2003年1月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

2002年の回顧と2003年の展望」


(9)         AOLタイムワーナー

如何にして巨大企業は没落したのか。かつて、AOLタイムワーナーの合併はインターネット界とメディア界の巨人同士の融合でありAOLの方が巨大だと思われた。今やAOLの契約料収入以外の主要収入源であるオンライン広告収入の減少が、この巨獣を直撃し跪かせている。

タイムワーナー側の人間にとってAOLの問題はまとわりついて離れない過去の烙印となっている。そこで何度かトップ・マネジメントの交代が行われており、今ややり損なった外科手術のように見えるようなことはやらないという宣言までしている。AOLの株主にとって誠に遺憾なことに、よく見るとAOLタイムワーナーはAlan Greenspanが「根拠なき熱狂(irrational exuberance)」と呼んだものの幾多の事例の一つになってしまっている。

AOLは米国の最大のISPの一つであり、エンロンのように一夜にして崩壊してしまうことはない。しかし同社は市場における地位を取り戻すべく灰燼の中から自力で立ち上がらなければならないだろう。

⇒ AOLとタイムワーナーの合併も株式交換方式で行われており、結果的に損をしたのはAOLやタイムワーナーの株主である。でも、金融工学が発達し、機関投資家が機械的に各種銘柄をポートフォリオに組み込んでいる現在、「損をした株主」とは誰なのかと思ってしまう。ストックオプションの権利を行使し損ねた経営陣が得をし損ねたのは確かであろうが。

(10) オープンソース対マイクロソフト

かつてメインフレームとサーバーには様々なOSが使われ、その多くがハードウェアの所有物であった。その後標準化戦争が始まると、ハードウェア・メーカーはソフトウェア・メーカーと提携・合併したり、自社のソフトウェア部門をOS開発に特化させた。その後、マイクロソフト社が快適なグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)と多くの既存のサーバー/メインフレームOSに匹敵する安定性を兼ね備えた手頃な価格のWindows NTを携えて参戦したため、企業や政府はマイクロソフトを導入するしかなかった。

この関係は多くのビジネス界幹部を満足させたように見えたが、今やサーバー、メインフレーム、ワークステーションの大きなネットワークとなった世界の奥深くで現実に進行していることとは反りが合わなかった。静かに革命が始まり、LinuxをはじめとするオープンソースコードOSが生み出された。

Linuxは当時あまり持っている人がいなかったコンピュータ技能を必要としたため、マイクロソフトは最初はLinuxを脅威とはみなしていなかった。その後Linuxが成長の余地を示すと、マイクロソフトはオープンソースは本質的にそれが組み込まれるシステムにとってセキュリティ上の危険因子だと公言した。(マイクロソフトは後にLinuxユーザー集団がマイクロソフト自身のアーキテクチャにおけるセキュリティ・ホールを公表すると、先の公言を後悔することとなった。)

マイクロソフトのエゴに対する最新の打撃は、米国連邦政府がLinuxを受け入れたこと、特に国家安全保障局(NSA)が最も重要なコンピュータ・システムにLinuxベースのシステムを採用することを宣言したことである。

⇒ 米国の電子政府分野におけるLinuxの採用は、クローズドソースOSへの依存による調達コスト増やセキュリティへの懸念に基づくものであり、欧州などに見られる特定ベンダーへの依存を回避したいという意図的なものとは意味合いが異なる。しかし、IBMHPなどがこぞってLinuxのサポートを強化する中で、もはやLinuxが一つの大きな潮流になりつつあるのは明らかである。

おわりに 〜 2003年の展望

今年は残念ながら「COMDEX Fall 2002」に行くことが出来なかったが、新聞、雑誌、インターネットなどの各種報道等を総合すると、昨年にも増して寂しいものだったようだ。入場者数は事前の主催者見込みで125,000人とされていたが、実際に行った人の印象によるともっと少なかったのではないかとのことであり、ビル・ゲイツ氏の講演も空席が目立ったという。

こうした中で、ITを取り巻く2003年の展望は総体的には当然厳しいものにならざるを得ない。しかし、上記の10大トピックスからも感じられるように、WiFiP2PLinuxなどの新しい世界は着実に広がってきている。また、COMDEXの不調は、マイクロソフトが主導して大きな発展を遂げたPCという商品が成熟した徴であるとの見方もできるであろうし、さらに、同社が反トラスト法訴訟をほぼ乗り切ってその地位を安泰にしたかに見える一方で電子政府市場でLinuxが好まれ始めているという現象は、いわば潮目が変わりつつあるということかとも思える。

ITと言えば、良くも悪くもアップダウンの激しいニュースに目を奪われがちだったここ数年であるが、2003年は、緩やかに、しかし着実に進展する変化にもしっかりと目を向けていきたい。

(了)

(参照URL

http://www.nielsen-netratings.com/pr/pr_020422_eratings.pdf(図表1関連)

http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/dn/Nation_Online.pdf(図表23関連)

http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/0203fukyuritsu.xls(図表3関連)

http://www.cabledatacomnews.com/dec02/dec02-1.html(図表45関連)

http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/021031_7.html(図表45関連)

http://www.wow-com.com/pdf/june2002release.pdf(図表6関連)

http://www.census.gov/mrts/www/current.html(図表7関連)

http://www.bea.gov/bea/dn/nipaweb/index.asp(図表8関連)

http://www.census.gov/indicator/www/m3/hist/naicshist.htm(図表10関連)

http://www3.gartner.com/5_about/press_releases/2002_10/pr20021018a.jsp(図表11関連)

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