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2003年2月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田
良平 「米国におけるLinuxを巡る動向」 |
はじめに 今月は、米国におけるLinuxを巡る動向について取り上げてみたい。 Linuxは、ご存知のように1990年代に専門家の間でブームとなったものの、専門知識が無ければ扱えなかったことから裾野が広がらず、アプリケーションの絶対的な不足などが大きな課題となっていた。しかし、1999年にIBMがLinuxの本格的サポートを表明し、また手軽にLinuxを扱える各種ツールなども充実してきたことから、サーバーを中心にLinuxがかなり普及してきている。また、最近では欧州や南米、中国などで電子政府でLinuxをはじめとするオープンソースの調達を優先する動きがあり、米国ではこうした動きはごく一部ではあるものの、今後の動向が注目される。 こうした中で、去る1月21日から24日にかけて、ニューヨークで恒例のイベント「Linux World Conference & Expo」が開催された。本稿では、このいわゆるLinux World New York 2003の報告なども交えながら、Linuxを巡る動向について概観する。 1. Linuxの概要 (1) Linuxとは Linuxについては今さら御説明する必要もないとは思うのだが、一応、今回の原稿を書くにあたり参考にした文献などから、簡単にその概要を整理しておく。 Linux(リナックス)は、日本のLinux情報に関するウェブサイトwww.linux.or.jpによると、「自由に再配布することのできる独立したUNIX系OS」である。本来はLinuxはOSの中核となるカーネル(メモリー管理機能、ネットワーク機能、仮想ファイルシステムなど)だけを指す名称であるが、Linuxカーネル・ベースのシステム全体を指してLinuxと表現することもある。(本稿では専らシステム全体の意で用いる。) Linuxはフィンランドの大学生だったLinus Torvalds氏によって作成され、1991年に初版が公開された。その後、インターネットを通じ開発コミュニティによってその改良が行われるとともに、Linux環境下で利用できる様々なソフトウェアが開発されてきているが、Linuxカーネルの管理自体は現在でもLinus Torvalds氏が行っている。 LinuxはUNIX互換OSとしての種々の技術的特徴を有しているが、それらを別としてその最大の特徴といえば、「オープンソース」であるということであろう。 オープンソース・ソフトウェアとは、ごく簡単に言えば、ソフトウェアのソースコード(人間が理解できるプログラム言語で書かれたプログラム)が入手できる、ソフトウェアの使用、複製、修正、再配布が自由である、等の条件を満たすライセンスによって配布されるソフトウェアである。(オープンソース・ソフトウェアの定義はOpen Source Initiativeのウェブサイトwww.opensource.org参照) なお、オープンソース・ソフトウェアはフリー・ソフトウェアとほぼ同義で使われることも多い。(フリー・ソフトウェアの定義はGNUのウェブサイトwww.gnu.org参照) しかし、フリー・ソフトウェアは本来反商業的な運動であり、例えばその代表的なライセンスであるGNU General Public License(GPL)はソフトウェアの修正・再配布にあたってもGPLの適用を義務付けているため他の独占的(proprietary)な商用ソフトウェアなどとの結合が難しい面があるのに対して、オープンソースはソフトウェアを修正・再配布する際に独自のライセンスを適用することを許容するようなものも含めた概念である。(なお、Linux OS自体はGPLによって配布されている。) Linuxの複製・再配布が自由だとすると、どうやって商売が成り立つのかということになるのだが、GPLはソフトウェアの配布を有料で行うことを制限するものではなく(入手した者が複製・再配布等を行う自由を保障しているだけ)、Red Hat、TurbolinuxといったLinux製品のディストリビューターは、安価なソフトウェア・パッケージの販売の他、システム構築・メンテナンスのコンサルティングやサポート、エンジニアのトレーニングなどで収益を上げているのが現状である。 Linux市場の動向については、調査会社などが数字を公表しているので、以下にいくつか掲載しておく。 ○ IDCによると、2001年のサーバー用OS市場における出荷本数で見たLinuxのシェアは25.7%であり、Windowsは49%、UNIXは11.6%だったという。 ○ IDCによると、2001年時点におけるクライアントとサーバーを合わせたOSの導入本数は、Linuxが21億8,600万本、Windowsが70億2,500万本、UNIXが26億7,700万本であり、2006年にはそれぞれ65億9,400万本(+24.7%/年)、142億7,500万本(+15.2%/年)、20億7,300万本(−5%/年)になる見込みだという。 ○ IDCによると、2002年第3四半期のWindowsサーバーの売上高が対前年同期比3.2%増だった一方、Linux サーバーの売上高は26.7%増を記録したという。サーバー市場全体が5.6%減となる中でのこれらの伸びは、UNIXサーバーの10%減という減少によって賄われている。(http://www.idc.com/getdoc.jhtml?containerId=pr2002_11_26_181630) ○ Linuxはサーバー市場では15〜20%のシェアを得ているという見積りもあるが、IDCによると、2001年におけるデスクトップ市場でのLinuxのシェアは2%(マイクロソフトは93%)に過ぎず、2006年までにこれが5%程度まで増加する見込みだという。(http://www.newsfactor.com/perl/story/20039.html) ○ IDCによると、Linux動作環境への支出は2001年の8,000万ドルから2006年には2億8,000万ドルに増加することが見込まれるという。 こうした数字を見るにあたって難しいのは、Linuxがオープンソースであり安価かつ複製自由であることから、金額や本数などどれをとっても本当に実態を反映しているのかどうかがわからないという点であろう。ただ、トレンドとしては、Linuxはサーバー市場において主にUNIXのシェアを食ってそれなりの地位を築いてきている一方で、デスクトップ市場ではまだまだWindowsの牙城を脅かすには至っていないということが言えるであろう。
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