2003年2月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるLinuxを巡る動向」


(2) Linux in Government/Defense

今回のLinux World New York 2003では、「Linuxの管理」、「ビジネス/新技術」、「セキュリティ」など7トラックのテーマ別セッションが開催された。このうち「政府/国防におけるLinux」というトラックに、アシスタントのMatthew Vetrini君に張り付いてもらった。彼からの報告をベースに、このトラックで行われたセミナーのうち「連邦政府から見たオープンソース」及び「米国民のために稼動するLinux: 郡政府の事例」という2つのセッションの概要について紹介する。

【連邦政府から見たオープンソース】

Andy Roosen氏(NIST

Roosen氏はそのプレゼンテーションを、「政府はビジネスではない」という単純で明白な事実を指摘することから始めた。そして、政府がオープンソースを採用する理由について、以下のように述べた。

@ 歴史(History):
 政府の仕事は未来の国民や歴史家も含め“すべての人”のためのものである。政府は永久に記録を残す義務を負っており、それらは読めるものでなければならない。オープンな文書化された書式というのがその答である。そして、ソースコードも重要な記録文書である。

A 説明可能性(Accountability):
 政府はどのような行動がとられどのようにして決定が行われるかを国民に知らせる義務を負っている。標準が重要な理由は“歴史”と同様である。そして、ソフトウェア自体が既知であって初めてそのソフトウェアによって定義されたプロセスが既知であり得るのである。

B 安全性(Security):
 “安全性”には、明確な秘密情報とありきたりの情報の双方を含む。政府はより一層攻撃目標になりそうであり、また攻撃者はより専門的になりそうである。そこで、ソースコードへのアクセスがセキュリティ・ホールの発見と修復の観点から重要である。

C サービス(Service):
 “サービス”は、政府のレゾン・デートル(存在理由)である。FOSSFree and Open Source Software)の使用によってすべての人が政府の投資から利益を得ることができる。また、標準書式の使用によってすべての人が政府の情報にアクセスできる。

D コスト(Cost)?そうではない:
 なぜコストが問題ではないのか。予算は市場の力によってではなく政策及び認可によって作られる。「使いなさい、さもなくば失うでしょう」という予算慣行もある。TCOTotal Cost of Ownership)は定量化するのが難しく、「知らないよりは知っていた方がまし」というだけである。

さらにRoosen氏はソフトウェア製造業者について、本来なら何年も前に倒産していたであろう多くの企業が政府に依存することによって生き延びているが、政府はこうした進化し損なった企業のための福祉機関であってはならないと指摘した。

Lisa Wolfisch氏及びRachael Laporte-Taylor氏(US Census Bureau

Wolfisch氏及びLaporte-Taylor氏は、今や多くの重要プロジェクトでオープンソースが使われていることを指摘し、その理由として次のような諸点を挙げた。

@ 低コスト

A 調達が遅れない

B プロトタイプへの投資が小さく方針転換が容易

C 政府の雑多なコンピュータ環境での可搬性

D アプリケーション開発の速さ

E コンポーネントの交換が可能

F 一貫性および信頼性

G 専門家からの支援が得られアプリケーションのソースコードの作者と相談できる

こうした理由から、Census Bureauは以下のオープンソース・プロジェクトを実施した。

@ Quickfactswww.quickfacts.gov:
 Quickfactsは予算の無いプロジェクトであり、オープンソースだから開発できた。また、企画から公開まで6か月しかかからなかった。

A Fedstatswww.fedstats.gov:
 FedstatsCensus Bureauの最初の電子政府プロジェクトであり、100以上の機関が関与した。このプロジェクトのコストは独占的な(proprietary)検索ソフトウェアの初期コスト15万ドルと毎年の維持およびライセンス料34.5万ドルだけである。

B Mapstatswww.mapstats.gov:
 オープンソースの利用によって、ユーザーが広範なデータ・ソースにまたがる奥深い検索を行うことが可能になった。オープンソースはまた、データの速やかな移転やSection 508への適合を可能とする。

このように早期にオープンソースが採用されたのは、Census Bureauがオープンソースを標準とすることを決定したからだという。

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