2003年7月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

バブル崩壊後のシリコンアレーの現状


3. ネット・ベンチャーの顛末(ケーススタディ)

  ここで、バブル崩壊によってシリコンアレーがどうなったのかをより具体的に把握するため、シリコンアレーの代表的なネット・ベンチャーのうち8社(コズモ、レーザーフィッシュ、アイ・ビレッジ、プライス・ライン、ダブル・クリック、SNAZ、ミュージック・ブールバード、ウェブ・マインド)について、その顛末を少し詳細に見てみることとする。これら8社は業態も様々であり、その顛末も様々で、これですべてを網羅していると申し上げるつもりはないが、全体としてシリコンアレーの状況をよく表していると思われる。

(1) コズモ(Kozmo)

・企業名
Kozmo
・創業
1997年4月
・業務内容
オンライン宅配業務
・現在の状況
2001年4月に業務停止。
・破綻理由
ビジネスモデル自体の評価は高く、上場後も都市部では人気が高く、業務そのものは順調であったが、エリアの拡大とライバルとの価格競争で、厳しい経営が続いていた。
会費制などの戦略を取れなかったのが敗因と言われる。
・推移
2000年時点では主要5都市で営業を行っていた。将来はこれを30都市にまで拡大する計画を発表するなど、急激なエリア拡大戦略による債務過多が破綻の主たる原因となった。
スターバックス・コーヒー社との5年間の共同マーケティング契約やその他のファーストフード店、ビデオレンタルのブロックバスター社などとの提携も、利用者にとっては非常に高評価であった。
都市部では黒字化を達成しつつあったが、過疎地や地方での赤字の拡大が、キャッシュフローの行き詰まりを来した。
・MEMO
その当初より、ビジネスモデルとしての評価とは別に宅配業務ならではの、商品配達処理手続きの高効率化が必須と言われていた。
2000年時点で同社従業員数は2,000名以上。しかし、本社勤務はわずか150名と、宅配部門の負担が特に都市部以外で大きくのしかかっていた。
最盛期には会員数は40万人。ボストン、サンフランシスコ、ニューヨークにおいては利益を生み出していたと言われる。
2001年春に同業ライバル社の「アーバン・フェチ社(UrbanFetch)」を買収、再建を目指すが、直後の2001年4月に業務停止。

(2) レーザーフィッシュ(Razorfish)

・企業名
Razorfish
・創業
1995年1月
・業務内容
WEB開発全般/コンサルティングサービス
・現在の状況
大幅に規模を縮小して事業継続中。
・破綻理由
内部の経営権争いと、経営戦略の混迷。景気後退による受注金額の低迷。
・推移
多額の資金を元にライバル社を次々と買収し、巨大企業化した。
2000年夏に経営陣の内部で衝突があり、組織内の混乱が発生。その後事業を拡大する方向に走るが、景気後退に押され徐々に縮小化。
1997年に高額なSOHO地区のオフィスに移転したことや、移転した際の常軌を逸したパーティーなど、若年層の起業家が陥る問題点を漏れなく抱え込んでいたと言える。
・MEMO
大手投資グループのオムニコム社の第一期投資対象企業の一つ。しかしその後投資家グループとの軋轢や、同様にオムニグループより投資を受けた幾つかの企業との提携など、起業家の意に沿わない指示などにより、経営者らは次々と離脱。その後も経営は一時混迷を極めた。
初期のWEBデザイン業から、徐々にインターネット関連のコンサルティング業務にまで事業を拡大。買収した企業のクライアントを軸に売り上げを伸ばした。
しかし2000年には初のマイナスとなった為、2001年2月には全従業員数の約20%にあたる400名という大規模な解雇を実施。メーカーやソフト会社などの直接営業との競争は、現在も厳しい。
最盛期には世界8カ国に14オフィスを構え、各国での提携企業も多かったが、現在では可能な限り縮小の傾向。
2001年にはケーブルテレビ局HBOの自社番組用サイト開発を受注し、またワイヤレス化への対応を押し進めるなど、新たな分野への意欲は十分ではある。

(3) アイ・ビレッジ(i-Village)

・企業名
i-Village
・創業
1995年9月
・業務内容
女性をターゲットにした課金制コミュニティサイトの運営
・現在の状況
経営継続中。しかし経営は厳しく、株価も低迷。
・破綻理由
コミュニティサイトというビジネスモデルの選択ミスと、eコマースに関しての力量不足、経営の多角化と買収を繰り返してライバル社との競争を有利にするなど多額の資金を必要とする戦略の多用、などの複数要因の重複。
・推移
ウーマン・ドットコムなどのライバルとの競争と、早期に実施した課金制が利用者離れを加速し、かつ有効なスポンサーや売り上げを維持できなかった。1999年には1億ドル近くの損失を計上。投資家などからの非難を受け、資金が枯渇した後に事業を縮小。
・MEMO
2001年迄の経営に関し、投資家らが証券会社のメリル・リンチ社を相手取り証券詐欺に関しての訴訟を起こすなど、問題の多い経営であったことが判明。
その後はユーザーの年齢層を高めに設定し、医療関連からのスポンサーを取り付けるなど、新展開に着手。2000年7月にはベビー用品ネット・ショップのBabygearにi-Baby部門を売却するなど、経営のスリム化と再編を行い続けている。
しかし常に女性向け雑誌の出版社や放送局などの各種メディアによる買収の噂が絶えない。
ライバル各社も同様に低迷する中、再度のビジネスモデルの大きな転化を図らなければ、今後の再上昇も難しいと見られる。

(4) プライス・ライン(Priceline)

・企業名
Priceline
・創業
1998年4月
・業務内容
オンラインの航空券チケットの逆オークション販売
・現在の状況
業務継続中であるが、業績は低迷中。
・破綻理由
業務の多角化に伴う顧客サービスの低下による利用者離れ。同時多発テロ事件による旅行利用者数の落ち込みと、ライバルの攻勢に対する対応不足。
・推移
その業務形態と、法律分野に熟知した知的財産権の保有方法など、その起業初期には大きな話題となった。
その後航空券以外にも自家用車や自動車用ガソリン等、複数の商品を扱うようになってきたが、購入したチケットが交渉価格で買えなかったりするトラブルが続発。訴訟も含めた問題となり、評価は低下。
当局の査察が入るなどすると共に、航空券は格安販売サイトが、他商品は大手物販業の参入が打撃となり、売り上げは低迷。
同時多発テロ事件による旅行業全体の落ち込みと、航空会社の破綻を機とした航空会社自らのチケットの格安販売が、同社の凋落を更に加速した。
・MEMO
取扱商品の多角化と期を一にする顧客サービスの問題が、サイト離れを促してしまった。それまでの徹底したコマーシャル攻勢の負担や、チケット販売後のサービスのトラブルなどから、一時はサイト閉鎖の危機にまで見舞われたが、その後堅実な経営を軸とした再建の努力によって、2001年第1四半期に黒字を計上した。
交代した経営陣による軽量のラジオ・インターネット宣伝は経費負担を減らし、かつ認知度を上げながら好感度を増したといわれる。
親会社のウォーカー・デジタル社は知的財産権のみを扱い、幾つかの別業種も運営。サイト運営のフランチャイズなども行う。

(5) ダブル・クリック(DoubleClick)

・企業名
DoubleClick
・創業
1996年2月
・業務内容
オンライン広告のネットマネジメントサービス
・現在の状況
経営継続中。現在は良好。
・破綻理由
オンライン広告がTVやラジオのように広告媒体として認知される前に個人情報関連の訴訟などに巻き込まれて、本来の業務に支障を来した。更には不景気傾向とも相まって厳しい経営が続いた。
・推移
アトランタでの起業後シリコンアレーに移転。同業のモデム・メディア・ポッペ・タイソン社の一部門と合併。2000年初頭に個人情報の取り扱いに関して訴訟問題となり、投資家や銀行などからも不安視されたのち、年末には大量解雇を実施し、経営をスリム化。
また既存の大手広告代理店やテレビ局/出版社など広告シェアを奪い合う業界から圧力もあったと言われる。
しかし地道な経営努力と適切な経営判断により2002年第1四半期には遂に創業以来の実質黒字を計上し、その後も利益を伸ばし続けている。
・MEMO
経営者には過去にも十分な企業経営の実績があった、希有な例。その為、大きな経営ミスは見られず、景気と訴訟による打撃が大きな問題であっただけである。広告主の意向に沿って複数のサイト上で広告バナーを順にローテーションさせていく手法で成功した。
WEB独特の広告戦略で、オンライン・マーケティングの草分けといえる。

(6) SNAZ

・企業名
SNAZ
・創業
1999年
・業務内容
モバイル機器でのショッピングカートサービス
・現在の状況
2001年8月業務停止。
・破綻理由
モバイル機器の普及の遅れによる、顧客の獲得不足。
・推移
2001年にモバイル関連へ業務をシフト。その後は順調に業務を拡大していった。
目的別、かつ複数の店舗にまたがるショッピングリストの制定が出来るショッピングモールや、電子財布(モバイル・ウォレット)が利用可能であるなどの各種サービスは一部利用者には好評であったが、なにぶんワイヤレス機器の普及の遅れは、利益を生み出すほどの利用者の獲得には厳しい状況であった。
・MEMO
創業者の兄弟がショップリスト・ドットコム(ShopNList.com)として創業。販売主からの多様なeコマース関連の情報ポータルとして業務を開始。2001年3月から モバイル関連のeコマース分野に特化。
ビジネスモデルの評価は悪くはないが、少なくとも数年ほど時期尚早だったと言われる。
モバイル機器へのビジネスモデルの変更後は、Palm、AT&T、Nextel などの大手と10件程の大きな案件の契約を成立させていた。
それら顧客企業のインフラ整備を進めてきたが、その成立前にキャッシュフローの悪化による経営危機が訪れた。
しかし同時多発テロ事件前まで、ワイヤレス関連は業務低迷による破綻が少なく、将来への期待は大きかった。競争も比較的少ない分野であり、近年の携帯電話の普及率などに鑑みると、当面の運転資金が用意されていれば、現在でも成長を続けていた可能性は高い。

 

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