2002年11月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるITSの動向」(その1


2. 米国連邦政府によるITSの推進

(1)    米国連邦政府におけるITSの推進体制及び予算

ここで、米国におけるITSの推進体制と連邦政府のITS関連予算について簡単に見ておくこととしたい。

米国におけるITSの展開は、陸上交通網整備に関する中期計画である1991年の「Intermodal Surface Transportation Efficiency Act of 1991」(1991年総合陸上輸送効率化法:ISTEA)及びその後継法である1998年の「Transportation Equity Act for the 21st Century」(21世紀交通最適化法:TEA-21)によって確保されたITS関連の研究開発、実配備等のための予算を活用しながら、各州・地方政府等によって構築されるシステム間の相互運用性に配慮しつつ進められている。この際、図表4に示すように、連邦運輸省(DOT)が中心的役割を担っており、連邦道路局(FHWA)、連邦道路交通安全局(NHTSA)、連邦公共交通局(FTA)、連邦鉄道局(FRA)等の関係機関によるITSジョイント・プログラム・オフィス(JPO)を設けて、関係機関の連携の下に研究開発、試験、実配備等を行っている。

また、連邦・州・地方政府関係機関、民間企業、団体、大学等による協議体でDOTの公式諮問機関であるITS Americahttp://www.itsa.org/)が、技術開発や標準化に関するビジョンの提言等を行っている。


図表4 米国におけるITSの推進体制

米国の推進体制図

(出展: 電気通信審議会「高度道路交通システム(ITS)における情報通信システムの在り方」)

図表5 TEA-21におけるITS関連予算(百万ドル)

1998
1999
2000
2001
2002
2003
合計
実配備
101
105
113
118
120
122
679
研究開発
95.0
95.0
98.2
100
105
110
603
合計
196
200
211
218
225
232
1282

(注)毎年の予算上の制約により、実際の予算額はこれらを下回ることがある。

(出展: DOT

なお、現行のTEA-212003年までの計画であるため、関係者は既にその後継法となる陸上交通網整備に関する第三次の法律(現時点では「TEA-3」と呼ばれている)の準備を始めている。その状況は、DOThttp://www.fhwa.dot.gov///////reauthorization/index.htm)やtea3.orghttp://www.tea3.org/)などのウェブサイトで見ることが出来る。

(2)       ITS推進計画

次に、米国におけるITSの推進計画について見てみよう。現行のマスタープランである上述のTEA-21に基づいて、DOTITS Americaは図表6のようにITS推進計画として3種類のITS推進計画を策定している。

図表6 TEA-21の下でのITS推進計画


(出展: DOTNational ITS Program Plan: Five-Year Horizon」より作成)

これらのうち、まず当初の5年計画である「National ITS Program Plan: Five-Year Horizonhttp://www.itsdocs.fhwa.dot.gov/jpodocs/repts_pr/97r01!.pdf)では、図表7に示すように4つの計画分野を設定しそれぞれの目標を示すとともに、それらを実現するための戦略を8つの戦略分野に沿って規定している。

図表7 5年計画の概要

4つの計画分野と目標

1.             大都市圏のITSインフラ

2003年までに、64地域で総合的配備を実現すべく、「時間節約作戦」の目標を達成する。

2.             地方のITSインフラ

2003年までに、10地域で、複数の管轄区域にまたがりマルチモーダルで州外ともデータを共有できる州規模の情報ネットワークを実証する。

3.             商用車両のITSインフラ

2003年までに、2630州で、商用車両情報システム・ネットワーク(CVISN)のレベル1を実配備する。

4.             インテリジェント・ビークル(IVI

インテリジェント・ビークル技術の商用化を促進するとともにそれらの安全を確保するため産業界と協力する。

8つの戦略分野

1.             研究開発の推進

2.             標準化の促進

3.             学術レベルの向上

4.             資金的インセンティブの創設

5.             ガイダンスと技術的支援の提供

6.             国家ITSアーキテクチャと標準との整合性の確保

7.             計画の評価

8.             効果の実演

(出展: DOTNational ITS Program Plan: Five-Year Horizon」より作成)

次に、実配備戦略National Deployment Strategyとして20002月に取りまとめられた「Saving Lives, Time and Money Using ITS: Opportunities and Actions for Deployment」(http://www.itsa.org/subject.nsf/urls/nitsds.html)では、図表8に示すように「2005年までに人や貨物の輸送のための基本的なITSサービスの全米での実配備を完了する」ことを目標として掲げ、実際の事例を紹介するとともに、14の協力分野について20の関係者が取るべき行動について提言を行っている。

図表8 National Deployment Strategyの概要

国家目標

2005年までに人や貨物の輸送のための基本的なITSサービスの全米での実配備を完了する。

協力分野

1.             認識と実行

2.             実益

3.             ITSの実配備のための資金確保

4.             縦割りを超えた調整/協力

5.             技能と訓練

6.             統合のための地域的枠組み

7.             標準とアーキテクチャ

8.             官民協力

9.             調達

10.      ビジネスモデル/製品開発

11.      プライバシーとデータの保護

12.      データの蓄積と価値

13.      研究開発と試験

14.      路車間のインターフェース

関係者の行動

1.             州 − 管理と運営

2.             市/郡 − 管理と運営

3.             地方のコミュニティ

4.             大都市圏の企画団体

5.             地域のITS団体

6.             公共交通機関

7.             料金徴収部署/機関

8.             緊急事態管理サービス提供者

9.             商用車両規制当局

10.      商用車両運行者

11.      駐車場運営者

12.      旅行情報サービス提供者・再販業者

13.      受注者、システム・インテグレータ、コンサルタント

14.      自動車製造業者

15.      製品・サービスの製造・供給業者

16.      通信事業者

17.      標準化団体

18.      学術界

19.      連邦運輸省(DOT

20.      ITS America

(出展: ITS AmericaSaving Lives, Time and Money Using ITS: Opportunities and Actions for Deployment」より作成)

また、20021月に取りまとめられた「National ITS Program Plan: A Ten-Year Vision」(http://www.itsa.org/resources.nsf/Files/PPRA_Full_Final/$file/PPRA_Full_Final.pdf)と題する10年計画では、図表9に示すように、将来の運輸システムに関するビジョンと具体的な目標を設定した上で、4つの計画上の課題とそれを実現するための4つの課題を上げ、それぞれについて、現状、課題が解決された場合の利益、そのための課題、関係者の取るべき行動について記述している。

 



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