2002年12月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるITSの動向」(その2)


A        プライバシー保護

先月の本駐在員報告でも少し触れたが、テレマティックスを含むITS全般にとって、プライバシー問題は避けて通れない問題である。

ITSを巡るプライバシー問題としては、携帯電話を利用する場合のユーザーの位置情報や、交通監視カメラや自動料金収受システムから得られる個人・車両がいつどこを通ったかといった情報の取り扱いの問題などが挙げられる。

前者の位置情報のプライバシー問題は、テレマティックスの問題という以前に携帯電話の問題であるが、テレマティックスが携帯電話などの移動体通信システムの利用を前提としている以上は避けられない問題である。この携帯電話ユーザーの位置情報のプライバシー問題は、特に本報告8月号で簡単に御紹介した「E911」(携帯電話からの緊急通報(911)に発信者の位置を自動的に特定する機能を追加するもの)を巡る議論の中で提起され、携帯電話を利用した位置情報サービス(Location Based Services)に対する期待の高まりに伴いそのための環境整備として重視されるようになった。結局、「Wireless Communications and Public Safety Act of 1999」(911法)において、「通信事業者は事前の承認なしに位置情報(911で得られるものに限らない)を他者に開示してはならない」こととされたものの、事前承認取り付けの具体的方法が規定されていないなどの問題点も指摘されている。そこで、ワイヤレス業界団体Cellular Telecommunications and Internet AssociationCTIA)(http://www.wow-com.com/)は@消費者への情報提供、A同意取り付け、B情報収集のセキュリティと統一性、C技術的な中立性、の4項目から成る「位置情報プライバシー原則」をとりまとめ、200011月にFCCに対しこれを規則として採択するよう請願を行ったが、FCC20027月、「911法の規定は明確であり追加的な規則制定の必要性はない」としてこれを却下している。(なお、本問題については、例えば主要プライバシー保護団体の一つCenter for Democracy & TechnologyCDT)のウェブサイト(http://www.cdt.org/privacy/issues/location/)などでフォローされている。)

また後者の交通監視カメラ等により得られる個人・車両情報の取り扱いの問題は、実はITSが普及する以前から潜在的に存在していた問題である(例えばナンバープレートを付けて公道を走っている以上は誰に目撃されても文句は言えない)が、ITの発達により膨大な個人・車両情報の収集・蓄積・検索が可能となるのに伴い顕在化してきた問題である。(日本でも自動車ナンバー自動読み取りシステム(Nシステム)などを巡る議論がある。)米国ではこの問題に関する法的枠組みは存在しないが、ITSを巡るプライバシー問題に対する関心の高まりを受けて、産学官の協議体ITS Americahttp://www.itsa.org/)が20011月に10項目からなる「公正情報・プライバシー原則」を策定しており(図表17)、ITS関連情報を取り扱う者が必要に応じプライバシー・ポリシーを策定するなどして対応しているようである。

図表17 ITS Americaの「公正情報・プライバシー原則」の概要

1.               個々人中心(Individual Centered

  • ITSシステムはプライバシーと情報利用に関する個々人の関心を認識し尊重しなければならない。

2.               情報公開(Visible

  • ITS情報システムは個々人から見える形で構築される。

3.               遵法(Comply

  • ITSシステムはプライバシーや情報利用を規制する州や連邦の法令に従う。

4.               安全確保(Secure

  • ITSシステムの安全は確保される。

5.               法執行(Law Enforcement

  • ITSシステムは移動者の安全に対する関心を高めるために適切な役割を担うが、同意、法定された権限、適切な法的プロセス又は法令で規定された緊急事態が無ければ、個々人を特定する情報は法執行当局に開示されない。

6.               関連性(Relevant

  • ITSシステムはITSの目的に関連する個人情報だけを収集する。

7.               匿名性(Anonymity

  • 可能な場合、個々人はITSシステムを匿名で利用することができる。

8.               商用又は他の二次利用(Commercial or Other Secondary Use

  • ITSシステムの個人を特定する部分を除いた情報は、ITS以外の用途に用いることができる。

9.               情報自由法(Freedom of Information Act

  • 連邦や州の情報自由法では政府のデータベースからの情報開示が義務付けられるが、個々人のプライバシーと公共の知る権利とのバランスが図られるべきである。

10.      監視(Oversight

  • 司法当局とITSシステムを構築・運用する企業は、各々の企業の「公正情報・プライバシー原則」の確実な遵守を監視するメカニズムを導入すべきである。

(出展: ITS Americaのウェブサイトより作成)



←戻る | 続き→

| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は Ryohei_Arata@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.