4. 「2002年電子政府法」
電子政府を一層推進するためには、行政命令により設置された組織や単年度毎の予算措置に依存するのではなくしっかりとした法律的根拠付けが必要であるとして、1年半前の駐在員報告でも触れたように電子政府推進法案が提案されていた。そして、テロ事件などもあって少し時間がかかったものの、2002年12月17日、ブッシュ大統領の署名により「E-Government
Act of 2002(2002年電子政府法)」が成立し、主要部分は2003年4月17日に施行された。
この「2002年電子政府法」は、OMB(大統領府行政管理予算局)による電子政府への取組みである電子政府局、CIO協議会及び電子政府基金に法的根拠を与えるとともに、電子署名の互換性確保やインターネット・ポータルの維持、インターネットによる情報提供の改善、プライバシー・ポリシーの指針策定など連邦政府の各機関による電子政府への取組みを規定している。以下に、その概要について整理してみたい。
(1) OMBによる電子政府への取組み
「2002年電子政府法」は、OMBに電子政府局を設置し、同局に大統領が任命する局長を置くことを規定している。電子政府局は2003年4月17日付けで設置され、Mark
Forman氏が局長に任命された。これによって、これまでOMBのAssociate Director for IT & E-Governmentという肩書きで実質的連邦CIOとしての職務にあたってきたMark
Forman氏とそのスタッフの組織と業務に、晴れてしっかりとした法律的根拠が与えられることとなった。
電子政府法はまた、クリントン政権時代の1996年に行政命令によって設置されていた各政府機関のCIO等で構成されるCIO協議会(www.cio.gov)にも法律的根拠を与えている。CIO協議会の議長は従来どおりOMBの行政管理担当次長が務め、電子政府局長がその代理としてCIO協議会を実際に運営する。
CIO協議会は従来どおり、連邦政府における情報資源の管理に関する政策・要件の勧告、アイデアや先進事例などの共有等を行うこととされている。
さらに電子政府法は、電子政府イニシアティブを支援するため2002年度予算以降すでに予算化されていた「電子政府基金」を法定するとともに、既述のとおり2003〜2007年度の予算計3億4,500万ドルを認可(authorization)している。(図表7)
これらの他、電子政府法はOMBによる取組みとして、電子政府構築において受注契約者からの革新的なソリューションの提案を奨励するための政府全体のプログラムを確立すること、及び電子政府報告書を毎年作成し議会(上院・行政問題委員会及び下院・行政改革委員会)に提出することを定めている。
(2) 連邦政府各機関による電子政府への取組み
電子政府法は、連邦政府各機関による電子政府への様々な取組みを規定している。主なものを以下に記す。
@ 電子署名の互換性確保
- 各政府機関は、電子署名の使用・承認方法がOMBが定める電子署名に関する政策・手続きに準拠することを保証。
- 連邦ブリッジ認証局の設立・運営のためのGSA(一般調達局)の予算(2003年度800万ドル、以後必要な額)を認可。
A 連邦政府のインターネット・ポータル維持
- 連邦政府のポータルサイト(FirstGov.gov)を維持。
- その保守・改良のためのGSAの予算(2003年度1,500万ドル、以後必要な額)を認可。
B 政府情報へのアクセス改善
- インターネットによる政府情報の国民への提供を改善するため、「政府情報に関する省庁間委員会」を開催し、政府情報の組織化・分類に関する基準等に関する勧告を策定。
- 政府機関のウェブサイトが直接リンクを貼るべき事項等に関する指針の策定。
- OMBはOSTP(科学技術政策局)等と協力して、連邦政府が資金提供する研究開発に関する情報をすべて統合したレポジトリ(保管場所)及びウェブサイトの開発・維持を保証。そのための予算(2003〜2005年度各200万ドル、2006〜2007年度必要な額)を認可。
C プライバシー保護
- 政府機関は、身元特定可能な情報を扱うITの開発・調達またはITを用いた情報収集を行う前に、プライバシー影響評価を実施。OMBはそのための指針を策定。
- OMBは、政府機関のウェブサイトのプライバシー・ポリシーに関する指針を策定。
D IT要員の育成
- 人事管理局は、OMB、CIO協議会及びGSAと協議の上で、連邦政府のIT要員のニーズ分析、それを満たすために欠如しているIT研修の特定、IT研修の評価等を実施。
- 各政府機関は、人事管理局、CIO協議会及びGSAと協議の上で、IT研修プログラムを策定・運営。
- 人事管理局は、連邦政府のIT要員を連邦政府以外に出向させることを可能とするプログラムを策定。
E 「節約額分配(Share-in-savings)」イニシアティブ
- 政府機関の業務改善のためのソリューション契約において、業務改善によって生み出された金銭的節約額(収益増等を含む)をその政府機関と受注契約者がインセンティブとして分け合うことができる「節約額分配(Share-in-savings)契約」を可能とする。(2005年度末までの時限措置)
F 「連邦補給計画(Federal Supply Schedule)」を通じた州・地方政府によるIT調達
- 州・地方政府は、GSAの「連邦補給計画(Federal Supply Schedule)」を通じてIT調達を行うことができる。
G コミュニティ・テクノロジー・センター
- OMBは、国民にコンピュータ及びインターネットへのアクセスを提供しているコミュニティ・テクノロジー・センターの評価を実施。
H 先端的ITによる危機管理の向上
- OMBは連邦危機管理庁(国土安全保障省)と協議の上で、災害への準備、対策及び被害管理においてITを効果的に利用するための調査を実施。
I インターネット・アクセスにおける格差
- GSAは、全米研究協議会傘下の全米科学アカデミーに依頼して、オンライン政府サービスへのインターネット・アクセスにおける格差に関する調査を実施。
J 地理情報システム(GIS)の共通プロトコル
- 地理情報に関する協力及び標準の使用を促進し不必要なデータ収集をなくすため、OMBは、NIST(国立標準技術研究所)他の政府機関や民間、州・地方自治体などと協力して、地理情報の開発、取得、維持、配布及び応用に関する共通プロトコルの開発を促進。
なお、電子政府法はこれらの他にも、「Federal Information Security Management
Act of 2002(2002年連邦情報セキュリティ管理法)」と呼ばれる連邦政府の情報セキュリティ強化のための規定を含んでいる。これは、各政府機関に対するNIST(国立標準技術研究所)が策定する情報セキュリティ標準への準拠の義務付け、「2000年政府情報セキュリティ改革法」により実施される各政府機関のリスク管理評価の恒常化などを規定する法律で、電子政府法とは別に検討されていたが最終段階で電子政府法に組み込まれたものである。(この「2002年情報セキュリティ管理法」部分の規定については2002年12月17日に即日施行されている。)
電子政府の推進のために情報セキュリティの確保は不可欠なものであるが、それだけでも非常に大きなテーマであるので、ここではその詳細は省略させていただく。
(来月に続く)
(参考文献)
「The President's Management Agenda」(8/25/2001)
(http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2002/mgmt.pdf)
「E-Government Strategy」(2/27/2002)
(http://www.whitehouse.gov/omb/inforeg/egovstrategy.pdf)
「E-Government Strategy」(4/17/2003)
(http://www.whitehouse.gov/omb/egov/2003egov_strat.pdf)
「E-Government Act of 2002」(12/17/2002)
(http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d107:HR02458:|TOM:/bss/d107query.html|)
「Agencies hesitate to fund e-gov」(Government Computer News、2/24/2003)
(http://www.gcn.com/22_4/news/21223-1.html)
(参照URL)
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2002/mgmt.pdf(図表1関連)
http://www.whitehouse.gov/omb/inforeg/egovstrategy.pdf(図表2、3、4関連)
http://www.results.gov/agenda/scorecard.html(図表5関連)
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/2003egov_strat.pdf(図表6関連)
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d107:HR02458:|TOM:/bss/d107query.html|
(図表7関連)
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2004/sheets/itspending.xls(図表8関連)
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