2002年12月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるITSの動向」(その2)


先月は、米国におけるITSIntelligent Transportation Systems)の動向として連邦政府によるITSの推進状況やニューヨークにおけるITSの動向について取り上げた。先月の本稿で見たように、ITSには交通制御・交通需要管理や自動車の衝突防止、公共交通や商用車両の管理など様々なものが含まれるのであるが、米国において最も注目されているITSといえば、やはりテレマティックスであろう。そこで、今月は、特にテレマティックスの動向について取り上げてみたい。

4.             テレマティックスの動向

(1)     テレマティックスとは

ところで、テレマティックスとは何か。

また定義の問題になってしまうのであるが、テレマティックス(telematics)とは、元々はフランス語で通信(telecommunication)と情報処理(informatique)の合成語であるtelematiqueを英語にしたものである。つまり、テレマティックスとは元々はマルチメディア全般、又は特に通信ネットワークを利用した情報サービスを指す言葉であった(「healthcare telematics」などのように使われた)のであるが、その後、少なくとも英語では自動車分野における用語automotive telematicsの意味だけで使われるようになったということである。

現在では、テレマティックスと言えばautomotive telematicsのことであり、例えばITS Americaのウェブサイト(http://www.itsa.org/telematics.html)によると、「テレマティックスとは、車載器やモバイル端末に情報、通信、娯楽を配信する消費者向け製品、サービス及びその支援システムを表す」とされている。

他の文献等を見ても、テレマティックスは概ねこの意味で用いられているようであるが、その具体的な対象(GPSカーナビ?VICS?衛星ラジオ?地上波デジタル・ラジオ?携帯電話ハンズフリー・システム?ETC?遠隔車両診断?)となると、文献によってこれが必ずしも明確ではないと思われるので注意が必要である。例えば、後で出てくる図表16では、日本におけるテレマティックス対応車は4万台以下となっているが、この場合の「テレマティックス対応」とはモネ、コンパスリンク、インターナビ等の狭義の車載システム情報提供サービスだけを対象としておりVICS等を含んでいないのは明らかであろう。

詳細はともかく、「テレマティックス」は、「ITS」がどちらかというとシステム供給者の視点で語られがちな中で、車の利用者の視点で語ることができるわかりやすい分野であると言うことができよう。こうしたこともあってか、米国では「ITS」よりも「テレマティックス」の方が言葉として普及しているように思える。

(2)     オンスター(OnStar)の概要

ここで、米国におけるテレマティックスの代表選手とも言える、オンスター(OnStar)の概要について見てみよう。

オンスター(OnStar)(http://www.onstar.com/)は、米国(世界)最大の自動車メーカーGM1996年に北米市場向けに開始したテレマティックス・サービスである。1996年秋に市場投入されたキャディラックの1997年型3車種向けにサービスが開始されて以来、オンスターはその対象車種を拡大してきており、最新の2003年型モデルでは、ビュイック、シボレーといったGM車(全53車種中44車種)、いすゞ、スバルといったGMグループ企業の車の他、アキュラ(ホンダの米国における高級車ブランド)やアウディ向けにもサービスが提供されている。また、レクサス(トヨタの海外における高級車ブランド)向けにもサービスが提供されており、トヨタはこれを「レクサス・リンク(Lexus Link)」(http://www.lexus.com/lexuslink/)と名付けている。

オンスターのサービスは、図表14に示すとおり3段階に分かれており、基本プランではエアバッグが展開した際の自動通報など緊急時のサービスに加え、通話料金別で音声操作型のハンズフリー携帯電話システムなどが利用できる。また、高額なプランでは、コール・センターのアドバイザによる経路指示などのサービスも利用できる。

図表14 オンスターのサービスの概要

【安全・健全プラン】($16.95/月)

  • エアバッグ展開通報 〜 エアバッグ展開時にコール・センターに自動通報。運転者からの応答がなければ救急隊に車両位置を連絡。
  • 個人通話 〜 自分の携帯電話が使えない場合に利用できる、音声操作型のハンズフリー携帯電話システム。(通話料金別)
  • バーチャル・アドバイザ 〜 上記「個人通話」システムを通じて、事前にウェブで指定した株価、スポーツ結果等の情報に音声操作でアクセス。(通話料金別)
  • 緊急サービス 〜 緊急ボタン一つでコール・センターと通話。車両位置は自動通報。
  • 盗難車両追跡 〜 車両位置を警察に通報。
  • 遠隔ドア開錠 〜 キーを車内に閉じ込めた場合、コール・センターに電話して遠隔操作により開錠。遠隔施錠や、駐車位置を忘れた場合のライト点滅・クラクションも。
  • 遠隔診断 〜 “エンジン・チェック”ライト点灯時や異常音発生時に遠隔車両診断により対応をアドバイス。
  • 路側支援 〜 ガス欠やパンク時に支援を要請。
  • 事故時支援 〜 事故時に要請があれば保険会社や警察に連絡。
  • オンライン・コンシェルジェ 〜 オンラインで主要52都市のショッピング・娯楽等の情報を提供。(車載サービスではない。)

【指示・接続プラン】($34.95/月)

  • 上記各サービスに加え;
  • 経路支援 〜 道に迷った時にコール・センターでGPSにより車両位置を調べ目的地への経路を指示。
  • 情報/利便 〜 コール・センターのアドバイザがホテルの斡旋・予約、最寄りのガソリンスタンドやATM端末の紹介等のサービスを提供。
  • 乗車支援 〜 車が運転できない場合に要請があればタクシー会社に連絡。タクシーがダメな場合は家族・友人に連絡。

【豪華・娯楽プラン】($69.95/月)

  • 上記各サービスに加え;
  • 個人コンシェルジェ 〜 各種チケット入手などの個人コンシェルジェ・サービス。

(出展: オンスターのウェブサイトより作成)

図表15 オンスターの契約者数の推移

(出展: オンスターのウェブサイトより作成)

続き→

| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は Ryohei_Arata@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.