2003年2月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるLinuxを巡る動向」


【米国民のために稼動するLinux: 郡政府の事例】

David Gallaher氏及びSteve O’Brien氏(コロラド州Jefferson郡)

コロラド州Jefferson郡は、革新的プログラムによって旧式のシステムの統合を行っているが、その最も重要な側面は、安定性、安全性及びコスト効率を実現するためLinuxプラットフォームへの移行を決めたことである。同郡は以下のような取り組みを行った。

@ 独占的な(proprietary)ソフトウェア・ベンダーに対し同郡とのビジネスを継続するためにLinuxでアプリケーションを作成するよう「圧力」をかけた。これによって同郡はベンダーとの契約に縛られなくても済むようになった。

A 同郡の情報開発部(IDD)が開発したアプリケーションは他の郡・市政府にも販売され、同郡は収入を得た。

B 同郡のIDDは地域のハイスクールとの先進的な協力プログラムを通じて、生徒にオープンソースのアプリケーションとハードウェアの構築のためのトレーニングを提供した。このプログラムによって参加者が貴重な技術的経験を得たばかりでなく、同郡の600のワークステーション構築費が5.47.2万ドル節約できた。さらに、このプログラムによって同郡のサーバーのコストは市販のものよりもはるかに安い3,400ドルで済み、このサーバーも販売され同郡の収入となった。

おわりに

Linuxは、一つの転機を迎えているという見方がある。つまり、1990年代の専門家の間でのブームを経てある程度の普及が進んだ一方で、ITバブル崩壊によってLinux業界も「利益」に一層敏感にならざるを得なくなり、経営面で苦しんでいる企業も多い。こうした中で、大手システム・ベンダーによる市場牽引、場合によって政治的な意図も含んだ政府調達政策の台頭、といった「Linux的ではない」動きが出てきており、Linux関係者がどのように対応していくかが問われている、という見方である。

Linuxの成長は、面白おかしくマイクロソフトとの対立構造として語られることがあるが、まだまだLinuxには課題も多く、すぐにWindowsを代替してしまうようなことにはなりそうもない。ただ、とりあえず主にUNIXの市場を奪う形でLinuxの成長は続きそうだ。そして、複数の陣営に分裂してしまったUNIXの二の舞にならず、様々な課題を乗り越えてLinuxが顧客から見て本当に信頼できるものになった暁には、他の独占的(proprietary)なソフトウェアを市場の片隅に追いやってしまうことに本当になるのかもしれない。

Linuxを巡る議論の中でどうしても気になるのが、知的財産の問題である。フリー・ソフトウェア陣営の掲げる「ソフトウェアは“自由”であるべき」という理想は、理想としては美しいと思うのだが、現実問題として商業活動が成り立たなくてはソフトウェアの発展も阻害されてしまう。しかし一方で、これだけコンピュータが普及し、また今後もユビキタス社会を迎え我々の生活が一層コンピュータに依存するようになる中で、少なくともOSのような基本的なソフトウェアは「公共財」であるべきではないかという考え方にも頷ける面がある。

知的財産保護の目的は技術革新を促進することだとすれば、ソフトウェアを巡る知的財産保護(+独占禁止)の現状が技術革新を促進する方向にうまく機能しているかについては議論のあるところであろう。Linuxがマイクロソフトの市場独占状態の中で生まれた「あだ花」で終わらず、持続的な成長を続けていけるかどうかの鍵は、このあたりが握っているように思える。

もう一つ、Linuxの動向を見ていて感じるのは、Linuxのキーワードは「コミュニティ」だということである。この「コミュニティ」なるものは、インターネットによって可能となった、自ら主体的に発信し貢献することによって誰でも、また逆にそうすることによってのみ、参加できる世界である。Linuxの根幹を支えているのは、世界中のプログラマー達がほとんどボランティアで参加することによって成り立っているコミュニティである。

そこで問題になるのが、日本がどの程度このコミュニティに貢献しているのかということである。Linuxが本当に公共財として成長していくのであれば、その公共財への貢献は、長い目で見ると必ず重要な意味を持つことになるであろう。組織の論理とこうした個人単位で成り立つ世界とはなかなかなじまないのではあるが、コミュニティへの貢献は「基礎研究」と一緒だとでもする発想が必要ではなかろうか。

(了)

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