2. 「North American Global IPv6 Summit 2003」の概要
去る2003年6月24〜27日、北米版IPv6サミットである「North American IPv6 Global
Summit 2003」がカリフォルニア州サンディエゴのサンディエゴ州立大学(SDSU)で開催された。私も前半の1日半ほど参加することができたので、気づいた点を以下に挙げておく。
- 主催は、IPv6普及促進のためのワールドワイドなコンソーシアム「IPv6 Forum」(www.ipv6forum.org)。同フォーラムは1999年以来、年数回のペースで世界各地でIPv6サミットを開催してきており、米国では2002年6月以来の開催。
なお、今回のIPv6サミットの実際の企画運営は、北米ベースのIPv6推進のためのボランティア組織である「North American
IPv6 Task Force」(www.nav6tf.org)が行っている。
- 参加者は、主催者に聞いたところ約380人とのこと。産学のIPv6関係者は顔を揃えているというところであろうが、「盛り上がっている」という雰囲気ではない。政府関係ではDOD・軍関係者の参加が目を引いた。また、シスコ、HP、クアルコムなどから13の出展があった。
なお、日本からは、Mインテック・ネットコアの荒野高志氏が日本のIPv6の状況についてプレゼンを行ったほか、NECと日立がプレゼン。また、IPv6普及・高度化推進協議会とNTT/Verioが展示ブースでデモを行ったほか、日立も出展しており、それなりの存在感があった。(もっとも、他の日本の各ベンダーは7月2〜4日の「NetWorld
+ Interop 2003 Tokyo」の準備で手一杯だったようですね。)
- 今回のIPv6サミットでは、IPv6に関する規格やIPv4からの移行技術の概要、研究開発や製品化の状況、普及のための課題、国際動向などについて、産学官から30以上に及ぶプレゼンが行われた。私は前半の半分程度しか聞けなかったのであるが、その範囲で総括すると、以下の通り。
IPv6関連の規格やIPv4からの移行技術という観点では、IPv6は既に「ready」であると言うことができる。
主要ネットワーク機器プロバイダは、既にIPv4からIPv6への移行のための技術(デュアルスタック、トンネリングなど)を組み込んだ機器を出荷している。
Windows XP やMac OS XなどOSレベルでも最新版でIPv6への対応が行われている。
アプリケーションレベルでの対応が遅れており、IPv6普及のためにはアプリケーションの開発普及が必要。
次世代インターネット技術の共同研究コンソーシアム「Internet2」では、高速バックボーン・ネットワーク「Abilene」においてIPv6がサポートされており、これを活用した先進的アプリケーション等の研究が行われている。
- 今回のサミットで最も注目を集めたのは、やはりDODの軍事用情報ネットワークGlobal Information
Grid(GIG)のIPv6への全面的移行決定であった。その詳細は後述するが、この決定が米国におけるIPv6の普及の起爆剤になることを期待する声が数多く聞かれた。
- 「IPv6を巡る米国の状況は日本の2〜3年遅れという感じではないか」というのが、今回のサミットに参加した日本の方々から聞いた平均的な印象であった。
なお、今回のIPv6サミットの概要やプレゼン資料の多くは、ウェブサイト(www.usipv6.com)でも見ることができるので、適宜御参照ありたい。
3. 米国におけるIPv6の普及状況と課題
今回のIPv6サミットにおけるシスコのTony Hain氏のプレゼンの中で、米国におけるIPv6の普及状況の概要と普及に向けての課題が紹介されていたので、図表3及び図表4でご紹介しておくこととする。
図表3 米国におけるIPv6の普及状況の概要
6bone研究開発ネットワーク
| 大学、政府、研究機関、ベンダー、ISPなど185サイトが登録。
2006年7月1日までに運用停止予定。
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学術研究界
| 全米・地域インフラが徐々にデュアルスタックに移行。下流のサイトは計画段階。
国際協力が進行中。
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消費者
| アプリケーションや機器が今年になって出てきている。
今後1年半ほどで本格的に立ち上がると予想。
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政府
| IPv6対応ネットワークの早期採用者。
North American IPv6 Task Force(NAv6TF)はIPv6推進の主要ターゲットと位置づけており、サイバー・セキュリティ国家戦略の観点からIPv6の試験を要請。
IPv6を実運用ネットワークとして利用するには実証プロセスが必要。
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企業
| ベンダーの開発用ネットワーク以外でのIPv6導入はわずか。
アーキテクチャやマネジメント関係者の学習曲線に期待。
アプリケーションやOSのアップグレード戦略が普及の契機となる。
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相互接続点(Exchange Point)
| 6TAP(Energy Sciences Network(ESnet)他)、6IIX(KDDI子会社TELEHOUSE)、NY6IX(Stealth
Communications)、PAIX(Switch and Data)、S-IX(NTT)等がある。
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ISP
| 顧客の需要があることが重要。
はっきりした需要が無い?
各社とも試行的ネットワークは立ち上げている。
Cable & Wireless、Hurricane、MCI、Qwest、Sprint、Stealth、NTT/Verioなど各社。
消費者サービスの欠如は明白。
ダイアルアップ、DSL、ケーブル、ファイバー・トゥー・ザ・ホーム(FTTH)など。
投資収益率(ROI)の観点からの正当化が求められる。
特に現在の経済環境下においては。
ワイヤレス業界
| 米国のワイヤレス・サービス・プロバイダは、IPv4のアドレス配分方法では十分なアドレスが得られず、実現可能なビジネスモデルが構築できないと考え始めている。
将来の事業展開に向けてIPv6を検討し、2003年に研究開発、2004〜2005年に試験運用、2006年に事業化を考えている事業者もある。
いくつかのワイヤレスLAN(802.11)のホットスポットは、既にIPv6の接続サービスを提供している。
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(出展: Tony Hain氏「IPv6 in North America」から作成)
図表4 米国におけるIPv6の普及に向けた課題
アプリケーション
| アップグレードの入手可能性、保証期間など。
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ネットワーク管理
| 規定の策定、課金、管理ステーション、オペレータの訓練など。
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セキュリティー
| IPv4と比較した場合のフィルタリング装置や侵入検知装置の成熟度。
新しい攻撃経路の可能性や移行期の相互作用。
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普及のためのコストと投資収益率(ROI)
| ソフトウェア/ハードウェアのアップグレード、訓練など。
新しい機器、アプリケーション、サービスのビジネスモデル。
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(出展: Tony Hain氏「IPv6 in North America」から作成)
なお、上記の図表3で、North American IPv6 Task Force(NAv6TF)が米国政府に対しサイバー・セキュリティ国家戦略の観点からIPv6の試験を要請したという記述がある。IPv6の特徴のところでも触れたように、IPv6ではエンド・トゥー・エンドでのセキュリティ対策を想定して最初からIPSecが標準実装されているが、図表4のIPv6の課題にも出てくるように、実際に運用するためにはまだまだクリアしなければならないことも多い。そこで、米国政府としてIPv6のセキュリティについてきちんと評価してもらおうというわけである。
2003年2月にブッシュ政権が公表したサイバー・セキュリティ国家戦略「The National Strategy To Secure
Cyberspace」では、インターネットのメカニズム面でのセキュリティ確保策としてIPv6について以下のように記述されている。
「米国はIPv6への移行の利点とそのための障害について理解した上で、IPv6ベースのインフラへの移行プロセスを策定しなければならない。連邦政府は自身のネットワークの一部へのIPv6の採用と民間部門の取組みとの連携によって、この理解増進のための主導的役割を果たすことができる。商務省はIPv6に関して、政府の役割、国際的な相互運用性、移行期におけるセキュリティ、コストと利益等を調査するためのタスクフォースを組織する。このタスクフォースは、影響が及ぶ可能性のある産業分野からの協力を要請する。」
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