2002年11月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるITSの動向」(その1


図表11 ニューヨーク州におけるITSの推進状況(200111月現在)

先進的交通管理システム

  • CCTV(監視用テレビカメラ)のプライバシー・ポリシーの策定
  • 有料道路を巡回し通行者を支援する「HELP Program
  • 5箇所の交通管理センターを運営
  • ニューヨーク/ニュージャージー/コネチカット地域の16機関が協力して交通事故への対応を改善するためのコンソーシアム「TRANSCOM」を形成
  • 州都オルバニー地域で州運輸局と州警察が共同で運輸管理センターの設置などの州都地域ITS計画を推進
  • ニューヨーク大都市圏でニューヨーク/ニュージャージー/コネチカットの3州の協力により「実配備モデル計画(Model Deployment Initiative)」を推進
  • 州運輸局は1.5億ドル以上をかけて7地域で先進的交通管理システム構築のための5年計画を推進
  • 様々なメッセージ表示システムなどを含む「INFORM project」を実施中
  • 州南部自動車専用道路への装備を導入
  • バージニア州からメイン州までの高速道路(インターステート95)の交通改善のため連合体「I-95 Corridor Coalition」を形成
  • ニューヨーク市のブロンクス/北部マンハッタン地区で先進的交通管理システムを導入
  • ニューヨーク/ニュージャージー港湾管理局はニューアーク、JFK両空港周辺の様々な交通管理システムをリンク

関連活動

  • 州規模/地域のアーキテクチャの策定
  • 州運輸局は2000年春に道路気象情報システムの構築に着手
  • 州運輸局は先進的交通管理システムの構築を検討する際のガイドラインとなる「ITS Scoping Procedures」を策定中
  • Calspan-バッファロー大学研究センター(CUBRC)がITSオプション分析モデルを開発
  • 無休運用(24/7 Operations)に向けた戦略を策定

先進的公共交通

  • ナイアガラ運輸局は350台のバスでGPS自動車両位置システムを運用
  • ロチェスター地域公共交通局は次に来るバスの情報を自動車両位置システムで提供
  • 州都地域でバスに「Swipers」と呼ばれる電子式料金カードを導入
  • ウェストチェスター郡で公共交通に関する勤務時間外の自動音声応答システムなどを計画
  • ニューヨーク市及びロングアイランドでは経路計画・料金・スケジュール情報の自動提供システムなどを実証・運用中

商用車両運行

  • ニューヨーク州はワシントン地区にかけての7州と共同で商用車両運行におけるIT利用に関する様々な制度的課題をとりまとめ
  • ニューヨーク州バッファローとカナダのオンタリオ州フォート・エリーを結ぶPeace BridgeにおいてDSRC(狭域無線通信)を活用した自動国境通行システムを設計中

自動料金徴収

  • 4州にまたがる7つの料金徴収機関が共通の料金徴収システムE-Zpassを導入し250万人が利用
  • E-Zpassはバッファローとフォート・エリーを結ぶPeace Bridgeでも運用予定

衝突通報

  • CalspanITSプログラムで自動衝突通報システムの機能を実証中

ITS企画立案

  • バッファロー/ナイアガラ、ロチェスター、オルバニー、ハドソン川流域南部、ニューヨーク市、ロングアイランドで連邦資金を活用したITS企画立案を完了しシラキュースで実施中
  • ナイアガラ地域国際運輸技術連合で国境をまたぐITSを推進

ITS実配備

  • ロチェスター、バッファロー、シラキュースで交通管理センターの建設、様々なメッセージ表示盤、高速道路ラジオ、CCTV(監視用テレビカメラ)の設置、通信用光ファイバの敷設などを実施
  • バージニア州からメイン州までの高速道路(インターステート95)の交通改善のための連合体「I-95 Corridor Coalition」で様々なITSサービスの試験・評価を実施

その他の活動

  • Tappan Zee Bridge/Cross Westchester CorridorCCTV(監視用テレビカメラ)やTRANSMITなどの先進的交通管理システムを順次導入
  • 電子式料金・交通管理技術を用いて交通管理と料金所の運用管理を行うTRANSMITの活用を強力に推進
  • ウェストチェスター郡はニューヨーク市と提携して交通情報センターを設置

(出展: 連邦運輸省(DOT)のウェブサイトより作成)

Tappan Zee Bridgeなどニューヨーク在住者でなければわからないようなローカルな話も混じっていて恐縮であるが、この図表11を眺めてみると、米国でITSに対するニーズが最も高い地域の一つであると思われるニューヨークでも、実際に導入されているシステムは、失礼ながら「たいしたことはない」と言えるであろう。交通管理システムの構築・ネットワーク化が進んできてはいるものの、いずこも同じで関係者間の連携に苦心している様子が窺われる。

こうした中で、ニューヨーク州における取組みの中から興味深い点を挙げるとすれば、CCTV(監視用テレビカメラ)のプライバシー・ポリシーの策定(日本ではどうなっているのでしょうか?)、自動料金徴収システムE-Zpassの普及(日本のETCにも期待しているのですが)、Peace BridgeにおけるDSRC(狭域無線通信)を活用した自動国境通行システム(テロ事件後の国土安全保障強化の観点から注目される)などであろうか。

ITSに関わるプライバシー問題については、米国では論争の種となっており、例えばつい先日容疑者が逮捕されたワシントンDC近郊での連続狙撃事件でも、路上に設置されたカメラが不審な白いワゴン車を探すために利用されたのではないかなどと報じられ、犯罪解決を評価する声とともに、プライバシー問題を懸念する声も上がっている。(日本でもオウム真理教事件の際に同様のことがあったと記憶している。)

また、E-Zpasshttp://www.e-zpassny.com/)については、日本のETC車載器が能動型で双方向通信によりリアルタイムでのクレジット決済などが可能なシステムであるのに対し、E-Zpass車載器は受動型で非常に簡単なシステムである。このため、E-Zpass車載器は無料で配布されており、通行料は自分のアカウントに入れてあるデポジットから自動的に引き落とされ、クレジットカードを登録しておけばデポジットが少なくなるとそこから自動的に補充されるといった仕組みになっている。実際にE-Zpassを使えば料金が割引になるし、料金所混雑時の所要時間もかなり差が出るので、広く普及しているのも頷ける。ビジネスモデルとしても良くできたシステムであると言えるであろう。

ただし、日本との比較で言うと、こちらの有料道路の料金は通常50セント〜1ドル程度、長距離走ったとしてもせいぜい数ドルというところであり、日本とは1ケタ異なる。日本のように少し走ると数千円かかるとすれば、E-Zpassのようなデポジットからの引き落としというわけにもいかないだろうし、捕捉率も高くなければならず(E-Zpassではたまに動作しないことがある)、したがって日本のETCが技術的に高度な(価格も高い)システムになってしまうのも致し方ない面もある。要するに、日米の有料道路のあり方自体が大きく異なるので、そこで利用される自動料金徴収システムについても単純な比較はできないということである。

(2)         ニューヨーク大都市圏におけるITS実配備モデル計画(Model Deployment Initiative

上記の図表11の中にも出てくるが、ニューヨーク/ニュージャージー/コネチカット3州にまたがるニューヨーク大都市圏において推進されているITS実配備モデル計画(Model Deployment Initiative)について触れておきたい。

これは、連邦運輸省(DOT)による大都市圏におけるITS実配備のモデル・プロジェクトとしてテキサス州サンアントニオ、ワシントン州シアトル、アリゾナ州フェニックスとともに選定されたものであり、ニューヨーク/ニュージャージー/コネチカット地域の16機関が協力して交通事故への対応を改善するために形成したコンソーシアム「TRANSCOM」(http://www.xcm.org/)によって推進されている。

さて、その進捗状況であるが、他の3プロジェクトがとっくに実証・評価を終わっているのに対して、このニューヨーク大都市圏のプロジェクトは延び延びになっているようだ。当初このニューヨークのプロジェクトは「iTravel」と呼ばれていたが、どうも途中で商標権が他社に抑えられていることが判明したといった理由で名称変更を余儀なくされ、現在は「Trips123」と呼ばれているようである。(お粗末!) TRANSCOMのウェブサイト上の情報や上述の連邦運輸省(DOT)のウェブサイト(http://www.its.dot.gov/staterpt/state.htm)に掲載されているニューヨーク州のITSの推進状況に関する記述によると、この「Trips123」プロジェクトは@マルチモーダルな旅行情報システムを電話またはインターネットで無料提供、A旅行前に公共交通の利用計画を作れるツールを運輸情報センターがインターネットで無料提供、B利用者サービスセンターが契約者が事前指定した経路に関する事故情報などを電話、FAX、電子メール、ページャーに送信するサービスを有料で提供、という3本柱からなるようで、2002年の早い時期に運用開始となっている。しかし、200210月時点で「Trips123」のウェブサイト(http://www.trips123.com/)はまだ建設中という状態である。

(3)         ニューヨークにおける道路交通情報提供サービス

ついでに、ニューヨークにおける道路交通情報提供サービスについても触れておこう。

ニューヨーク市近郊は、高速道路が網の目のように張り巡らされているうえ、橋やトンネルにもいくつかの選択肢があり、渋滞も激しいということで、リアルタイムでの道路交通情報に対するニーズは高いと思われる。しかし、意外にもニューヨークでは、ラジオ等での通常の放送はあるものの、東京の感覚で考えて「まともな」道路交通情報提供サービスは無いと言って良いであろう。(驚くべきことに、地元ケーブルテレビ局「NY1」(http://www.ny1.com/)で毎朝放送されている道路交通情報でさえも、具体的な渋滞状況はまったくわからずお寒い限りであると言わざるを得ない。)


図表12 地元ケーブルテレビ局での道路交通情報

(出展: NY1

ニューヨークにおけるインターネットでの道路交通情報提供サービスとしては、ニューヨーク市運輸局(http://www.ci.nyc.ny.us/html/dot/home.html)による交通状況のカメラ映像のリアルタイム配信(図表13)や、traffic.comhttp://www.traffic.com/)やmetrocommute.comhttp://www.metrocommute.com/)といった民間事業者サイトによる事故、工事、渋滞等の情報配信があるが、きめ細かさにおいて日本の道路交通情報提供サービスとは比べ物にならない。

この原因はいくつか考えられるが、やはり資金負担の問題は大きいのではないかと思われる。上述の「Trips123」にしても、そのランニングコストを公的部門がどこまで負担すべきかが議論になっているようであるが、アメリカ人は日本人以上に(?)ケチなので、道路交通情報提供の対価負担を受益者である利用者に求めるビジネスモデルが米国で成立するとは思えない。だからといって公的部門が丸抱えで行うことに対しては、やはり批判的な声もあり、あり得べきモデルを求めて模索が続いているというのが実態ではなかろうか。

Enlarged Map of Manhattan

図表13 マンハッタンにおける交通状況監視カメラの設置状況

(出展: ニューヨーク市運輸局ウェブサイト)

(続く)



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