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2003年1月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田
良平 「2002年の回顧と2003年の展望」 |
(3) IT市場の回復 主要なIT市場調査会社やIT企業自身によると、IT市場(またはいわゆるニュー・エコノミー)は回復途上にあるという。確かにITエコノミーのいくつかの分野(最も顕著なのは世界のサーバー市場)の指標には再生の兆候を示し始めているものがあるが、ニュー・エコノミーのピーク時の支出や投資の水準まで回復することを表すほどのものではない。 ⇒ IT市場が引き続き厳しい状況にあることは2.で触れたとおりである。「ニュー・エコノミー」という言葉も今やすっかり影をひそめてしまった。 (4) WiFi ニュー・エコノミーのピーク時には、インターネット・ユーザーは将来どこでもいつでもモバイル・インターネットを使えるようになると期待された。それは少なくとも期待されたようには実現しなかった。通信分野における投資(過剰投資と言う人もいるだろう)及び結局は通信企業自身が変調を来たし始めて失敗に終わったので、ワイヤレス・インターネットは一応始まったがお粗末なものである。 また、その始まりの規模は、生物学的進化と同様、小さいものである。最初は、小規模の技術愛好家たちが手近な部品と自宅のケーブル・インターネット(場合によってはDSL)を使って家庭内ワイヤレス・ネットワークを構築するところから始まった。ニューヨーク、ロサンゼルス、シアトルといった都市におけるこうした動きによって、通常では望ましくない近接した建物が、これらの都市の非常に重要な地区全体をカバーする安全ではないが近接したWiFiネットワークを構築する効果を持つことがわかった。 この状況はケーブルやDSLのサービス・プロバイダ(ISP)の知るところとなり、最も有名なAOLタイムワーナーは、同社の言うところによる契約者適正利用規則違反を発見すると直ちに、インターネット接続を基本的に無料ワイヤレス・ネットワークを提供するために利用している者に対して、そうした利用をやめなければインターネット接続を停止し可能な法的措置をとると通告した。この一件は、家庭内ブロードバンドWiFiネットワークの利用に大きく水を注すこととなった一方で、WiFiに対する世間の関心を一層高めることとなった。 ⇒ WiFiについては2002年8月の本駐在員報告で触れたところであるが、IT関連分野にあって数少ないホット・イシューの一つである。去る12月5日には、AT&T、インテル、IBM等の出資により全米規模でWiFiネットワークを構築しホットスポット事業者や企業内利用向けに卸売りを行うCometa Networks社(http://www.cometanetworks.com/)が設立された。WiFiネットワークの収益モデルは今ひとつ見えないのであるが、Cometaはとりあえずインフラ整備で主導権を握っておいてブレークを期待しようということなのであろうか。いずれにしても、2003年も引き続き要注目である。 (5) 真のP2P 米国レコード産業協会(RIAA)がNapsterを抹殺したことによって、業界がNapsterとその何百万というユーザーが普及させた半P2Pシェアリングから被ってきた頭痛と減収から解放されるはずだった。しかし不運にも、それは最も有名なKazaa、BearShare、Madsterなど、何百万ものユーザーが音楽のみならず動画やソフトウェアも共有する数多くの真のP2Pネットワークを生み出してしまった。 中心となるサーバーを用いていたためどのファイルが共有されたか追跡・記録が容易だったNapsterとは違ってますます頭の痛いことに、今や完全なP2Pネットワークは誰が何を共有したかという痕跡を残さない。 これまでのところRIAAの対応は、冷たく迎えられた有料音楽サービス(既に失敗に終わったものもあるし、利益が出ているものは一つも無い)と、大手ISPに1998年デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)を著しく侵害した契約者の氏名を公表させたこと(多くの人がプライバシーの著しい侵害であるばかりでなく、不法な捜査・検挙からの保護を謳った憲法の著しい侵害であると考えている)だけである。 ⇒ P2Pは、米国におけるブロードバンドを支えるキラー・アプリケーションであると言っても良いであろう。こうした変化はいわば不可逆変化であり、無料ファイル交換の味を占めた人が有料音楽サービスにお金を払うとは思えない。 (6) セキュリティ DARPAの計画が今日我々の知るインターネットへと進化して以来、セキュリティは常に存在する問題である。9月11日に我々はセキュリティの重要性を思い出させられた。 セキュリティ(主にスマートカードの形での建物への物理的アクセスや他の本人確認技術)への支出が急増した。しかし、この増加分はネットワークやコンピュータのセキュリティを犠牲にすることによって賄われており、Infosecure 2002 (12/10/02〜12/1202、ニューヨーク)に参加したネットワーク・セキュリティ管理者の大多数によると、それへの支出は減少しており現在のネットワーク・インフラに対する障害となっているという。 ⇒ サイバー・セキュリティの重要性が叫ばれる一方で、企業にとってそれがコストである状況は変わっておらず、ブッシュ政権はサイバー・テロリズムの脅威を訴えているが、それを誇張だとする声も根強い。2002年9月に大統領重要インフラ保護会議は「National Strategy to Secure Cyberspace」と題するサイバー・セキュリティ国家戦略のドラフトを発表したが、連邦政府自身のR&D等への取組みの他は、州・地方政府や大学、民間企業に自発的協力を求める内容で、しかも「ドラフトの発表」という形態になってしまった。「安全」とは、結局は「何も起きなくて当然、何か起きたら他の誰かの責任」という宿命を負ったテーマであるという構図は、テロ事件を経ても本質的には変わっていないということであろうか。 (7) Tablet PC マイクロソフトや他のPC関連業界が低迷する企業収益や株価を押し上げるべく強力なニッチ市場の創造を期待する中で、待望のTablet PCが2002年11月7日に盛大な宣伝と興奮とともに発売された。 現時点でのTablet PCメーカーはエイサー、NEC、富士通、東芝であり、今後パナソニックとサムソンが加わる予定である。ソニーは、Tablet PCを製造しておらずまた当面その計画も持っていない唯一のメーカーである。 Tablet PCで注目すべきなのは、マーケッティングが成功すれば、ビジネスや教育の世界においてノートブック支配を終わらせる可能性があるという点である。 ⇒ 皆さんはTablet PCをどう思われますか。 (8) ブロードバンド 破産や業界再編といった問題に見舞われながらも、米国の家庭におけるブロードバンド接続は、特にITエコノミーの多分野との比較において穏やかな成功以上と思われる十分着実な伸び率で増加を続けている。 Cable Datacom Newsを出版するKinetic Strategies Inc.によると、「米国及びカナダにおける家庭向けのケーブル・モデムとDSLの契約者数は第3四半期末で1,800万人を超えたと見込まれ、現在の設置速度からすると、2002年末には業界にとって重要なマイルストーンである2,000万人に達するだろう。」(Cable Datacom News、12/1/02) ケーブルとDSLは依然として市場シェアを争っており(現時点ではケーブルがかなり差をつけている)、ニュー・エコノミーの消費者ベースでのゆるやかな復活が期待されている。 ⇒ ブロードバンドの契約者数の動向については1.で触れたとおりである。768kbps/128kbpsのDSLに月50ドルも払わされている私としては、日本のDSLユーザーの皆さんがうらやましい限りであるが、日本のDSL事業者の皆さんからすると、米国の状況がうらやましいということになるのであろうか。 |
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