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2003年2月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田
良平 「米国におけるLinuxを巡る動向」 |
(3) 具体的事例 では、Linuxは具体的にどのような形で導入されているのであろうか。 IBM、HPなどLinuxをサポートする大手システム・ベンダーやRed Hat、Turbolinuxなどのディストリビューターは、Linuxが既に顧客の信頼を得るに足る段階に達していることを示すため、導入事例の宣伝に躍起になっており、後述のLinux World New York 2003におけるIBMのキーノート・スピーチでも様々な事例を紹介していたほか、各社のLinuxウェブサイトでも数多くの導入事例をCase Studyとして紹介している。(例えば、IBM、HP、Red Hat、TurbolinuxのURLはそれぞれ以下の通り。) http://www-3.ibm.com/software/success/cssdb.nsf/topstoriesFM?OpenForm&Site=linuxatibm http://h30046.www3.hp.com/search.php?topiccode=linuxcasestudy http://www.redhat.com/casestudies/ http://www.turbolinux.com/customers/ これらを見ると、Linuxはまだ企業内の一部サーバーに導入されるに留まっている感は否めないものの、徐々にではあるがミッション・クリティカルと言われる基幹系業務システムにも導入されてきていることが窺える。 また、各種報道でもLinuxの導入事例は数多く紹介されている。以下に、最近報道された政府機関における事例をいくつかピックアップしておく。(これらの情報はJETROサンフランシスコから提供していただいた。)
最新のスパコンTop 500リストの10位以内に、米国政府の2台のLinuxクラスタ機がランクインした。 5位のLLNLのマシンはLinux Network社製で、2.4GHzのインテルPentium Xeonプロセッサを2,304個使用しており、性能は理論値で11TFLOPS、ベンチマーク値で5.69TFLOPS。 また、NOAAのマシンはHigh
Performance Technologies社製で、2.2GHzのXeonチップを1,536個使用して折り、性能はベンチマーク値で3.3TFLOPS。 IBMは11月19日、LLNLに2台のスパコンを納入する2億9,000万ドルの契約を米国政府と締結した。 うち1台は、Linuxを搭載するBlue
Gene/Lで、65,536のノードを接続し、現在世界最速のNEC製「地球シミュレータ」の10倍の360TFLOPSでの稼動を目指す。
ユタ州St.
George警察では、呼吸が止まった幼児の家に救急車を向かわせる際に緊急連絡システムがフリーズした一件があってからすぐ、6台の緊急連絡用コンピュータをWindows95からRed
Hat Linuxへ変えた。1998年11月以来、St.
Georgeと周辺のWashington郡では911(緊急連絡)システムにLinuxを使っており、最近では刑務所や刑事部でもLinuxを使い始めた。 FAAは、パイロットの緊急避難情報をインターネットで提供するシステムを、ウェブ・サーバーにRed HatのApache
Stronghold Enterpriseを用いて構築した。 NASAのAmes
Research Centerの研究者は、ワイヤレスLAN(802.11b)のセキュリティ・システムを、Open BSDを走らせた普通のPC、3つのオープンソース・ソフトウェア及び少しの自作コードによって作り上げた。 ロードアイランド州では、「規則と法規」ポータルサイトをRed
Hat Linux上で走るApacheウェブ・サーバー・ソフトで運用している。このポータルサイトは6か月で開発され、コストは3,000ドルだった。 (4) Linuxを巡る論争 〜 知的財産、コスト、セキュリティ、信頼性、拡張性、そして政府調達 ここで、最近のLinuxを巡る論争について簡単に触れておこう。 Linuxを巡っては、様々な観点からその長所・短所についての議論がある。特に、マイクロソフトがLinuxに危機感を抱き、2年ほど前から「Linuxは知的財産の観点から言うと癌のようなもの」「GPLはパックマン」などと攻撃を始めてから、Linuxを巡る論争が注目されるようになった。また、コスト、セキュリティ、信頼性、拡張性などの「まっとうな」観点からも論争が起こっている。さらに、欧州や中国のように特定ベンダーへの依存を回避したいという意図的なものとは意味合いが少し異なるものの、米国でも電子政府分野においてLinuxの導入が少しずつ始まっており、政府調達におけるLinuxの是非についても論争が起こっている。 知的財産の問題については、知的財産(と市場独占状態)によって4〜5割、クライアント系ソフト(Windows XPなど)だけだと8〜9割という驚異的な営業利益率を享受しているマイクロソフトと、そもそも独占的(proprietary)なソフトウェアは認めないという思想から出来たGPLを基本とするフリー・ソフトウェア陣営とでは議論が噛み合うはずがない。 ただし、GPLといえども、クライアントが承認しなければ公開しないという条件下でディベロッパがフリー・ソフトウェアを改変してクライアント向けに新しいソフトウェアを開発することは妨げていない。つまり、ここで言う知的財産の問題とは、システムの導入側の問題ではなく、あくまでソフトウェア産業を巡る産業論、技術革新論としての問題である。 また、TCO(Total Cost of Ownership)が話題となっているコスト論争について付言しておくと、後で触れるように、Linux World New York 2003の「連邦政府から見たオープンソース」に関するセッションでは、政府関係者の間でも、政府調達においてはLinuxを選ぶ理由として(一般論として)低コストであることが指摘されている一方で、「政府調達予算は市場の力ではなく政策と認可によって決まるのでコストは問題ではない」といった意見も出ている。ますます混迷を深めているという感があるが、結局はこの論争は「TCOの優劣はケース・バイ・ケースで異なる」という結論に落ち着くのであろうか。 その他のLinuxを巡る論争について、ここで逐一取り上げることは控えるが、マイクロソフト陣営とLinux陣営が入り乱れて様々なレポートが発表されている。最近発表されたレポートで目に付いたものを以下に2つだけピックアップしておく。 Bloor Research North
Americaは、3年前に「Linuxは大規模業務用アプリケーションのサポートという点で“not ready”である」とするレポートを公表。今回はそのフォローアップとして、Linuxの拡張性、入手可能性、信頼性、セキュリティ、管理性、柔軟性について評価し、「今や業務用にも“ready”だ」と結論付けている。(このレポートは、先日のLinux
World New York 2003でもIBMが宣伝していた。) The MITRE Corporationは、DODにおけるフリー/オープンソース・ソフトウェア(FOSS)の利用実態を調査し、115のアプリケーションを利用する251の事例をとりまとめた。報告書は、FOSSはDODにおいて、特にインフラ・サポート、ソフトウェア開発、セキュリティ、研究の4分野で重要な役割を果たしていると結論付けている。 |
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