98年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -8-


6.民間におけるY2K対応の状況

最初に述べたように、民間における対応の状況については、各種の予測は出されているが、そのうちの一つをとってどうこうするのはあまり適当ではないかもしれない。従って、ここではITユーザーではなく、ITベンダーの方を見るしかないだろう。ハードウェアのベンダーはそれぞれのウェブを見てもY2K対応ページを設け、どちらかと言えば坦々と対応を行っているようである。

コンピュータの業界団体であるITI(情報技術産業協議会)も、特にY2Kのページなどは設けておらず、むしろ政府調達やライアビリティなどでベンダー側に不利な状況が現れそうになると、それを消して回るというように動いているようである。一方、当然のことながら、ソフトウェア/情報サービスのサプライヤーは、ITAAメンバーを中心にこれを大きなビジネスチャンスと見て、ユーザー側の啓蒙活動を中心にY2K対策の促進に努めている。ここではITAAの活動を見てみることとする。


(1) ITAAの活動

ITAA(Information Technology Association of America)はコンピュータ、ソフトウェア、通信の機器/サービス、インターネット/オンライン・サービス、システム・インテグレーション、プロフェッショナル・サービスまでをも含むインフォメーション・テクノロジー(IT)産業全体を範囲とする業界団体であり、9000に上る会員を擁している。しかし、会員の主体はむしろハードより、ソフト/サービスが中心であることから、2000年問題を大きなビジネスチャンスと捉え、1995年にはY2Kタスクフォースを作り、早くから様々な啓蒙活動を行っている。

その活動の中心は、1. 連邦および商業分野のITカスタマーに対するY2Kの挑戦についての教育と、それに早く対処すべきことの説明、2. 政府内におけるソフトウェア変換のための特別な資金の必要性と、それに関して新システム開発資金の保存が必要なことを議会に教育すること、3. IT産業に対する、Y2K市場のチャンスが大きいことを教育することを含む。

具体的には、以下のような事業を行ってきている。

  • 問題点を明らかにし、政策立案者やITカスタマーの啓発を行うためのセミナーの実施。米国内の主要都市に加え、北京、ロンドン、メキシコ・シティー、パリ、トロントでも開催してきている。

  • “Year 2000 Legal Advisory Roundtable”を設置し、ITAAのメンバーと伴にY2Kを巡る法的な問題点について定期的に検討を行っている。同ラウンドテーブルは連邦調達規則についてGSAにコメントを提出したり、ベンダー、カスタマー及び政府の役割と責任についてのガイドラインを作成したり、カスタマーが彼らのベンダーに送るための製品に関する質問状を作成したりしてきた。また、現在“Alternative Resolution Dispute (ADR) advocacy program”を作成中である。

  • Y2Kソフトウェア変換に関する白書を作成し、議会、政府機関及びメディアに配布した。

  • Y2Kの挑戦を明らかにし、それを修正するための機会を提供するための“Year 2000 Buyer's Guide”を作成した。 ・Y2Kソフトウェア変換に関する様々なトピックスに焦点を当てたY2Kサーベイの実施。

  • 数々の議会公聴会での証言(うちいくつかはITAA自身の要請で開かれることになったもの)。そこでY2Kの挑戦、適切に対応されなかった場合のインパクト、適切な追加的予算の必要性等を説明。

  • 一連の議会関係者へのブリーフィング。これはITAAがスポンサーとなり、上院、下院のITワーキング・グループと共同で開催しているもので、議員及びそのスタッフに、本問題に関する公共的政策のインプリケーションを説明。

  • 週刊の電子ニュース・レター“Year 2000 Outlook”の刊行。これによりY2Kの最新のニュースと情報を提供。

  • 国内で唯一のY2Kサーティフィケーションである“ITAA*2000”の設立。これはシステムやソフトウェアの開発によって、Y2K問題に最良の方法で対処した機関にITAAとしての認証を与えるもの。

  • ITAAは12月11日付けでクリントン大統領宛てにY2K問題への対処の促進を要請する書簡を送っている。民間の見解が端的に現れているので、ここに要約すると以下の通り。

     「IT産業はこれまで連邦政府がY2K問題に対して適切な対応をとって来なかったことに対する憂慮を深めている。ITAAとしては、ゴア副大統領のリーダーシップの下にタスクフォースを組織し、1)連邦政府内における問題解決のための注意を増し、2)州及び地方のY2Kへの取組みを援助し、3)民間セクターにおけるY2Kへの取組みの進捗を追跡するとともにクリティカルな業種及び中小企業の取組みの促進を図る、ことを要請したい。

    連邦政府は、1)経済界のあらゆるセクターがクリティカルなビジネス及びインフラストラクチャー・システムへの備えをするよう国家的なリーダーシップを発揮し、2)米国の通商パートナー、国際金融市場、防衛上の同盟国に対し、Y2K問題に緊急に取り組むよう促し、3)認識と評価のステージから、改修、確認、実証のステージに移り、4)州や地方政府との連携の下、あらゆるレベルの政府機関同士で、システムの互換性、ビジネス情報のスムーズな流れを確保する、ことに出きる限り迅速に取り組むべきである。

    具体的な考察と推奨として、

  • 既に 連邦政府機関のCIOはY2Kを第一の優先事項としており、適切な規模のリソースを要請しており、もはや国家的調査などを行っている段階ではない。

  • 最近、連邦政府機関はY2Kへの所要コストは38億ドルで、この期間に要する全IT予算の2%に過ぎないとの予測をまとめているが、関連産業界では、実際のコストはその何倍にも達するはずと予測している。

  • にもかかわらず、連邦政府機関は、Y2Kにかかるコストを既存の各省庁のIT予算内で吸収すると発表しているが、これは実際のコストを無視した近視眼的な考え方である。これらのコストは、兵器システム、機密システム、建築物やその他の施設に埋め込まれた技術の改善費と、州政府の情報システムの連邦負担分も含むべきであることから、独立した予算項目が立てられるべきである。連邦議会は、98会計年度はそれに失敗しているが、単なる組替えでは他の分野にしわ寄せがいくだけであることを理解すべきである。

  • 労働省はY2Kに対応できる技術を有している人材の動員可能性を追跡し始めるべきである。

  • 通商代表部、国務省、商務省、及び国連の米国大使は、グローバル・コミュニティーにおけるY2K問題への準備状況を追跡し始めるべきである。

  • 連邦調達規則は大変改善されてきているが、さらに連邦機関が民間のY2K製品とサービスから最大限の実際的利益を受けられるように、引き続きレビューされ、改善されるべきである。

  • 連邦機関、特に商務省と中小企業庁は、未だ完全にY2K問題のインプリケーションを理解しておらずリソースも十分でない中小企業向けに、精力的に公共の啓蒙キャンペーンを実施すべきである。

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