2003年11月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国のB2C電子商取引の動向

図表4に示すように、2003年第2四半期の小売業における電子商取引額は125億ドルで、総売上高の1.5%となっている。
また、図表4から前年同期比のグラフを作成したものが図表5であるが、2001年第3四半期がテロ事件の影響を受けたことを考慮すれば、2001年を底に(といっても前年同期比で2ケタの伸びであるが)小売業における電子商取引が順調に成長していることがわかる。

このようにB2Cの電子商取引が順調に伸びている理由としては、もちろんインターネット人口の拡大(2003年7月時点で約1億8,000万人で普及率は約64%)やブロードバンドの普及(2003年6月末時点で約2,000万世帯で世帯普及率は約2割)を挙げることができるが、それだけではなく、ウェブ上での商品表示の改善やショッピング・カートや決済手段等の各種機能の洗練による使い易さの向上も見逃せないであろう。

余談になるが、図表3における旅行斡旋・予約のデータからも窺われるように、米国では航空機による旅行でeチケットが広く普及してきている。そこには、航空会社の強引とも思えるeチケット誘導策があるようで、私は実際に、空港のeチケットのチェックインコーナーは待ち時間なしにもかかわらず、紙のチケットのチェックインコーナーには長蛇の列ができている、という状況に一度ならず遭遇した。これは、受付の人員を前者に重点的に配置している(eチケットは端末機でセルフサービスでチェックインできるが荷物を預ける人のためある程度の人員を配置しておく必要がある)ためであり、日本人よりは気が長いアメリカ人も、流石にマネージャーを探して「何でこっちにもっと人を配置しないんだ」と怒っていた。もっとも、マネージャーの方は「並ぶのがいやなら次からeチケットにしてね」ってなもので、私はeチケットにできる時(国際線だと紙のチケットになるようだが)は必ずeチケットにするようにしている。

2. オンライン小売業界の動向

(1) オンライン小売業者の業績動向

米国のオンライン小売業界団体のShop.orgと調査会社Forresterが、指標としている主要オンライン小売業者130社を選び出してその業績を調べた結果、米国のオンライン事業(旅行やイベント・チケットを含む)は2002年に前年比48%増の売上高760億ドルを記録し、史上初めて利益を計上した。2003年には売上高1,000億ドルの突破が確実と予測されている。また、2002年通年決算で営業利益を計上したオンライン小売業者は全体の70%を占めており、前年の56%から大きく増加したという。
同調査によると、勝者は、既存カタログ販売業者(俗に言う通販事業者)のオンライン部門であり、同部門は22%の営業利益率(税引き前、負債金利支払い前)を達成した。一方、伝統的小売業者のオンライン部門も堅調で、営業利益率7%を達成。しかし、オンライン小売専業業者(実在店舗を持たずウェブサイトだけで小売業を営む)は赤字決算となった。
また、2003年におけるオンライン販売の商品種別成長率は、保健および美容が93%増、アパレルが54%増、花・カード・贈答品が 50%増、スポーツ用品が47%増、宝石・贅沢な装飾品が47%増、住宅が40%増、食品・飲料品が40%増などと予測している。

なお、小売業界調査会社Plunkett Researchによると、淘汰を経たB2C業界を見た場合、利益率の高い事業は、「競売(eBay)」「旅行(Expedia)」「質の高いパーソナライゼイションで長期に及ぶ顧客との関係を確立した小売事業(Amazon)」「多種多様の選択肢を簡単な手続きによってカスタマゼイションできるサービス(Dell)」という4種類に分類できるという。(業績の良いB2C業者を並べただけではないか、という気もするが。)

(2) オンライン小売業界の最近の傾向

@ マルチチャンネルの戦略的活用
市場調査大手Harris Interactiveによると、消費者は以前よりもカタログとウェブサイト、そして実在店舗を行ったり来たりしており、消費者はそれぞれにおけるシームレスなサービスを求めているという。
最近のオンライン販売環境下で、カタログだけやオンラインだけといった単一販路孤立型の業態では生き残りは困難である。したがって、Toys "R" Usのように、独力でオンライン小売業者になれないと判断した伝統的小売業者は、Toys "R" UsがAmazon.comと提携したように、オンライン小売専業業者との提携関係を結ぶことでオンライン消費者の獲得に対応しようとしている。類似例として、伝統的書籍販売大手Bordersがオンライン部門すべてをAmazon.comに外注することに踏み切ったことが挙げられる。

A 「E-centives」の台頭
オンラインとの融合によって消費者に提供される購買奨励策を業界では「E-centives」と呼ぶが、近年そのE-centivesが浸透しており、中でも商品割引券(クーポン)が流行っている。基本的には、電子メールやウェブサイトでクーポンが流通し、消費者はそれをオンライン上でもオフラインでも利用できる。
例えば、Colgate-PalmoliveやHershey Foods、Gerber、Land O'Lakes、Lysolといった消費者商品製造大手(非耐久財や食品・雑貨の製造元)はクーポン・サイトにクーポンを掲載しており、消費者はそれをプリントアウトして実在小売店に持っていくわけである。
また、例えば女性向けコミュニティ・サイトiVillage.comに行って、ペット関連の電子メール配信希望の登録をすませると、2ドル分のペットフード用オンライン・クーポンの添付された電子メールが送信されてくる。消費者がその電子メール中に宣伝されているペットフード業者のリンクをクリックするとクリック・スルーでそのサイトに移動し、そこで30秒間のリッチ・メディア広告を視聴すると2ドルのクーポンが5ドルに増額される。
 その他、例えば、利用者がSmartSource.com(クーポン流通業界大手News Americaのマーケティング部門)に登録し、その際に家族構成や種々の属性情報(年齢、性別など)、ペット情報、趣味、よく買い物するお店の名前を入力すると、SmartSource.comは登録利用者に任意の日に30〜35枚のクーポン(平均14ドル相当)を配信、利用者がそのクーポンを使うたびに商品製造元はSmartSource.comにコミッション(額は秘密)を支払う、という仕組みが確立されているという。
クーポン管理会社CMSによると、2002年に消費者は前年比111%増の計2億4,200万枚のクーポンをダウンロードし、そのうち760万枚(前年比4倍以上)が実際に利用されたという。しかし、2002年通年のオフライン・クーポンは3,350億枚発行され、そのうち37億枚(31億ドル分)が利用されていることから、全体に占めるオンライン・クーポン比率はまだ微少である。

B オン/オフラインの売れ筋の違い
サイト訪問者の多いオンライン小売業者としては、Wal-MartやSears、J.C.Pennyといったクリック・アンド・モルタル(実在店舗とオンライン店舗の両方を運営する形態)が上位を占めることは今や常識となっている。しかし、その中でも高度成長を遂げるサイトと低迷するサイトがある。
例えば、台所家具販売大手Williams-Sonomaは2002年、オンライン売り上げを前年比51%増の2億ドル(同社売り上げ総額の8.5%)に大幅成長させた。また、Sharper Imageは同40%増の6,950万ドル(同13.3%)を達成した。その一方で、例えばToys "R" Usのオンライン部門は23%増にとどまり、J.C.Pennyも軟調に終わった。
こうした中で、オンライン販売業界では、サイト閲覧者をいかにして購入者にするかという点に神経をとがらせている。業界ではそれを「eShopability」と呼んでいる。業界専門家によると、オンラインとオフラインで売れる品物には違いが出てくるといい、Williams-SonomaやSharper Imageはそれを見極め、実在店舗では見つけにくいニッチ製品をオンライン販売する手法を導入している。しかし、Toys "R" UsやJ.C.Pennyは実在店舗でも自社サイトでも取扱商品が全く同じだという。

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