp/project/nanotech/index.htm(図表2関連)

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