2003年6月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国における電子政府関連政策の動向
(その2)


(3) 連邦政府のIT投資及びアーキテクチャ構築に関する原則

 上述のように、2002年7月25日付けガイダンスでは、Mark Forman体制下でのFEAの位置づけや従来の取組みとの関係、その他電子政府イニシアティブの共通基盤となる用語群、標準、技術モデルなどが取りまとめられている。
 ここではそのうち、連邦政府のIT投資及びアーキテクチャ構築に関する原則について、その概要を記しておく。これらの項目自体は1999年9月のフレームワークで定義されたものであるが、その後の技術進歩などを踏まえた解説が加えられている。

@ 標準 〜連邦政府の相互運用性標準の確立
 連邦政府は、公開されており集団の合意によって維持されるインターフェース仕様によって構成要素の相互関係が完全に定義されるような、自主的な業界標準を採用し、これらの標準仕様を満たす構成要素のみを広く調達すべき。
 非独占的(non-proprietary)なシステム・アーキテクチャ及びソリューションを目標とし、特に政府機関のITシステムにおいて作成される記録は、独占的(proprietary)なソフトウェアに依存してはならない。

A 投資 〜技術投資と連邦政府の業務およびアーキテクチャとの調整
 投資の決定は、連邦政府の業務ニーズに沿った業務上・アーキテクチャ上の決断に基づくものでなければならない。電子政府ソリューションの威力は既存の機能や組織の境界を越えた統合によって発揮されることが多いことも踏まえることが必要。

B データ収集 〜データ収集の負担の最小化
 共通の語彙およびデータ定義を含むデータの標準化は、達成困難ではあるが肝要。従来それぞれ隔離されたデータの集合となっていた各組織や機能の境界を越えて機能する電子政府ソリューションにとって、これは特に重要。
 また電子政府ソリューションでは、新しい有権者による自動アクセスを通じた直接的なデータ収集が行われることも多いため、「1回の入力で何度も使用する」という原則に、これまでより広い枠組みの中で取り組むことが必要。

C 安全性 〜無許可アクセスからの連邦政府情報の保護
 連邦政府情報への無許可アクセスを防止するために、リスクや緊急事態の分析、適切な緊急時対策の導入を含む、安全の監視と計画を適切に行うことが必要。
 情報の安全性の要件は「信頼性のあるネットワーク」を構築するだけでは達成できない。

D 機能性 〜共通の機能および顧客に基づく標準化の活用
 連邦政府諸機関は、特定の機能性を得るために設計された再利用可能な構成要素を開発または設計するか、アーキテクチャ構成要素を購入すべき。共通の機能や顧客に関する標準化は、連邦政府諸機関によるタイムリーな変化の導入に役立つ。

E 情報へのアクセス 〜情報へのアクセスの提供
 連邦政府は、複数のアクセス・ポイントの設定や情報収集・取引・分析のサポートなどにより、政府の公開情報への多様なアクセスを奨励すべき。
 情報へのアクセスと表示には、広範な利用者およびアクセス方法への十分な適応性がなければならず、これには知覚障害者によるアクセス可能な形式も含まれる。

F 実証済みの技術 〜実証済みの市場技術の選択と導入
 システムは、世界的なデータ階層およびプロセス境界に基づいて開発され、柔軟性を最大化するために切り離されておくべき。新技術または実証済みの技術を導入する際にリスク軽減戦略を十分に考慮することは、諸機関が変化に対応する上で役に立つ。電子政府ソリューションは、業界・政府の広範な支持を得ている新たな主流技術に重点を置く必要がある。

G プライバシー 〜1974年プライバシー法の遵守
 国民がデータを提供または入力する際には、必ず情報要請の目的を含むプライバシー警告が提供され、市民に情報を提供するか否かの選択権が与えられるべき。情報が当初の意図とは異なる目的に使われる場合には、別のプライバシー警告が提供され、この場合も市民は情報を提供するか否かの選択を許可されるべき。
 また、政府が維持するプライバシー情報は、正しく保護されなければならない。

 いずれの項目も「なるほど」と思わせられるものであるし、また標準、情報へのアクセス、プライバシーなど如何にも米国らしい内容を含むものもあって興味深い。

 なお、標準については2002年7月25日付けガイダンスの別項で解説されており、さらに添付資料としてブラウザ、セキュリティ、プライバシー、障害者アクセスなどに関する「自主的業界標準」のリストが添付されている。
 電子政府においては、あくまでもANSI(米国規格協会)、NIST(国立標準技術研究所)、IETF(Internet Engineering Task Force)、IEEE(米国電気電子学会)等の「開かれた(open)」(=妥当な料金で誰でも利用でき、合意過程が業界全体に開放された)標準が望ましいのであるが、W3C(World Wide Web Consortium)等の組織やJava、J2EE等の規格は「ある程度」開かれているに過ぎず、現実の世界は独占的(proprietary)な、部分的に開かれた、そして完全に開かれた規格の広範な組み合わせによって成り立っている。
 そこで、ガイダンスでは開かれた標準ではなく自主的業界標準に重点が置かれているということである。

 

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