2003年9月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国におけるユーティリティ・コンピューティングの動向


3. 大手サービス提供業者のサービス内容の例

(1) IBM

IBMが提供するLinux Virtual Servicesは、標準的なインテル系サーバーの3分の1程度の処理能力を「サービス・ユニット」として月額300ドルで提供する。また、必要に応じてサービス・ユニットごとに最大10%の演算処理能力を無料で追加することができる。
http://www-3.ibm.com/services/e-business/hosting/mgdhosting/linux.html

<メリット>

  • 顧客はIBMのホスティング・センター「eBusiness Hosting Center」を利用するため、自社にメインフレームを設置する必要がない。

  • IBMは、ApacheベースのLinuxウェブ・サーバーをはじめ、データベース「DB2 Universal Database」「WebSphere」といったアプリケーションやNAS(Network-Attached Storage )も提供するため、ソフトウェアのアップグレードといったメンテナンスを必要としない。

  • 現在、インテル系サーバーが1,000ドル以下で購入できるため、300ドルのコストは高いという指摘もあるが、同サービスにはサーバー管理費やその他に発生する関連サービスも含まれているため、TCO(total cost of ownership)を抑えることができる。

<デメリット>

  • 自社とIBMのデータ・センターとをつなぐ堅牢なネットワーク・インフラが必要となることから中小企業には不向きだと思われる。

  • 自社で確立したシステムとの互換性をどこまで持たせられるかという問題が考えられる。

(2) HP

 HPの「Utility Data Center(UDC)」は、通常のグリッド・コンピューティングのように無数の外部端末を統合したものではなく、あくまで同社が保有するデータ・センターで利用するハードウェアをJavaベースのソフトウェア「Utility Controller(UC)」を使って統合したもので、同社のHP-UNIXメインフレーム、インテル系サーバー、ストレージ、スイッチ機器を提供する。同社はすでに1,000件以上のライセンスを提供している。
http://h30046.www3.hp.com/solutions/utilitydata.html

<メリット>

  • ピーク時に使用するCPUの個数を53%減に、通常時の利用個数を79%減にとどめることができるとの試算がある。

  • 顧客はHPのデータ・センターを利用するため、人件費および施設の確保にかかるコストなどを大幅に削減できる。

  • サーバー・メーカーとして業界で定評のあるCompaq Computerとの合併により、双方の技術力を組み合わせた幅広いサービスを提供できる。

  • UDCはオープン・システムを採用することによって、異なるメーカーのハードウェアおよびOSをサポートする。

  • UDCのサービスは、企業が設定した内容に基づいて、自動的にコンピュータ処理能力を調節できる。顧客企業は最大で50%のコスト削減を実現できる。

<デメリット>

  • ハードウェアの最低価格が高いため中小企業向けではないと思われる。

(3) EDS

EDSは、IBMやHPのようにハードウェアからソフトウェアまで幅広い技術を自社で開発するだけの規模はないため、複数の企業と提携することによって、16ヵ所の主力データ・センターを中心に170ヵ所におよぶ企業所有および地域データ・センターを通じてサービスを提供している。
同社が現在提供するのは、アプリケーション(提携先=SAP、Oracle、PeopleSoft)をはじめ、ストレージ、ウェブ・サーバー、ミッドレンジ・サーバー、メインフレームである。
EDSのサービスは、「インフラ・オンディマンド」「アプリケーション・オンディマンド」「BPOオンディマンド」の「3層式」と呼ばれている。インフラ・オンディマンドはメインフレームの処理能力、サーバー資源、ストレージ容量を提供する。アプリケーション・オンディマンドは、ウェブベースでSAPやOracleの企業向けアプリケーションを提供する。そして、BPOオンディマンドは、保守管理、苦情処理、CRM(顧客管理)、技術サービスといったBPO(Business Process Outsourcing)を提供する。
http://www.eds.com/services_offerings/so_ondemand_overview.shtml

<メリット>

  • 幅広いプラットフォームに対応しており、利用している既存のアプリケーションの移植が容易である。

  • 顧客側のニーズに応じて、段階的にサービスをEDSに外注していくことが可能である。

<デメリット>

  • ブランド名や技術力ではIBMやHPに若干劣るため、他社との提携によって広範囲のサービスを提供しているものの、提携業者の市場動向によって、EDSのサービス自体が影響を受けるというリスクを抱えていると考えられる。


4. 主な大型契約例

ユーティリティ・コンピューティングの大型契約の主な事例としては、以下のようなものを挙げることができる。

@ American ExpressとIBM Global Services
IT関連業務全般のアウトソーシング契約で、7年40億ドルで2002年2月に締結。具体的には、American Expressのウェブ・ホスティングとその管理、決済処理、ネットワーク・サーバー、データ・ストレージ、顧客サポートが含まれる。40億ドルは「基本料金」で、それにCPUやストレージ機器、帯域幅、顧客サービス関連サービスの使用量によって追加課金される。
この契約を受けて、American Expressは関連業務に携わる世界中の従業員約2,000人をIBM Global Servicesに移籍させる。

A J.P. Morgan ChaseとIBM
データ処理に関するインフラストラクチャーをはじめ、データ・センター、顧客サポート、データ・ネットワーク、および音声ネットワークのアウトソーシング契約で、7年50億ドルで2002年11月に締結。50億ドルは「基本料金」で、それにCPUやストレージ機器、帯域幅、顧客サービス関連サービスの使用量によって追加課金される。
この契約を受けて、J.P. Morgan Chaseの関連従業員約4,000人がIBMに移籍する。ただし、J.P. Morgan Chaseは事業開発部門をはじめアプリケーションの配備やその他の中核業務を独自に管理する。
同契約で注目されるのは、特にデータ処理やデータ保存・管理に関して、使用された電算機能や容量の分だけ請求されるというUMI(utility management infrastructure)が採用されることである。本件は、オンディマンド・サービスでは最大級の契約である。

B VisteonとIBM
Fordから2000年に独立した自動車部品製造大手Visteonは当初、親会社であるFordの設備を使っていたため独自の業務用高位コンピュータと関連システムを所有していなかった。そこで、Visteonは各種ハードウェアとソフトウェアを買いそろえる代わりに、在庫・供給網管理、部署間の通信網といった業務すべてに必要なコンピュータ・システムと電算処理をIBMにアウトソーシングする契約を締結。10年20億ドルが基本契約で、Visteonは毎月、使用した電算処理の量に応じた料金を支払う。

C Procter & GambleとHP
電算業務とデータ・センターを含む通信網、コンピュータ・ハードウェアおよびソフトウェア、顧客サービス関連業務のアウトソーシング契約で、10年30億ドルで2003年4月に締結。
この契約を受けて、P&Gは世界各地で雇用するIT関連従業員約1,850人をHPに移籍させる。
なお、HPはこの契約を、同社が2003年5月に新しく打ち出した戦略「Adaptive Enterprise(適応型企業)」の事例として宣伝している。

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