2002年12月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるITSの動向」(その2)


また、オンスターのウェブサイトによると、オンスターの契約者数は2002年5月に200万人に達しており、その推移は図表15のようになっている。図表15を見ると、サービス対象車種の増加に伴い、2000年頃から契約者数が伸び始め、2001年には年間で100万人を超える新規契約者を獲得したことが読み取れる。

米国における自動車保有台数2億台、新車販売台数1,700万台/年(いずれも商用車を含む)という数字から見て、このオンスターの契約者数200万人(100万人/年)という数字を大きいと見るか小さいと見るかという問題はあるが、少なくとも日本における同種のサービスが苦戦している状況と比較すれば、オンスターは健闘していると言えるのではないだろうか。

こうしたオンスターの健闘の要因としては、米国の自動車ユーザーにとって重大な関心事であると思われる「緊急時対応」サービスをわかりやすく手頃な料金で提供したことを挙げることができよう。オンスターの3段階のプラン別の契約者数は不明であるが、確かにこの米国で月17ドルで安全と安心が買えると思えば、払っても良いかなと思ってしまう。(でも、道に迷った時や最寄りのガソリンスタンドを知りたい時のために月35ドル(追加で月18ドル)を払う気には、私はなれないが。)

実際、オンスターは簡素で安価なシステムを採用している。図表14を見てもわかるように、オンスターのサービスを利用するために必要な車載システムは、基本的には「緊急」「オンスター呼出」「通話/切断」の3つのボタンだけを持つ携帯電話とGPS受信機で構成されており、カーナビ/ディスプレイは必要としない。また、ここで利用されている携帯電話システムは、旧来のアナログ方式である。(米国では携帯電話の加入者数で見ると1998年頃からデジタル方式が主流になっているが、オンスターは地理的なカバー率ではアナログ方式が90%であるのに対しデジタル方式は30%しかないと説明している。確かに、携帯電話が通じない場所ではオンスターは機能しないので、地理的なカバー率は決定的な要因である。)

しかし、裏を返せば、こうした簡素でローテクなオンスターのシステム/サービスにあまり発展性や楽しさを感じないのも事実である。発展性を考えた場合、やはり最小限のカーナビ/ディスプレイは欲しいところであるし、これは米国の携帯電話事情からくる問題なのであろうが、アナログ方式の携帯電話に依拠していてはどうしようもない。

本駐在員報告の20027月号でも取り上げたように、米国でも遅ればせながらここ23年で携帯電話の普及が進んできており、また小さな地図を表示できるPDA(個人情報端末)もビジネスマンを中心に相当普及しているなど、オンスターをとりまく環境は変わってきていると言える。図表15を見るとオンスターの契約者数は2002年に入って伸びが鈍化しているようにも見えるが、オンスターは次にどのような手を打つのであろうか。今後の動向が注目される。

なお、このオンスターのような緊急時サービスや情報提供サービスは、日本でも警察庁の呼びかけにより民間各社が出資して設立されたHELPNEThttp://www.helpnet.co.jp/)のほか、自動車メーカーなどによって行われているが、こうした日本における同種のサービスと比べると、実はオンスターのサービス料金はかなり高い。(緊急通報サービスHELPNETの年会費は4,000円、他の各種サービスの利用料金も、オペレータを介するか否かといったタイプによっても異なるが、オンスターに比べると安い。)

これは、一つには日本の各種サービスの利用料金に通信料金が含まれていない(自分の携帯電話を活用することを前提にしている)のに対し、オンスターには基本的な通信料金が含まれていることによると思われる。

トヨタも日本において、オンスターと同様に携帯電話を持たなくても利用できる新サービスG-Bookhttp://g-book.com/)を開始している。(料金は定額で6,600円/年とかなり安い。)この米国で今のところ成功している“通信料金込み”のモデルが日本でも定着するかどうかも、今後の注目点である。

(3)     日米のテレマティックスの比較

日本におけるテレマティックスがご承知の通りカーナビと携帯電話を中心に展開されてきているのに対して、米国におけるテレマティックスと言えば現状では上記のオンスターということであり、日米には大きな違いがある。

こうした日米におけるテレマティックスの相違を理解するためには、国土の状況や市民生活における自動車の位置づけ、道路事情、携帯電話の方式や普及状況などの点における日米の相違を理解しておく必要があるであろう。調査会社テレマティックス・リサーチ・グループ(http://www.telematicsresearch.com/)がこうした点も含めた日米(欧)のテレマティックスの相違を簡潔にまとめているので、図表16に掲げておく。

図表16 日米におけるテレマティックスの相違

 

米 国

日 本

市場の特徴

・均質な市場

・広大な土地

・無線通信が可能な地域が局地的

4つの携帯電話方式が並存

1平方マイル当たり自動車58

・均質な市場

・ナビゲーションが困難

・長期的なITSビジョン

・パケット方式の携帯電話

1平方マイル当たり自動車493

重点分野

・安全とセキュリティ

・コンテンツ/位置関連サービス(LBS)情報

・携帯電話の統合

・ナビゲーション

・ナビゲーション

・リアルタイムの交通情報

・旅行情報

・安全とセキュリティ

原動力

OnStar

・衝突データ記録(Collision EDR

・能動的安全システム

・政府のITS

・ウェブ対応携帯電話の利用

・能動的安全システム

テレマティックス関連の主要自動車企業

GM

・メルセデス・ベンツ

BMW

・リンカーン

・トヨタ

・日産

・ホンダ

・マツダ

課題

・運転手の注意散漫 (distraction)

・プライバシー保護

・ナビゲーションの次は何か?

戦略

・「安全とセキュリティ」にコンテンツとサービスを付加

・ナビゲーション・システムと携帯電話の活用

現状

・ナビゲーション・システム100万台

・テレマティックス対応車350万台

・テレマティックス契約者250万人

・ナビゲーション・システム600万台以上

VICS受信機400万台以上

・テレマティックス対応車4万台以下

(出展: Telematics Research Group



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