2003年2月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるLinuxを巡る動向」


2. Linux World New York 2003

2003121日から24日にかけて、ニューヨーク市マンハッタンのJacob Javitsコンベンション・センターで「Linux World Conference & Expo」が開催された。このイベントは、冬にニューヨークで、夏にサンフランシスコで開催されているものであり、ニューヨークでの開催は4回目。ニューヨーク版の方が場所柄マーケティング色が強いと言われる。

150社が出展する展示会場やAMDIBMといった主要企業幹部によるキーノート・スピーチなどを私も実際に覗いてみた他、最近日本でも注目されている政府関連部門へのLinuxの導入に関しても「政府/国防におけるLinux」というトラックが設定されいくつかのセッションが行われたので、これにはアシスタントのMatthew Vetrini君に張り付いてもらった。以下に、その概要について簡単にご紹介しておきたい。

(1) 全体概要

今回のいわゆるLinux World New York 2003は、主催者であるIDGIDCの親会社)によると、出展企業は150社、来場者数は17,000人程度の見込みとのこと。私は始めての参加なので以前との比較ができないのであるが、聞いてみると、やはり不況の影響もあって来場者は(テロ事件の影響を受けた昨年はともかく)一昨年に比べ減っているのではないかという声が聞かれた。ただし、展示会場の規模を縮小し適正規模にしたこともあってか、実際には通路の混み方などもそこそこで、最近の他のガラガラのIT関連イベントに比べると活気が感じられた。(図表1

図表1 Linux World Conference & Expo展示会場

特にLinuxらしいのが、展示会場の一角にある「.ORG Pavilion」で、Linuxコミュニティの様々なNPOがまさに手作りの出展を行っており、既成イベントには無い熱気を放っていた。(図表2

嬉しいことに、この「.ORG Pavilion」には日本からも日本Linux協会(http://jla.linux.or.jp/)の名前でブースが設けられいくつかの手作りソフトウェアが出展されており、来場者が足を止めて熱心に質問する姿が見られた。(同ブースを率いる潟Oッデイ代表取締役の前田青也氏によると、「出展ソフトの質では他のブースと比べてもハイレベル」だとのこと。)(図表3

図表2 「.ORG Pavilion



図表3 「日本Linux協会」ブースと潟Oッデイの前田青也氏

 
キーノート・スピーチは、AMDHector Ruiz社長兼CEOIBMSteven Mills上級副社長兼Group Executiveの両氏によるものを聞くことができた。

AMDRuiz氏のスピーチは、もちろん同社のLinux対応64ビット・プロセッサのPRを含んでいたが、全体としてのメッセージを一言で言えば「AMDLinuxコミュニティの皆様とともに歩んでいきます」とでもいうもの。もちろん、その背景には、マイクロソフトとの交渉やインテルとの競争にあたってLinuxをカードとして使いたいという思惑があるのであろうが、こうした「コミュニティ」なるものに最大限配慮したメッセージを半導体大手AMDの社長が発すること自体が私にとっては新鮮であった。

そのスピーチのタイトル「Playing Well With Others」が示すとおり、Linuxワールドでは他者とWin-Winの関係を築きうまくやっていくことが必要であり、「一人勝ち」は許されない。スピーチの中でRuiz氏は「健全な競争感覚が真のイノベーションにつながる」と述べ、またコミュニティ関係者も交えたディスカッションの中では「Linuxワールドでは誰もイノベーションを支配していない」旨の発言があったが、これらはLinuxの本質を表している一方で、市場を支配する某社に対する強烈な皮肉であるとも受け取れる。

一方、IBMMills氏のスピーチは、これまた強烈に同社のLinux事業を実例入りでPRするものであったが、メッセージを一言で言えば「Linuxへの流れは定着した」というもの。Linuxの弱点とされていたミッション・クリティカル系(高い信頼性を要する基幹系システム)にもLinuxの導入が進んでいること、巨大な潜在市場である中国で郵便局ネットワークにLinuxが採用されたことなどを紹介し、IBM5,000人のLinux要員を抱え強力にLinuxをサポートしていることを改めて表明した。(図表4

図表4 IBMMills氏のキーノート・スピーチ

なお、Linuxコミュニティ関係者に言わせると、今回のLinux World New York 2003は(場所柄や時節柄もあって)IBMをはじめとする大企業色が強まっており、Linux本来の手作り的世界とは異なる面も目立ったとのこと。確かに、IBMHPが大量に顧客を招待しており、展示会場やキーノート・スピーチ会場にスーツ・ネクタイ姿のビジネスマンが見受けられる(かく言う私もスーツ・ネクタイ姿だったのだが)さまは、とても「Linux的」とは言えないかもしれない。

こうした状況は、まさにLinuxITバブル崩壊を経て継続的ビジネスとしての在り方を模索するというという新しい段階を迎えつつあることの表れであるとも考えられよう。

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