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2002年12月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田
良平 「米国におけるITSの動向」(その2) |
米国で自分で車を運転されたことのある方であればよくおわかりいただけると思うが、米国ではインターステートと呼ばれる高速道路(一部を除き無料)や州道などの道路網が体系的に整備されており、また特に交差点等における道路標示が非常にわかりやすい(道路の行き先が、日本のように地名(「⇒厚木」というように)で表示されるのではなく、基本的には道路の番号と方角(「I-95 South」というように)で表示される)ので、初めて訪れる土地でも道に迷うことが少ない。 米国ではカーナビがあまり普及していないが、確かに米国でナビに1,000ドル以上も払う気になれないのも大いに頷ける。 一方で、これも米国の田舎の一般道をドライブされたことのある方であればよくおわかりいただけると思うが、国土が広く人口密度の低い米国では、少し町を離れると、人家のまばらな田舎道(一般道)を時々車が時速100km近くで走り抜けていく(別にスピード違反をしているわけではない)という状況であり、夜に鹿でも飛び出してきてクラッシュして(これも珍しい話ではない)路肩で気絶していても、翌朝まで誰も気がついてくれないことも十分に考えられる。 こうした中で、米国でオンスターがそれなりに普及するのもまた頷ける。 なお、既述のように、図表16では日本のテレマティックス対応車が4万台以下とされており、日本が非常に遅れているような印象を受けるが、おそらくこの数字にはGPSカーナビやVICSは含まれておらず、自動車メーカー系の(苦戦しているといわれる)車載機への情報提供サービスだけがカウントされていると思われるので、注意が必要である。 (4) テレマティックスの市場規模 テレマティックスの市場規模はどうなっているのであろうか。 テレマティックスの市場規模については、一時期かなり威勢の良い数字が言われていた。例えば、IDC(http://www.idc.com/)は2000年7月の時点で、世界のテレマティックス市場は1998年の10億ドルから2010年に420億ドルにまで成長すると予測し、Allied Business Intelligence(http://www.alliedworld.com/)は2000年11月、世界のテレマティックス市場は2001年に22億ドル、2007年には123億ドルに達すると予測した。また、Frost & Sullivan(http://www.frost.com/)は2001年8月、北米のテレマティックス機器の市場は1999年に6,000万ドル、2000年には3億8,000万ドル(6倍増)であったが、2007年には70億ドルへと成長すると予測した。 クルマ社会である米国では、日本の3倍、2億台を超える自動車が保有されており、人々は週に延べ5億5,000万時間を運転に費やすという。IT関連市場が急速に成長し、家庭や職場にITが浸透する中で、カーラジオかカーステレオしかなかったこの潜在的な巨大市場にIT関係者の注目が集まったのは、当然のことであった。 また興味深いのは、2000年のドットコム・バブル崩壊や2001年のテレコム・バブル崩壊後もしばらくは、テレマティックスに対する期待が盛り上がり続けたということである。ドットコムやテレコムが期待できなくなったIT関係者にとって残された有望分野の一つがテレマティックスだったことが、テレマティックスに対する期待を一層過熱させたということであろうか。 しかし、今年に入って、5月にデトロイトで開催された「Telematics Detroit 2002」で自動車業界関係者等から「テレマティックスに対する期待は過熱し過ぎだ」との声が上がったと報じられてから、テレマティックスに対する過度の期待を戒める論調が出てきている。 その後、6月には、GMのオンスターに対抗するテレマティックス・サービスを開発するためフォードがワイヤレス企業クアルコムとの合弁により2000年に設立したウィングキャスト(Wingcast)社が、フォードの業績悪化に伴う本業回帰の一環として閉鎖された。 フォードはテレマティックスから完全に手を引くということではないようであるが、テレマティックス戦線も他のIT全般と同様、長期戦となる公算が強いということであろう。 つい最近の2002年10月2日に公表されたGartner(http://www.gartner.com/)の調査によると、
(5) テレマティックスを巡る課題 上述のように米国におけるテレマティックスが伸び悩む中で、いくつかの課題が指摘され、または顕在化してきている。以下に、こうした課題について見てみよう。 @ 運転手の周囲散漫(distraction) 日本ではカーナビや携帯電話の普及に伴って道路交通法が改正され、1999年11月から運転中にハンズフリー以外の携帯電話を使用したりカーナビ画面を凝視することが禁止されているが、米国でもこの「運転手の注意散漫(distraction)」問題は連邦議会でも議論されるなど大きな問題となっている。ただし、米国ではカーナビがあまり普及しておらず、一方で携帯電話の7割が車の中で使用されるとも言われるので、もっぱら運転中の携帯電話の使用を規制するか否かが議論の中心である。 米国ではご承知のとおりこうした交通法規については州政府が主権を維持しており、2001年6月にニューヨーク州が州レベルで始めて運転中の携帯電話の使用を禁止(ハンズフリーであれば使用可)する法律を成立させ、12月から施行した。その他の多くの州でも、同様の法規制が検討されたようである。(各州の規制立法状況は、全米州議会議員連盟(NCSL)のデータベース(http://www.ncsl.org/programs/esnr/DRFOCUS.htm)によって知ることができる。) ただし、実際にはその後ニューヨーク州に続いて携帯電話の全面的規制を導入する州は現れておらず、NCSLのMatt Sundeen氏によると、スクールバスの運転手の携帯電話使用禁止(イリノイ州他)、仮免許で運転中の携帯電話使用禁止(ニュージャージー州)など、10州が何らかの関連法律を成立させている状況だという。なお、この10州の中には、ミシシッピ州などのようにとりあえず地方政府レベルでの規制を禁止したというものも含まれており、これは、郡市レベルでの規制が乱立するのを防いだものである。(実際に、オハイオ州ブルックリンなど全米20の郡市で規制条例が成立しているという。こうした地方政府レベルでの関心の高まりが、州政府に規制の検討を促す大きな圧力になっているようである。) このように、地域レベルでの関心が高まっているにもかかわらず州政府レベルで当初想定された以上に規制導入に手間取っている要因としては、ワイヤレス業界の強力なロビイングがあったという点も見逃せないのであるが、携帯電話の普及が進みその有用性が広く認識されてきたこと、原因が何であれ事故を起こせば運転手の責任だという考え方も根強いこと、そして何よりも、携帯電話の使用が実際の事故とどの程度の因果関係を持つのか(食事や化粧など他の行為と比較してどうか、ハンズフリーが本当に有効かどうか、など)について十分なデータがないことが挙げられるであろう。 世界的に見ても既に24か国で運転中の携帯電話使用が規制されていると言われる中で、各州レベルでバラバラに議論を重ねていてなかなか前に進まないというのが如何にも米国らしいところではある。 もちろん、連邦運輸省や州政府レベルでは、携帯電話の使用など「運転手の注意散漫」と実際の事故との因果関係に関するデータ収集を進めており、一方でテレマティックス関連業界は、法規制の動向をにらみつつ、音声操作・音声応答型のテレマティックス・サービス実現のため音声認識技術の向上などに取り組んでいる。 なお、カーナビの操作・凝視に関しては、2000年1月に自動車関連の標準化団体である米国自動車技術会(SAE)(http://www.sae.org/)の委員会において、「運転中に利用できるナビ機能は操作時間が15秒以下でなければならない」といういわゆる「15秒ルール」(http://www.umich.edu/~driving/guidelines/SAE_J2364_(Draft).pdf)が提案されたが、規格として成立するには至っていない。 |
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