98年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -4-


(2)上院の公聴会とクラッシュ保護法案

 上院においては、銀行・住宅・都市問題委員会の金融サービス・技術委員会(ロバート・ベネット議長、共和党、ユタ州)が、Y2K問題を、特に金融サービス産業における影響という切り口から聴いている。公聴会は97年7月10日、7月30日、10月22日、11月4日の4回にわたって開かれている。それぞれの公聴会での議論の内容は省略するが、最終的にベネット議長は以下に示すクラッシュ保護法案の提出を一連の公聴会の結論として導いてきている。 

ベネット議長が97年11月10日に提出した「97年コンピュータ改修と株主保護法(通称クラッシュ保護法、The Computer Remediation and Share Holder (CRASH) Protection Act of 1997)(S.1518)」が、唯一のY2K関連法案であろう。提出されて2読後に、銀行・住宅・都市問題委員会に付託されたまま休暇に入ってしまっており、現時点では法案の行方は不明である。しかし、後述するように法案が求める証券取引委員会(SEC)のディスクロージャー要請は指導という形でなされつつあり、法案の趣旨は一部取り込まれつつあると言うことのようでる。

ベネット議長は提出理由の説明の中で、上述の4回の公聴会での証言が本法案を提出する動機となったとし、証言の中からいくつかの発言を拾って大統領にアピールしている。Y2Kの全対策コストについては、6,000億ドルと言われており、米国GDP(7兆ドル)の10%に近いが、もし対策が間に合わなくてディザスターが起き、責任問題を訴訟で争った場合にかかるコストは1兆ドルとも予測されている。

また、Y2K問題は技術的には困難な問題ではないが、ゴールデンゲート・ブリッジのリベットをラッシュアワーの最中に全て見つけだして取り替えるという作業にも例えられるように膨大なものである。しかも残された時間は、99年12月末までではなく、98年9月までには応急処置を終えて、その後の残された期間でテストを行って問題点をつぶしていくという対応が必要であることから、もはや1年を切っていると考えるべきである。

さらに、エド・ヤルディニ氏(ドイツ・モルガン・グレンフェル主任エコノミスト)の予測によれば、Y2K問題が世界不況を引き起こす可能性が30%はあり(その後ヤルディニ氏は40%と修正している)、対応が遅れれば遅れるほどこの確率は高まってしまうとしている。既にアメリカン航空は1億ドルを、GTE社は1.5億ドルを、議員の選出州のユタ州でも4,000万ドルをY2K対策に充てると公表しているが、株主にとってはこのような投資先企業のY2K問題への準備状況についての情報公開が重要であり、そのために本法案を提出した。

(法目的)株式上場企業はそのコンピュータ・システムのY2Kへの準備状況、及び起こり得るY2K問題に係るビジネス・リスクに対する当該企業の管理能力についての情報を公開させ、もって消費者及び投資家の利益を適切に保護する(要請される情報公開)

 具体的には1934年証券取引法におけるSECへの四半期毎の報告義務項目に以下を加える。

1 当該企業の適当なビジネス単位(課、部など)毎に、Y2K対策の5つのフェーズ(認識、評価、改修、確認、実証)のどの段階までが達成されているかの記述

2 Y2K対策に発生した費用のサマリーとその後にかかる費用の見積もり

3 Y2K問題の発生により予想される訴訟費用及び法的行為(契約不履行、不法行為、株主集団訴訟、PL訴訟等)を防止するためにかかるライアビリティ経費の見積もり

4 Y2K問題をカバーする何らかの保険契約の有無及び法的措置を取られないための防止措置に関する情報

5 Y2K問題が万一発生しても主要なビジネス機能を継続することを確保するために開発した何らかのコンティンジェンシー・プランに関する情報

←戻る | 続き→



| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は hasegawah@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.