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2002年11月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田
良平 「米国におけるITSの動向」(その1) |
図表11 ニューヨーク州におけるITSの推進状況(2001年11月現在)
(出展: 連邦運輸省(DOT)のウェブサイトより作成) Tappan Zee Bridgeなどニューヨーク在住者でなければわからないようなローカルな話も混じっていて恐縮であるが、この図表11を眺めてみると、米国でITSに対するニーズが最も高い地域の一つであると思われるニューヨークでも、実際に導入されているシステムは、失礼ながら「たいしたことはない」と言えるであろう。交通管理システムの構築・ネットワーク化が進んできてはいるものの、いずこも同じで関係者間の連携に苦心している様子が窺われる。 こうした中で、ニューヨーク州における取組みの中から興味深い点を挙げるとすれば、CCTV(監視用テレビカメラ)のプライバシー・ポリシーの策定(日本ではどうなっているのでしょうか?)、自動料金徴収システムE-Zpassの普及(日本のETCにも期待しているのですが)、Peace BridgeにおけるDSRC(狭域無線通信)を活用した自動国境通行システム(テロ事件後の国土安全保障強化の観点から注目される)などであろうか。 ITSに関わるプライバシー問題については、米国では論争の種となっており、例えばつい先日容疑者が逮捕されたワシントンDC近郊での連続狙撃事件でも、路上に設置されたカメラが不審な白いワゴン車を探すために利用されたのではないかなどと報じられ、犯罪解決を評価する声とともに、プライバシー問題を懸念する声も上がっている。(日本でもオウム真理教事件の際に同様のことがあったと記憶している。) また、E-Zpass(http://www.e-zpassny.com/)については、日本のETC車載器が能動型で双方向通信によりリアルタイムでのクレジット決済などが可能なシステムであるのに対し、E-Zpass車載器は受動型で非常に簡単なシステムである。このため、E-Zpass車載器は無料で配布されており、通行料は自分のアカウントに入れてあるデポジットから自動的に引き落とされ、クレジットカードを登録しておけばデポジットが少なくなるとそこから自動的に補充されるといった仕組みになっている。実際にE-Zpassを使えば料金が割引になるし、料金所混雑時の所要時間もかなり差が出るので、広く普及しているのも頷ける。ビジネスモデルとしても良くできたシステムであると言えるであろう。 ただし、日本との比較で言うと、こちらの有料道路の料金は通常50セント〜1ドル程度、長距離走ったとしてもせいぜい数ドルというところであり、日本とは1ケタ異なる。日本のように少し走ると数千円かかるとすれば、E-Zpassのようなデポジットからの引き落としというわけにもいかないだろうし、捕捉率も高くなければならず(E-Zpassではたまに動作しないことがある)、したがって日本のETCが技術的に高度な(価格も高い)システムになってしまうのも致し方ない面もある。要するに、日米の有料道路のあり方自体が大きく異なるので、そこで利用される自動料金徴収システムについても単純な比較はできないということである。 (2) ニューヨーク大都市圏におけるITS実配備モデル計画(Model Deployment Initiative) 上記の図表11の中にも出てくるが、ニューヨーク/ニュージャージー/コネチカット3州にまたがるニューヨーク大都市圏において推進されているITS実配備モデル計画(Model Deployment Initiative)について触れておきたい。 これは、連邦運輸省(DOT)による大都市圏におけるITS実配備のモデル・プロジェクトとしてテキサス州サンアントニオ、ワシントン州シアトル、アリゾナ州フェニックスとともに選定されたものであり、ニューヨーク/ニュージャージー/コネチカット地域の16機関が協力して交通事故への対応を改善するために形成したコンソーシアム「TRANSCOM」(http://www.xcm.org/)によって推進されている。 さて、その進捗状況であるが、他の3プロジェクトがとっくに実証・評価を終わっているのに対して、このニューヨーク大都市圏のプロジェクトは延び延びになっているようだ。当初このニューヨークのプロジェクトは「iTravel」と呼ばれていたが、どうも途中で商標権が他社に抑えられていることが判明したといった理由で名称変更を余儀なくされ、現在は「Trips123」と呼ばれているようである。(お粗末!) TRANSCOMのウェブサイト上の情報や上述の連邦運輸省(DOT)のウェブサイト(http://www.its.dot.gov/staterpt/state.htm)に掲載されているニューヨーク州のITSの推進状況に関する記述によると、この「Trips123」プロジェクトは@マルチモーダルな旅行情報システムを電話またはインターネットで無料提供、A旅行前に公共交通の利用計画を作れるツールを運輸情報センターがインターネットで無料提供、B利用者サービスセンターが契約者が事前指定した経路に関する事故情報などを電話、FAX、電子メール、ページャーに送信するサービスを有料で提供、という3本柱からなるようで、2002年の早い時期に運用開始となっている。しかし、2002年10月時点で「Trips123」のウェブサイト(http://www.trips123.com/)はまだ建設中という状態である。 (3) ニューヨークにおける道路交通情報提供サービス ついでに、ニューヨークにおける道路交通情報提供サービスについても触れておこう。 ニューヨーク市近郊は、高速道路が網の目のように張り巡らされているうえ、橋やトンネルにもいくつかの選択肢があり、渋滞も激しいということで、リアルタイムでの道路交通情報に対するニーズは高いと思われる。しかし、意外にもニューヨークでは、ラジオ等での通常の放送はあるものの、東京の感覚で考えて「まともな」道路交通情報提供サービスは無いと言って良いであろう。(驚くべきことに、地元ケーブルテレビ局「NY1」(http://www.ny1.com/)で毎朝放送されている道路交通情報でさえも、具体的な渋滞状況はまったくわからずお寒い限りであると言わざるを得ない。) (出展: NY1) ニューヨークにおけるインターネットでの道路交通情報提供サービスとしては、ニューヨーク市運輸局(http://www.ci.nyc.ny.us/html/dot/home.html)による交通状況のカメラ映像のリアルタイム配信(図表13)や、traffic.com(http://www.traffic.com/)やmetrocommute.com(http://www.metrocommute.com/)といった民間事業者サイトによる事故、工事、渋滞等の情報配信があるが、きめ細かさにおいて日本の道路交通情報提供サービスとは比べ物にならない。 この原因はいくつか考えられるが、やはり資金負担の問題は大きいのではないかと思われる。上述の「Trips123」にしても、そのランニングコストを公的部門がどこまで負担すべきかが議論になっているようであるが、アメリカ人は日本人以上に(?)ケチなので、道路交通情報提供の対価負担を受益者である利用者に求めるビジネスモデルが米国で成立するとは思えない。だからといって公的部門が丸抱えで行うことに対しては、やはり批判的な声もあり、あり得べきモデルを求めて模索が続いているというのが実態ではなかろうか。
図表13 マンハッタンにおける交通状況監視カメラの設置状況 (出展: ニューヨーク市運輸局ウェブサイト) (続く) |
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