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98年1月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
97年の回顧と98年の展望 -4- |
(3)ブラウザを巡る争い ブラウザ戦争については、前任者がその歴史的背景からそれが意味するものまで、本誌97年3月号に詳細に報告している。インターネット・エクスプローラー4.0(IE4.0)が9月30日に出荷開始されたところで、あまり動きのなかったブラウザ戦争に動きが出て来るであろうことは誰もが予想したところだが、司法省が出てくるような局面になっていこうとは思っていなかった。ここで司法省対マイクロソフトの争いについて、少し整理してみよう。 97年10月20日、司法省がマイクロソフトのブラウザ戦略が1995年のライセンス供与に関する同意審決に違反しているとしてワシントンDCの連邦地裁に提訴した。それ以降、様々な動きが報告された。マイクロソフトの強引な抱き合わせについてのコンパック等の証言、11月4日の上院司法委員会公聴会でのマイクロソフト批判、11月13、14両日の消費者運動家ラルフ・ネーダー氏主宰のマイクロソフト「つるし上げ」会議等々。その間に皮肉なことにも、11月17日、データクエスト社が発表した97年第3四半期におけるブラウザのシェアでは、ネットスケープの57.6%に対し、マイクロソフトが39.4%と急追していることが報告された。因みに96年第4四半期では、73%対20%であった。 マイクロソフトも黙っていたわけではなく、11月10日に出した正式な反論書では、「同意審決は特定のライセンス行為について規定しているのであって、マイクロソフトがウィンドウズの機能を強化改良していくことを妨げるものではない。司法省は3年も前からマイクロソフトがブラウザをウィンドウズに統合していこうとしていたことを知っており、今になってそれを妨げることは消費者の便益を損なうものである。司法省自身、同意審決はウィンドウズにどのソフトウェアが統合されて行くかについてのマイクロソフトの判断を制限しようとするものではないとの見解を示していた。従って、司法省の今回の提訴はメリットがなく、取り下げられるべきである。」等々の主張を行った。 11月20日、司法省がこれに対する正式な回答を連邦地裁に提出した。司法省は、マイクロソフトがそのウィンドウズの独占状態を利用してブラウザのシェア拡大をプッシュしたことを証明する内部文書をこの回答の中に含めた。96年12月20日付けのマイクロソフトのアルチン上級副社長の電子メールがこれで、「IEの拡販のためには、ウィンドウズのマーケット・シェアというアドバンテージをてこにして、ブラウザを分離してではなくウィンドウズと統合することをまず考えるべきである」旨述べている。これを基に司法省は、マイクロソフトがウィンドウズとブラウザの統合を、ウィンドウズのアップグレードや新機能の統合と言うことではなく、IEのシェア拡大という目的で行ったことが明らかになったとの議論を展開している。 これらに関し、12月5日に連邦地裁において審理が行われ、11日ジャクソン判事は、仮裁定という形でその判断を下した。それは、マイクロソフトに対し、ウィンドウズ95のPCへの搭載に際して、PCメーカーにIEのバンドルを条件とすることを禁ずるようにとの命令であった。さらにジャクソン判事は最終的な本件への裁定を下すため、その技術的助言者としてハーバード大学のローレンス・レッシング法律学教授をスペシャルマスターに任命し、98年5月末までに報告を求めるとしている。 これに終わらず、12月15日、マイクロソフトは裁判所に対し、18ページにわたる上訴の趣旨を含めた審理の促進のための意見書を提出した。その中で、裁判所の仮裁定は、95年の同意審決違反について司法省が訴えていたのを越えて、独禁法上の判断までも下そうとするものであって、「エラー」であり「インアプロプリエイト」であるとしている。また、上訴中も仮裁定に従うが、PCメーカーに対して提供するのは、1)今まで通りのIEを含めたウィンドウズ95、2)IE3.0関連のファイルを外したウィンドウズ95(しかし、これは95としてのオリジナルな機能が損なわれている)、3) 95年8月に出した最初のウィンドウズ95のバージョンからIE1.0関連のファイルを外したもの(2)よりウィンドウズそのものの機能が損なわれる程度は小さい)の3つである旨を示した。 これに対し、12月17日、司法省は裁判所に11ページにわたる書類を提出し、マイクロソフトが示した上述の3つの選択肢は意味のある選択肢ではなく、その意味でマイクロソフトが仮裁定を侮辱(flout)しているとして、法廷侮辱罪(Judgment of Civil Contempt)を適用し、ウィンドウズ95の最新版からIEのアイコンやその他の見えるIE機能を取り除いたものを提供するまでは1日100万ドルの罰金を徴収するよう求めた。併せて、マイクロソフトが今後全てのOSやブラウザの出荷を行う場合、30日前に司法省に通知し、それらが仮裁定に従っていることを示すよう求めた。 12月19日、ジャクソン判事は17日の司法省の申し立てに関する簡単なヒアリングを行い、マイクロソフトに対して、同社の措置が法廷侮辱に当たらない理由を示すように求め、マイクロソフト側からの書類での提出を12月23日まで、それに対する司法省の回答を29日まで、そして技術的なヒアリングを1月13日に設定するとした。また、ジャクソン判事はその助手が行ったところ、90秒でウィンドウズからIEがアンインストールできたと語った。
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