2003年5月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国における電子政府関連政策の動向(その1)


(2) ブッシュ政権の電子政府戦略と推進体制

   さて、米国の電子政府はこうしてブッシュ政権下で行政改革上の課題としての性格を強めたわけであるが、その具体的戦略は、2001年6月14日にOMB(大統領府行政管理予算局)の実質的連邦CIOポストに任命されたMark Forman氏の指揮の下、上記「大統領マネジメント・アジェンダ」に記述されているように各政府機関の代表者によるタスクフォースを活用して策定されることとなった。(タスクフォースの人選に当たり、OMB長官は各政府機関の長に向けたメモランダムの中で、各機関の長に直接報告する立場にある上級職員の指名を求めている。)
   このタスクフォース(「クイックシルバー(水銀のように急激に変化するの意)・タスクフォース」と呼ばれた)の活動結果に関するMark Forman氏からOMB長官への2002年2月27日付け報告として取りまとめられたのが、ブッシュ政権における「電子政府戦略(E-Government Strategy)」である。

   この2002年2月27日付け「電子政府戦略」では、大統領マネジメント・アジェンダを踏まえ、24の省庁横断型の電子政府イニシアティブを選定した経緯や考え方が整理されるとともに、24イニシアティブの大まかな実施計画や推進体制が示されている。

   ここでは、まず24イニシアティブの選定過程について触れておきたい。クイックシルバー・タスクフォースは、71回に及ぶ150人以上の上級政府職員のインタビューを行うとともに、電子メールを活用して連邦政府職員から200近いプロジェクトのアイデアを集めた。こうして集められた350以上のアイデアをもとに、「国民にとっての価値」、「政府機関の効率改善の可能性」、「18〜24か月での導入の可能性」という指標に基づいて、30の電子政府イニシアティブ候補が形成された。さらに、これら30候補についてビジネス・ケースを作成して利益、コスト及びリスクの見積りを行い、最終的に対個人(G2C: Government to Citizens)、対企業(G2B: Government to Business)、政府機関間(G2G: Government to Government)、内部プロセス(IEE: Internal Efficiency and Effectiveness)の4区分などで合計23の電子政府イニシアティブが選定されたのである。(その後1つ追加されて24イニシアティブになった。)
   こうして選定された電子政府イニシアティブは、ブッシュ政権における行政改革の推進のために設置された「大統領マネジメント協議会(The President's Management Council)」(各政府機関のCOO(Chief Operating Officer;次官級を任命)などで構成)の承認を得るという形式をとっており、ここからもブッシュ政権における電子政府が行政改革のための手法として位置づけられていることがわかる。

   この選定過程で興味深いのは、クイックシルバー・タスクフォースが電子政府イニシアティブの検討・選定をするにあたり、連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャ(組織が人、業務プロセス、データ、技術によってどのように機能しているかを示すもの)の手法を活用していることである。クイックシルバー・タスクフォースが描いた連邦政府全体の統合ビジネス・アーキテクチャ(政策・業務体系)を図表2に示す。

   図表2では、政府の業務体系(Lines of Business)が、災害準備や経済発展などの政策策定(Policy Making)、補助金/融資や研究開発などの計画管理(Program Admin)、消費者安全や環境管理などの法令遵守(Compliance)、人事や会計などの内部運営/インフラ(Internal Operations / Infrastructure)に分類されるとともに、これら業務における基本的プロセス/バリューチェーン(Underlying Processes / Value Chains)と国民との接点(Access Channels)が示されている。

   クイックシルバー・タスクフォースは、このビジネス・アーキテクチャの構築を通じて、政府の業務に多大な重複と無駄がある(30の業務体系のそれぞれにつき平均19の政府機関がこれを行っており、また各政府機関は平均17の業務体系を行っている)ことを明らかにし、連邦政府エンタープライズ・アーキテクチャの現状は「アーキテクチャの体を成していない」と断じている。(政府の縦割りは万国共通ということであろうか。)

図表2 連邦政府全体の統合ビジネス・アーキテクチャ

             (出展: 2002年2月27日付け「電子政府戦略」)

   クイックシルバー・タスクフォースはまた、電子政府イニシアティブの実行にあたっての主要な障害とそれを克服するための取組みを整理し(図表3)、これを大統領マネジメント協議会に諮って支持を取り付けている。

図表3 電子政府の障害を克服するための取組み

障害 取組み
政府機関の文化
  • 上層部の指導力と関与を維持
  • 政府機関間にまたがる管理構造を構築
  • 省庁横断型の作業を優先
  • 政府機関間にまたがる利用者/関係者グループを関与させ
連邦アーキテクチャの欠如
  • OMBが政府全体のビジネス及びデータ・アーキテクチャの合理化を主導
  • OMBが省庁横断型プロジェクトによるアーキテクチャ構築に資金提供
  • FirstGov.govがG2C及びG2Bの最初のオンライン窓口に
信用
  • e-Authenticationイニシアティブを通して安全なやり取りと本人確認を実現 各業務計画に安全とプライバシー保護を組み込み
  • 訓練と奨励
資源
  • 成果が上がり国民への影響が大きい計画への資源の移動
  • 実行を監視するための方策を設定し活用
  • 職員・委託業者に新しい専門的知識を身に付けさせるためのオンライン訓練
関係者の抵抗
  • 議会の各委員会を関与させるための総合的戦略の策定
  • 大統領マネジメント協議会メンバーによる集中的討議
  • 省庁横断での成功による成果評価¨ 関係者への戦略の周知

出展: 2002年2月27日付け「電子政府戦略」)


   それから、各イニシアティブの概要は後で触れるとして、ここでもう一つ電子政府イニシアティブの推進体制について触れておきたい。
   ブッシュ政権は、電子政府イニシアティブの実行のための最大の障害の一つが「変化に対する各組織の抵抗」であるとして、これを克服すべく、大統領マネジメント協議会を活用して各政府機関幹部の確約を取り付けつつ、図表4のような管理構造を構築している。

図表4 電子政府イニシアティブの管理構造

(出展: 2002年2月27日付け「電子政府戦略」)

   図表4は、電子政府イニシアティブの管理にあたり、OMBが予算承認権限に基づく管理を行っていること、そして、G2C、G2B、G2G、IEEの各区分を統括する「ポートフォリオ管理者(Portfolio Manager)」を置いていることなどを示している。「電子政府戦略」によると、この4人のポートフォリオ管理者はOMBが雇っており、また各個別イニシアティブを統括する「管理パートナー(managing partner)」を大統領マネジメント協議会メンバーから募って(各イニシアティブの事務局は管理パートナーが設置)、他の政府機関がパートナーとして関係するイニシアティブに参画するという体制がとられている。

   また、図表4は、クリントン政権下で連邦政府のITマネジメントを行うために設置されたCIO(Chief Information Officer)協議会の微妙な位置づけをも示していると言えそうだ。「電子政府戦略」によると、CIO協議会は4区分に属さない横断的イニシアティブであるe-Authentication(電子認証)イニシアティブとエンタープライズ・アーキテクチャに関与するほか、CIO協議会メンバーが4区分に対応する「ポートフォリオ運営委員会(Portfolio Steering Committee)」を形成し、各ポートフォリオ管理者及び各政府機関のプログラム管理者を支援することとなっている。
   このように、ブッシュ政権下での電子政府はCIO協議会ではなくOMBが主導権を握っており、OMBは大統領マネジメント協議会を活用してその実行を担保している。電子政府の成功の鍵は「マネジメント」にあるとの認識のもとで、トップダウン型の管理手法がとられていると言うことができるであろう。

   なお、上述のポートフォリオ運営委員会のうち政府機関間(G2G)に対応するものには、連邦政府関係者だけではなく、州政府や地方政府の代表者も参画するとされており、連邦政府と州・地方政府との連携を図ろうとする姿勢が窺える。

   また、連邦CIOであるMark Forman氏の職務において「マネジメント」問題の比重が高まる中で、純粋に最先端の「技術」をフォローして電子政府に反映させるという必要性を満たすため、2002年1月、OMBの連邦CTO(Chief Technology Officer)ポストにNorman Lorentz氏が任命された。Norman Lorentz氏は郵便事業庁や民間企業のCTOなどを務めた経歴を持つ人物で、連邦CTOとしてMark Forman氏を補佐し、24の電子政府イニシアティブを技術面からサポートすることとなった。

←戻る | 続き→

| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は Ryohei_Arata@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.